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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第12章 仇敵

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12-42.再び対面

 警官も、警察署内で起こる全てのことを知ってるわけではない。特に県外から来た公安の事案なんて知ってる人の方が少ないだろう。


「一家が怪物絡みの事件で保護されてるはずなんだ。見かけた人はいないか?」


 他の警官たちを見回しながら言う。

 俺は今、魔法少女の協力者である覆面男なわけで。街を守るヒーローだから、協力したい気持ちもあるはずで。


「あ! あれだきっと! そこです! さっき、そこの奥の部屋に隠れているのを見ました!」


 警官のひとりが声をあげた。思い出したことで反射的に言ってしまったのだろう。

 協力的なのは嬉しいな。ただ。


「そう! そこね! 鏡で確認した部屋から移動してるみたいで、しかもあちこち同じような恐怖で満たされてるから探せなかったの!」


 キエラにも聞こえてしまったことが問題だ。奴はすぐに駆け出した。


「お前たちは避難してくれ。建物内に黒タイツがいたら倒してくれると助かるが、ここの対処は俺たちに任せてくれ!」


 警官たちに言って、俺もキエラを追いかける。

 途中、ライナーたちの横を通ることになったのだけど。


「行かせない!」


 ティアラが立ち塞がろうとした。俺は速度を落とさなかった。なぜなら。


「他に気を取られてる暇なんてあるのかな!?」


 ライナーがティアラの腹に膝蹴りを食らわせたから。そう動いてくれることが想像できたから、俺は止まらなかった。


 ティアラの体が数センチ浮き上がってから倒れる。苦しそうな息が漏れる音がした。

 そこに追撃を加えるでもなく、ライナーは俺を追いかけた。酒井と鉢合わせする時は俺の近くに。さっき決めた方針に忠実だ。起き上がったティアラもすぐに追いかけるけど、ライナーには追いつけない。


「ねえあなた! 残りの義肢も作って! 貰ったのも無くしたから代わりを作って」


 身勝手すぎる要求をしながら部屋の扉を開けたキエラの背中に、ライナーの蹴りが直撃した。

 キエラは開きかけていた扉を半分ぶち破る勢いで、部屋の中に入ることになった。少し遅れて俺も続く。


 簡素な部屋だ。部屋の真ん中に長机と、パイプ椅子が四つ。ホワイトボードが隅に置かれている。

 普段何に使われているのか、よくわからない部屋。けどその隅に、酒井一家はいた。


 母親が床に座りながら、子供ふたりを抱きかかえるように守っている。父親、和寿はそれを庇うように前にいた。


 ただならぬ雰囲気に、娘の方が泣きべそをかいている。たぶんずっとそうだったのだろう。キエラが恐怖を使って家族を探していたというが、娘のものだったんだ。


 俺は覆面を被ったまま、酒井一家と対峙していた。

 彼らは、双里悠馬が覆面男だと知っている。実感がどこまであるかは知らないけれど。


 一瞬、無言の時間が流れた。ほんの一瞬だけだった。


「痛いじゃない! 魔法少女なんて大嫌い! ティアラ! こいつを押さえつけてて!」


 ライナーに蹴られてかなり痛がってるキエラが復活した。魔法少女の渾身の一撃を食らってなお、まだ元気そうだ。こいつも意外にタフだな。


 あるいは、蹴られた瞬間に一瞬だけ獣モードへ変化していて、耐久力を高めていたのかも。それくらいは平気でやりそう。


 ティアラはすぐにやってきて、ライナーに襲いかかった。蹴り返そうとしたライナーに、ティアラは果敢に突っ込んでいって取っ組み合いに持っていこうとする。

 とにかく、非戦闘員たちをここから逃さないと。


「お前たち、逃げろ。ここは危険だ。さあ、立って」


 俺は和寿の方に近づき、彼の手を取って立たせた。その際に力を込めたり、殴ったりとかはしてない。したいと一瞬頭をよぎったけれど、理性が押さえつけた。

 その和寿は俺ではなく、さらに向こう側を見ているようで。俺は咄嗟に振り返った。


「ちょっと! 邪魔しないで! あんたは引っ込んでて!」


 パイプ椅子を掴んだキエラが襲いかかって来るのが見えた。


 後ろから闇討ちするなら叫ぶ意味などないのに、やってしまうのはキエラの浅はかさ。後先考えない奴というのはよくわかっている。

 体を反転させながら、こちらに振られるパイプ椅子を掴む。片手で振られる鈍器を受け止めるのは容易い。


 そして片手でナイフをポケットから出してナイフを展開。キエラの方へ振る。無事な方の、椅子を持っている左手へ。


 もう片方の手まで奪われることを恐れたのか、キエラはあっさり椅子を離して跳びのいた。けど、諦めてはない様子で。


「お金ならたくさんあげるから! わたしの手を! 足を! 作って!」

「お、お断りだ!」


 俺の背後で、和寿が震える声で拒絶を伝えた。


「みんな行こう。帰ろう。父さんが悪かった。これからは真面目に働くから」


 そして彼は、家族を促して逃げた。壊れた扉から部屋の外に出る。追いかけようとしたキエラの前に俺が立ちはだかる。


「お前のこと、絶対に許さない。ぶっ殺してやる」

「わたしだって! あんたのこと嫌い! 殺してやるわ!」


 なぜか俺も、こいつから相当な恨みを買っているらしい。

 理由は察してるけどな。きつい一撃を食らわせたし。


「いいぜ。殺してみろよ。どうやるんだ? でかい獣になって噛み付くか? やってみろ。その腕じゃ無理だろうけどな!」

「ムカっつく! 絶対! 絶対! 殺すから! 覚悟しなさい!」


 ああ。語気が強いのは、打つ手がないことを隠すためか。


 俺がナイフの先端をキエラに向けて一歩踏み出すと、奴はわかりやすくビクリと震えた。

 こいつは今戦えない。殺すなら今かも。俺はキエラに向けてさらに一歩踏み出して。


「フィー!」


 部屋の外から黒タイツの声が聞こえた。それから悲鳴と鳴き声も。

 あの家族が襲われているのは間違いなくて。


「……くそっ!」


 逡巡は一瞬だけ。俺は踵を返して声の方へ駆け出した。

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