12-45.退院記念パーティー
俺たちの冬休みを終えて学校が再開して、さらに数日経ってから愛奈はようやく退院した。
それを祝って、みんなで拠点の家に集まってパーティーを行うことに。愛奈のたっての希望だからやるしかない。大人たちがこぞって酒を持ってきては、今夜は飲むぞと気合いを入れていた。
「えー。この度は皆さんに、大変なご迷惑とご心配をおかけしました! お医者さんの頑張りのおかげで、なんとか傷跡が残らないように治してもらいました! じゃーん!」
乾杯の音頭を任された愛奈が、服をめくり上げてお腹を見せる。確かに傷跡は、至近距離で凝視しないとわからない程度の薄さになっていた。
それはわかるのだけど。
「わざわざ見せなくていいから」
目のやり場に困るから。なのに愛奈は俺の方に迫ってきて。
「なによー。お姉ちゃんの体見てドキドキしてるのー? こんなの、変身してる時は見慣れてるでしょ。ほらほらー」
「寄るな。あっちいけ」
「愛奈さーん。早く乾杯してくださーい」
「そうですよ先輩。早く飲みたいんですから!」
「弟を誘惑するなら飲み会始まってからにしなさいな」
「もー。しょうがないわねー。今日はたくさん飲みましょう! 乾杯!」
酒が飲みたくて仕方がない大人たちが囃し立てて、愛奈はみんなに目を向けて応えた。
そして大人たちは好き放題に飲み始めた。
この時期だから庭先に出てのバーベキューは寒すぎるとみんな避けて、和室に新聞紙を敷いてホットプレートで焼き肉を始めていた。リビングではテーブルに各種の料理が並んでいた。スーパーで買ってきた寿司とか揚げ物とかの惣菜だ。あと大量の酒も。
「お前たち。酔っ払うのはいいけど、魔法陣は崩すなよ。そろそろ石が完成しそうなんだから」
度が過ぎ飲み方をする大人たちに、少年姿のラフィオがリビングの魔法陣を守るように立ちながら警告する。けど。
「もー。ラフィオは心配性なのよ。崩れちゃったら、また描き直せばいいじゃない」
「そうですよ。ところでラフィオくん、魔法の使い方教えてくれないかしら。今度テレビで特集していい?」
「おいこら! 離れろ! おい抱きつくな!」
樋口と渋谷が両方から絡みついてきて、体を押し当てて来たものだからラフィオは大慌てだ。赤面して、なんとか逃れようとしていた。
「ふふっ。小さな男の子には刺激が強すぎるかしら?」
「警察がそういうことを言うな!」
「もー! 樋口さんも澁谷さんも離れてください! ラフィオはわたしのものですから!」
「お前のものでもないけどな」
「ラフィオも、小さくなれば逃げられるじゃん!」
「小さくなった途端にお前に掴まれそうで怖いんだよ」
「そんなことしないもん! それに、ラフィオは樋口さんたちとわたし、どっちが好きなの!?」
「お前だけど……仕方ない」
渋々といった様子でラフィオが妖精になる。樋口たちからは逃れられたけど。
「わーい! ラフィオモフモフー!」
「ぐえっ!? おい! 掴んでるじゃないか!? そんなことしないっていってただろ!?」
「あ! つい……ラフィオを見たら我慢でなくて」
「そこは我慢しろ!」
「やだー! モフモフー!」
「あああああ!」
こいつらは相変わらずだな。樋口と澁谷は、ちびっ子たちに優しげな目を向けてから酒に戻っていく。
「なるほどねー。モテモテのラフィオくんとか、なかなか面白いものが見れたわねー。てか樋口さんも澁谷さんも、男に飢えてるのかしら」
「どうでしょうね。彼はちょっと小さすぎる気がしますけど」
「そうねー。剛くんも年下ではあるけどね」
「確かに。けどもう、大人同士ですから」
麻美と剛もまた、少し離れたところでその光景を見つめていた。
大人になれば年の差と言うほどのものではないカップルは、ラフィオが迫られているのはさすがに年の差が大きすぎると思っているらしい。
樋口たちが出会いの無さに絶望してるかは知らないけど、いつもなら俺にくっついてくるはずなんだよな。今日はそれがない。
というのはどうやら、パーティーの主役に気を遣っているかららしい。
「ほらほら悠馬飲んでるー?」
愛奈が俺の隣を譲らず、ぐいぐいと体を押し付けてくる。薄い体だけど、柔らかさも温もりも感じるから、居心地が悪い。
「飲まないから。俺未成年」
「いいじゃない。今日くらいは」
「よくないんだよ」
「ねえ悠馬。もっかいお腹の傷跡見て」
「見ないからな!」
服をめくり上げようとした愛奈のてを止める。放っておくとこのまま脱ぎかねない。
「おい。遥、アユム。助けてくれ」
俺はキッチンにいるふたりに声をかけた。料理ができないアユムでも、教えてもらえばそれなりに手伝える。向上心はある奴だし、遥の手伝いをしてるらしい。
そんなふたりでも、俺が愛奈に絡まれていれば可及的速やかに止めに来るはずだ。なのに今回は妙に静かで。
「え。あ。うん。ほらお姉さんやめてください! 今日の主役だからって、悠馬にセクハラ良くないです!」
俺に言われてようやく、はっとしたようにこっちに来た。松葉杖を使った、少しぎこちない動き。
その後からアユムが、呆れたようについてくる。手にはおにぎりがたくさん乗った皿。
「えー? セクハラじゃないわよー。姉弟のスキンシップ。よくあるやつ。気にしない気にしない」
「します! もう、目が離せないんですから。ていうかお姉さん、ちょっと格好いい所見せたかと思ったらだらしなくなるの、やめてください!」
「ずっと格好いいのは、疲れるのよねー」
「それ、格好いい時間をもっと増やさないと言えないことですから。それより悠馬。話があるんだけど」
「な、なんだ?」
俺の隣に座った遥は少し見を乗り出して真剣な表情を見せた。
「わたしね、そろそろ義足にしようと思うの。似合うかな?」
「それは……どうなんだろうな」
「似合うと言って」
無茶を言うな。とはいえ、遥の言ってほしいことはわかる。
「義足にも色々あるんだよな。似合うやつ、一緒に探すか」
ほら。笑顔になった。




