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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第12章 仇敵

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12-43.夢を叶えろ

 黒タイツが二体いる。和寿が家族を守るために対峙しているけれど、俺の目の前であっさりと殴り倒された。

 妻と娘の悲鳴。黒タイツはそのまま和寿に止めを刺そうと拳を振り上げていた。


 そしてあの野球少年が、父を助けるべく飛び出して。


「やめろ! 俺に任せろ!」


 倒れている和寿を飛び超え、俺は黒タイツの体に突っ込んだ。奴の拳が俺の背中を打つ。ああ、痛いな。


 もっと痛いことはたくさんあったぞ。俺を舐めるんじゃねえ。


 勢いのままに黒タイツを床に押し倒すと、後頭部を打った黒タイツは昏倒。俺はそのままナイフで奴の首をかき切った。

 黒タイツはもう一体いたな。


 後ろを見ると、まさに黒タイツが野球少年の腕を掴んで捻りあげているところだった。


「やめろ。その腕は……」


 すかさず俺は、声をかけながら黒タイツに肉薄。脇腹を刺す。


「フィ……」

「ぐっ!?」


 痛みに悶絶しながら、奴は俺の首を掴んできた。締め上げられる痛みと苦しみに耐えながら、俺はナイフを抜いては刺すのを繰り返した。


「その子の腕はな。野球をするためにあるんだよ……だから、お前なんかが壊すんじゃねえ……」

「フィ……」


 刺され続ければ黒タイツは絶命したのか、俺の首を離しながら倒れ、消滅していく。

 俺もまた、床に膝をついて大きく咳き込んだ。かなり苦しかったからな。


「だ、大丈夫ですか……」


 和寿が気遣わしげに声をかけた。そこには、少しの怯えが混ざっていて。

 俺の手にはナイフ。目の前には、家族を殺した憎い男。


 殺すなら今だ。これ以上のチャンスはない。



 ふと横を見れば、さっき助けた野球少年が俺に心配そうな目を向けていた。

 この子は俺を、敵だと思っていない。


 じゃあ、敵として振る舞うわけにはいかないな。


「ああ。心配ない」


 俺はナイフを折りたたんでポケットに入れた。立ち上がり、和寿に手を伸ばす。彼を助け起こして、家族もみんな無事だと確かめる。

 特に彼の息子だ。


「腕、傷まないか?」

「はい。なんともありません。あの……」

「?」

「俺、この前あなたをバットで殴りかけて」

「あれは俺が悪い。気にするな。けどこれからは、バットは野球だけに使えよ」

「! はい!」

「悠馬ー!」


 今度はライナーが、こっちに駆け寄ってきた。


「無事!? ……そうだね! よかった!」

「キエラたちは?」

「逃げました! 倒しそこねちゃった。押してたんだけどねー。わたしがどれだけ蹴っても、ティアラのコアは露出しないし」


 硬い素材のフィアイーターなら、蹴り続ければ折れるとか割れるとかしてコアが露出することもあるけど。人の体みたいな柔らかい相手だとキックだけじゃうまくいかないか。


「ティアラを、動けなくなる寸前までボコボコにはしたよ! それでキエラにも攻撃しようとしたら、まずいって思われて」


 逃げられたか。


「その人たちも無事みたいだね。うん、良かった良かった。外のお巡りさんたちに保護してもらわないとね」

「警察署勤務の警官は、お巡りさんじゃないからな」

「まあまあ。いいじゃん」


 いいけど。


 殴られた和寿も、大した怪我ではないようで。自分の足で警察署の正面口まで歩いている。

 周囲の警戒をしながらだから、その間無言の時間が流れていた。


 署内は不気味なほどに静かだったから、敵が近づいてくればすぐにわかる。だから黙っている必要はないのだけど。


 和寿は、未だに俺を警戒しているように、チラチラと目を向けてきていた。



 ふと、壁に張られたポスターが目に入った。海への不法投棄はやめようと呼びかけているポスターに、イメージとして海面で跳ねるクジラの写真が添えられていた。

 不意に、死んだ兄貴のことを思い出した。


「海の研究者……」


 ふと呟いたそれに、全員の視線が向いた。


「いや。なんていうか。死んだ兄貴の夢がそれだったんだ。模布港水族館の潜水服を見て、海の研究をしたいって志して大学受験した」

「そう……ですか」


 その夢を奪った事実に、和寿がうつむいた。

 違う。落ち込ませたいわけじゃない。


「なあ、酒井さん。あんたの息子にも夢があるんだろ? 野球選手になりたいっていう」

「……はい」

「だったら、それを叶えるために手伝ってやれ。それがあんたの、親としての務めだ。……それが出来たら、俺から言うことは何もない」

「……はい! ありがとうございます!」


 ようやく、彼は笑顔を見せた。


 するとライナーが俺に寄ってきた。


「うんうん。心配ないみたいだねー。やるじゃん、自制心ってやつ、ちゃんとあるじゃん」

「普通にあるんだよ。お前は俺をなんだと思ってるんだ」

「それはー……わたしの彼氏かなー」

「話をずらすな」

「あ……」

「……なんだ」

「あれ。お姉さん」

「え」


 ライナーの視線を辿る。本当にセイバーがいた。それから、それを支えるように歩く樋口も。あとラフィオとハンターとバーサーカーも後ろからついてきてた。

 血を流しているようだった。


「姉ちゃん!」


 即座に駆け寄る。

 向こうも俺に気づいたようで、俺を見て気まずそうな顔になった後、酒井たちを見てさらに気まずそうになった。


「だから言っただろ。危ないから寝てろって」

「あー。悠馬? これは違うの。怪我したとかじゃなくて。傷口が開いただけよ」

「最初からその心配をしてたんだよ」

「大丈夫大丈夫。大したことないから。ほら、血も止まりかけてる」

「樋口。すぐに病院に連れて行ってくれ」

「わかってるわ。それからあの家族もね」

「樋口さん。ちょっと離してね」

「あ。待って」


 怪我しているのに、思ったよりもずっとしっかりとした足取りで、セイバーは酒井和寿の方に歩み寄った。

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