13-1.魔法少女の鬼
薄暗い部屋の中で、少し型落ちしたパソコンのモニターだけが一際光を放っている。
それを、この部屋の主がじっと見つめていた。マウスで画面をスクロールさせて、表示されている文字や画像を追っていた。
モニターに照らされている顔は少し脂ぎっていて、不摂生な生活をしているためか肌が荒れていた。年の頃四十代半ばくらいの男は、そんな健康状態を意識はしていない様子だ。
部屋の中には、彼が収集した地元アイドルのグッズがところ狭しと置かれている。模布市はローカルアイドルが盛んな街。そこの市民である彼も、追っかけている対象が何人かいた。
が、今の彼が夢中になっているのは別の対象。
パソコンに表示されているのは、国内でよく使われているSNS。そこで魔法少女のハッシュタグを入力すれば、彼女たちの目撃情報やカメラで撮られた画像が大量に出てくる。
魔法少女たちの活躍は、既に模布市民にとっては日常となりつつあった。突如として出てくる怪物の被害には辟易としつつも、それを追い払ってくれる可憐な少女たちへの人気は集まるばかり。
ネット上には、彼女たちのファンアートが日々投稿されて、中にはグッズを自作する者まで出てきている。
この男に、何かを作り出すような技量や発想はない。試しに描いてみた絵は下手くそで、人様に見せられるような物ではなかった。
ネットの向こうには、そんな下手な絵でも投稿する人間がいる。男はどちらかといえば、そういう作品をせせら笑う立場にあった。
五人の魔法少女と、覆面男と白い獣。誰が推しかの話題も連日飽きることなく繰り返されていて、男はその議論に参加するのがもっぱらの日課。
彼の推しは断然、シャイニーセイバーだ。他の魔法少女と比べて圧倒的に年上。明らかに少女じゃない。けどそれがいい。いい歳した女が恥ずかしい格好をしているというミスマッチ感が、彼の心に刺さった。
あの女のことを知りたい。ただのファンなんて嫌だ。関わりたい。仲良くなりたい。そしてゆくゆくは。
画面の向こうにしかいない魔法少女と己の交友を夢見て、男はニンマリと笑った。
彼は魔法少女シャイニーセイバーが好きだった。彼女に関する情報は何でも集めた。誰よりも詳しい自信があった。
しかし、セイバーが結局誰なのかを知らなかった。
そんな彼の目に、ある投稿が留まった。
セイバー、入院していたのかもしれない。そんな内容だった。
あるアカウントの持ち主が先程、病院の窓からピンク色の魔法少女が飛び出すのを目撃したという投稿。
すぐさま、詳しく教えてくれという返信が大量につく。正確にはいつくらいか。どこの病院なのか。
男も矢継ぎ早に質問を投げた。しかし返事は来なかった。
そのアカウントの主は、あまり社交的な性格をしていないらしい。大量に飛んでくる返信に困惑したのか、直後に投稿を削除。アカウントも非公開にしてしまった。
なんでなんだ。シャイニーセイバーの正体に迫れるかもしれない、重要な情報なのに。
なんで教えてくれないんだ。お前の、セイバーへの愛情はそんなものなんだな。所詮、俺の熱意には勝てない雑魚が。
まったく理屈が通らない考え方で相手を見下してから、しかし男はセイバーが入院という事実を思い出した。
魔法少女も傷付くのか。怪我をすれば入院するのか。
自分と同じ人間なのか。
その神秘性が揺らいだことに失望する人間もいるかもしれない。しかし彼は逆だった。
彼女をより身近な物に感じられた。
そして、セイバーのことをもっと知りたいと考えた。そして会いたい。仲良くなりたい。親密な仲になりたい……。
「探す。絶対に探す……」
ぶつくさと呟きながら、ネット上の情報を片っ端から探した。セイバーの正体を探るために。
探ってどうする? それはもちろん。
「俺は、魔法少女と付き合うんだ。け、け、結婚、するんだ。そのためならなんでもする。なんでも……なんでも……」
うわ言のように繰り返しながら、彼はパソコンを操作し続けた。
ふと、画面の隅に広告が表示された。ローカルアイドルのイベントの告知だ。
そろそろ節分が近いのもあって、アイドルたちが鬼を意識した仮装をしていた。と言っても、虎柄の服を身に着けて角のカチューシャをつけた程度の安っぽいもの。
男はその広告を煩わしそうに消す。そんなもの、今はどうでもいい。セイバーの調査と操作が優先だ。
鬼というワードだけは、彼の頭に残ったけれど。
仕事の鬼なんて人間が、世の中にはいるらしい。働いていない彼にはわからなかった感覚。
しかし、今なら少し理解できるかも。
俺は魔法少女の鬼だ。魔法少女にかける情熱なら誰にも負けない。
彼には対面で話せる友人はおらず、話し相手は画面の向こうの人間と文字による交流をする者のみ。
自分以上に魔法少女を気にかけている人間がいる可能性を完全に頭から追い出して、彼は情報収集を続けた。
――――
退院祝いの主役である愛奈が飲みすぎないように気にかけながら酒を与えていると、疲れた彼女はすやすやと寝息を立て始めた。
風邪を引かないよう、俺はそっと毛布をかけてやった。
この拠点の一軒家にも、寝泊まりするための用意は最低限あるから。さすがにこの人数みんなが寝ることはできないけど。
主に、こうやって愛奈が疲れて寝てしまった時用に、俺が用意したものだ。
他の大人組も、かなりおとなしくなっていた。宴はお開きだな。
遥と俺は部屋の隅で、一緒にスマホの画面を見ていた。さっきの話の続きをするために。
そう、義足作りのことだ。
「色々あるねー。メカメカしい格好いいのとか、肌の質感を真似た素材で覆って本物っぽくしてるのとか。電動のは……高いなあ」
義足と検索しただけで多くの情報が出てきた。




