12-40.銃身を曲げればいい
セイバーは警棒が離れた瞬間に、自分から踏み込んで行ってフィアイーターの懐に入っていく。
拳銃が発砲されたが、弾丸は警棒のフィアイーターの背中に直撃。痛そうな咆哮を上げて、巨大な警棒が倒れた。セイバーを巻き込んでだ。
「あ、まずい」
警棒から少し遅れてセイバーのバランスが崩れて倒れ込む。そのセイバーを拳銃は狙っていて、もう一度撃とうとして。
「おらっ!」
間一髪。拳銃の側面にバーサーカーがショルダータックルを食らわせた結果。狙いが大きくずれてセイバーは助かった。
「セイバー! 樋口さん! 無事ですか!?」
ラフィオに乗ったハンターが、周りの黒タイツに矢を放ちながら尋ねる。
フィアイーターの気配を悟れるラフィオだから、真っ先にここに来たのだな。キエラたちの居場所ではなくて。
「無事よ! 警察署内に黒タイツとキエラたちがいる。そっちの対処もしないと」
「それはライナーたちに任せよう。僕たちはこいつを早く片付ける!」
「ねえラフィオ! あのフィアイーター、銃の形してる!」
「そうだな! 実際撃てるのか!?」
「撃てるわ! 気をつけて!」
「わかった。バーサーカーあいつから片付けろ」
「おう任せろ!」
床に落ちている盾を掴んだバーサーカーは、それを構えるでもなくフリスビーのように投げた。フィアイーターの銃身に激突して大きく上を向いた。
その隙にバーサーカーはもう一枚盾を拾って、やはり構えずにフィアイーターに肉薄。盾で何度も銃身を殴打した。
「フィアッ!? フィ、フィアァ!!」
両手を振り回してバーサーカーを遠ざけようとするフィアイーターだけど、バーサーカーの方が腕力があり、グイグイ来るからできていない。次に発砲して遠ざけようとした奴だけど。
「フィアッ!?」
弾丸は出なかった。度重なる攻撃により銃身が曲がってしまったらしい。一応、これは精密機械だものな。
もちろん時間が経てば歪みは回復で直るだろうけど、それまではバーサーカーが一方的な蹂躙を行えるわけで。
「おいこらコアはどこだ見せろ! さっき銃口覗いた時は見当たらなかったなおい!」
銃口を覗いてはいけません。暴発でもしたら即死だから。
そんなアドバイスをするのは後だ。バーサーカーは銃の撃鉄を掴んで思いっきり力をかけて折る。
彼女が銃の機構について詳しいとは思わないし、なんか飛び出てて持ちやすいパーツがあるから掴んだだけだろうけど、これで更に発砲が遠のいた。
撃鉄を折られた勢いのまま倒れたフィアイーターの上にバーサーカーがのっかり、隙間を探しては手を入れて引っ張った。バキバキと音をさせながら、銃のパーツが分解されていく。というか壊れていく。
「おい!? コアはどこだ!?」
「たぶんグリップの方よ!」
「グリップってなんだよ!?」
「手で握るところ! 持つ箇所!」
「ここか!」
フィアイーターの体を押さえつけながら、隙間を探してペタペタと巨大なグリップ部分を触ったバーサーカーは、途中から面倒だと感じたらしい。
「引っ張って無理なら押すしかねえよな!」
と、グリップの側面に手を当てて、体重をかけながら強引に押し込んだ。
乱暴がすぎる殺人心臓マッサージめいた動きにより、グリップの側面が音を立てながら割れた。
そのヒビに指を入れてバキバキと開いていけば、中の闇が露出。
「あった! 食らえ! バーサーカーパンチ!」
安易な技名と共に、見つけたらしいコアに拳をぶつける。フィアイーターは黒い粒子と共に無残な形の銃になった。
バーサーカーの戦いと同時に、警棒のフィアイーターとも戦いが繰り広げられていた。
体をブンブン振り回すフィアイーターに、ラフィオが正面から突っ込んだ。一瞬動きが止まったそいつの腕に噛みついて、暴れさせないよう試みる。
「うわ! こいつ硬い! ねえラフィオ! このフィアイーター矢が刺さらない!」
「ふぁふほは!」
乗っかってるハンターに、噛みついてる状態で返事を期待するな、みたいな態度でラフィオは返事をしている。
ラフィオの上から、つまり至近距離でフィアイーターに矢を放ったハンターだけど、金属製の警棒には傷がつかない。
「わたしがなんとかするから、ハンターもそいつの体を抑えるのを手伝ってて!」
剣に光を集めたセイバーが、警棒フィアイーターの後ろに回る。
「これも鉄で出来てるのよね。わたしが全力を出せば斬れるはず」
「セイバー待ってください! 全力出しちゃ駄目です!」
「でも、わたしじゃないと殺せないのよ、こいつ。樋口さん。あなたも押さえてて」
「……わかったわ。無理はしないで」
セイバーの言うとおりなのは樋口にもわかっていた。仕方なくラフィオたちの手助けをして、フィアイーターの足を踏みつけながら体を押さえる。
剣を強く握り直して、足を少し開いた姿勢で立ち、剣を振り上げたセイバー。そのまま全身に力を込めて、振る。
刃はまっすぐに警棒に入り、両断した。フィアイーターの顔のあるあたりで鉄の棒がスッパリと切れて、上のほうが自重で落下しガタンと重い音をたてた。
「あ、やばい。傷口開いた」
「セイバー!?」
同時に、全身で力んでいたらしいセイバーの脇腹から、ダラダラと血が流れ始めた。




