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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第12章 仇敵

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12-33.少しだけ甘やかしたり

 ティアラからすれば、キエラを殺しにかかるのはどの敵も同じに思える。みんな本気だし、キエラが執心しているラフィオだって、キエラを殺すのに躊躇いはない。

 が、あの時の悠馬の態度は恐ろしかった。それも事実。凄まじい怒りに気圧されたか。


「殺す。あいつを殺す……」


 静かに言いながらも、体も声も震えていた。


「うん。わかるよ。大丈夫。キエラはわたしが守るから」

「あ……」


 そっと抱きしめれば、その震えは少し収まった。


「敵は強いね。けどキエラにはわたしがいる。だから心配しないで」

「ええ。わかっているわ。わたしたちは負けない。ねえ、そのためには準備が必要ね。この義肢、まだ未完成よ。武器としても使えない。なんとかあの酒井って男に作らせないと」

「どこにいるのかな?」

「んー。探さないとね。きっと警察のどこかよ。そうだ、あいつには家族がいるのよね。そこからも探せるかもしれないわ。どうすればいいかなんて、わたし全然わからないけど! そうだ恐怖が濃いところを探しましょう! あの男の子供は、今も怖がってるはずよ! あはは!」


 たしかに。酒井の家の本体の方は、かなり荒れてるようだった。何があったかは知らないけど、こちらの関与が明るみになって警察に逮捕されたとかだと思う。それも家族ごと。

 子供は不安に思ってるはず。その恐怖を探せばいい。


 キエラはいつものような、不敵で生意気な子に戻っていた。うん。こうじゃないとね。



――――



 みんなが帰っていって、病室には俺と愛奈だけが残された。

 少しだけ静かな時間が続いた。俺も愛奈も無言で、何を言えばいいのかわからなくて。


 ただ気まずくはなかった。愛奈が俺の手を握っていた。温かかった。


「ねえ」


 沈黙を破ったのは愛奈の方で。


「酒井と会うのはいいとして、悠馬は怒らない? 暴れたりしない?」

「悪かったよ。暴れたりして、みんなを心配させたと思ってる。暴れたりはしない。……けど、あの男を許せない気持ちは今もあるし、それは怒ってるのかもしれない」

「そうね。ええ、それはそう。仕方ないわ。わたしだって同じだもの。会いたいって手紙が来たとき、どの面下げてって思ったもの。わたしも許せてないし、怒ってるんだと思う」


 姉弟なんだな、俺たちはどこまでも。


「なあ。事故の時は、酒井には会ったのか?」

「ええ。事故が起こった直後に逮捕されたから、留置所でね。平謝りだったわ。善良そうな人で。なんでこの人が事故なんかって思った。……正直、大した内容は話せなかった。向こうが過失を全面的に認めてるし、争うようなこともなかった。怒ろうにも、そのぶつけ先がなかった……あの男と面会した時、わたし何も言えなかったの。何か言おうとすると涙が出てきて。悲しいのは確かだけど、泣きたいわけじゃないのに。あいつは謝るばかりで会話にならなかった」

「……うん」


 あの男が善人なのはわかる。


 俺が大人げなく殴り込みをかけたのは、奴が娑婆にいたから。


 愛奈には手の出しようがなかったし、愛奈は俺ほどガキでもなかった。けれど全部受け止めて平然としてられるほど大人でもなかった。

 だから怒りを見せつけることができずに、感情のコントロールも不完全で、涙を流すしかなかった。


「彼はそのまま刑務所に入って、わたしは面会に行く気もなかった。奥さんからは毎年年賀状が来てたわ。お詫びの言葉がたくさん。返事は出さなかったけど、止まることはなかった」


 そして今年は、釈放された本人から来たってわけか。

 会いたい。そんな言葉と共に。


 その時愛奈は動揺したけど、今は違う。


「まあ、あの頃と比べてわたしも成長したし、穏やかに会うこともできるでしょう。言いたいことはいっぱいあるけど、今更言ってもどうしようもないこともある。でも、嫌な感じにはしない」


 ぎゅっと、愛奈の握る手が強くなった。さらに俺に笑顔を向けて。


「それに、今は頼れる弟もいるしね」


 言い切った。


「俺、そんなに頼れるか?」

「もちろん。世界一頼れる、かっこいい弟よ」

「そうか」

「よし! 暗い話は終わり! ねえ悠馬。お腹空いた」

「病院食あるだろ」

「あんなので足りるわけないです! わたしね、早く傷を塞がなきゃいけないの。そのためには何が必要だと思う?」

「絶対安静」

「違います! タンパク質! つまりお肉です! 酒はさすがに無理だから諦めるにしても、いや諦めるつもりはないけど、とにかく味の濃いものが食べたい!」


 こいつ、さらっととんでもないこと言ったぞ。


「麻美とか澁谷さんにお願いして、こっそり缶ビール持ってきてもらおうとは思ってるけど! 今夜は肉で我慢します!」


 聞かなかったことにしようとか、そんな考えを瞬時にふっ飛ばしてきた。さすがだ。


 後で、愛奈の知り合いの大人たちに念押ししないと。酒は持ってくるなと。

 でも、愛奈自身は元気そうで、体作りに肉が必要な理屈はわかる。


 怪我人を労ってやりたい気持ちもあるから、俺は結局コンビニに向かう。ああ、甘いな。



 病院のコンビニだから酒は売ってなくても、ある程度それっぽい品揃えはあった。


 弁当も売ってるし、レジ横にはホットスナックもある。唐揚げやらフライドチキンやらホットドッグやら。見舞い客や働いてるスタッフの食事という側面もあるのだろう。

 よし、色々買ってやろう。

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