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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第12章 仇敵

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12-32.姉は偉大だ

「やっぱりちょっと狭い……。すいません麻美さん。無理言っちゃって」

「いいのいいの。どんどん頼って」


 遥の車椅子は、病院で雑巾を借りてタイヤを綺麗にした後で、麻美の車の後部座席に置かれた。

 四人乗り、あるいは後部座席を詰めてなんとか五人乗れる車だ。運転席の麻美は決まってるとして、助手席には比較的体が大きいアユムが乗った。


 小さいつむぎと、つむぎの上に乗ればいいラフィオ。そして片足が無い分少し詰められる遥が後部座席。そして真ん中に鎮座する車椅子をふたりで押さえつけるというわけだ。


「モフモフ……」

「おい。お前は車椅子を持つのに集中しろ」

「片手でできるから! 片方は空いてるから!」

「ぐえー」


 つむぎが締めているシートベルトに巻き込まれて、腰というかお腹に押し付けられているラフィオは逃げることもできずにモフられている。

 そんな平和な光景に、遥は少し口元を緩めた。


「愛奈さん元気そうで良かったわねー。怪我したって聞いた時は本当に焦ったわ」

「実際、怪我した時は辛そうだったぜ。意識も失いかけてた」

「それがすぐに、あれだけ元気になるのね。さすが先輩」

「ほんと。元気すぎるんですよ。でもあれ、きっと悠馬のためですよ」

「え?」

「悠馬がいた間は、怪我をしてても愛奈さんは元気でした。大したことないって思わせるため。今も元気なのは、悠馬を心配させないため。お姉ちゃんだから、そう振る舞ってる。はぁ……」


 自然とため息が出た。

 こんな愚痴、みんなに聞かせることじゃないのに。


「愛奈さんは世界の誰よりも悠馬を大切に想っている。もちろん、わたしよりも強いはず。あー、勝てないなあ……」

「頑張れ遥ちゃん」

「はい……」


 愛奈の凄さを見せつけられるたびに、遥は落ち込んだ。


 あの人に勝てるのかって。



――――



 酒井の家は無人になったけど、警察の張り込みみたいなものはなかった。


 規制線を張って、制服の警官が厳重に見守ると、ご近所さんに何かあったと感づかれる。悪い噂になっては困るのだろう。子供もいるみたいだし。

 警察ってやつの優しさかな。


 キエラたちにとっては好都合だった。悠々と中に入れるのだから。


「見て。作りかけの義肢。キエラのサイズのやつだね」


 人形用かなと思えるくらいの小さなもの。キエラが妖精になった時のものだ。作りかけだから、まだ棒の部分の長さの調整ができてない。作りもシンプル。けど使えなくはない。


「他にも作りかけの物がたくさんあるね。キエラ用のかはわからない。あ、大きくなったキエラの足のサイズの予備もある」


 ティアラはキエラに語りかけながら、義肢のひとつを手に取った。


 義肢と途中までの手足とを繋げる部分。ソケットと呼ぶと、あの人から教わった。獣の姿のキエラのサイズのそれがあれば、あとは先端をなんとか用意すれば義肢はできる。

 作る方法はわからない。とりあえず、この倉庫内の材料を全部エデルード世界に運びこもう。加工の道具は移動は無理だけど、必要があればまたここに来ればいい。


「良かったねキエラ。たぶん義肢は作れるよ。……キエラ?」


 ティアラについてきたキエラは、しかしこの倉庫で全く話さなかった。ティアラに不審げな声をかけられて、ようやくはっとした表情を見せて。


「あ、ごめんなさい! 考え事してたの」

「もしかして、さっきの……覆面男?」

「……ええ。あいつ。なによ。魔法少女がちょっと傷付いただけであんなに怒って。傷ならわたしの方が深いのに。わたしにはこんな傷を負わせるのに。自分たちは駄目なんて。ずるい」


 先端の無くなった右手を見ながら言う。


 相手を殺す気で戦っているのだから、そんなことは当たり前だ。キエラだって同じことをしている。わかってるはず。

 なのにあの覆面男のことを悪く言うのは。


「怖かった?」


 覆面を被っているから、表情は見えないはず。それでも怒りは伝わってきた。


 あの人の素顔を、ティアラは知っている。名前もだ。ええっと、そうだ悠馬。たまに魔法少女たちが呼ぶこともある。

 ちょっとぶっきらぼうだけど、基本的には優しい人。そしてお姉さんを大事にしている人。


 だから本気で怒った。キエラを、小さな女の子の体がぶっ飛ぶほどに強く蹴り上げた。


 銃で撃たれるほどの傷は負ってない。けど、向けられる殺意はこっちの方が上か。


「こ、怖くなんかないわ! 驚いただけ! それだけよ!」


 否定が下手だな。そういう正直なところもキエラの魅力だけど。


「そう。怖いはずがないのよ。あんなの、ただの人間。手がこんなことになってなかったら、あいつなんて簡単に殺せる。ううん。殺してやる。そうすれば、魔法少女たちも怯えるでしょう。ええ、その通りよ。あいつから叩き潰すべきだわ、そうするべき……」


 かなり言葉数が多く、ティアラが口を挟む暇もなく一気にまくし立てるみたいな話し方。

 たしかに、あの男の子を殺せば魔法少女の士気は下がる。そして魔法少女たちより殺しやすい。いい考えだと思う。


 けど、キエラがこの案を推すのは別の理由があるのだと思う。


「やっぱり、怖いんだよね? あの男が。本気で殺しにかかったのが」

「……ちょっとだけ」


 認めた。

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