表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第12章 仇敵

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

597/746

12-28.手の怪我

「さて、悠馬。あなたの軽率な行動について、警察としては見過ごせません」

「だろうな。俺も逮捕か保護をするか?」

「しないわよ。そんなことをして、魔法少女たちとの関係が悪化したら目も当てられない。……とにかく、二度とあの家族と関わろうとしないこと。しばらく家にいて頭を冷やしなさい」


 どこか柔らかい笑みを、樋口はこちらに向けた。


「わかった。……姉ちゃんの見舞いに行きたいんだけど」

「ええ。それはいいわよ。今治療中だから、少ししたらね」

「治療中か。ということは」

「死ぬとか、そんなのは無いわよ。脇腹をざっくり切られただけ。出血は多いけど、もう大丈夫。治療して数日休めば元通りよ。たぶん傷跡も残らないでしょ。傷口が綺麗だったそうだから」

「そうか、良かった……」


 床に寝転んだまま、安堵の息を吐く。


 傷口が綺麗というのは、キエラがつけていたあの義手の先端が、よほど鋭利だったという意味でもある。和寿が本気で作った武器というわけだから、そこについて思うところはある。

 けど、樋口と約束した通りだ。あの男に関わるのはやめよう。キエラの武器を作った罪に関しては、樋口に任せよう。


「よし悠馬。帰ろっか。愛奈さんもたぶん夕方には面会できるようになるよ。ほら。背負ってあげるから」 

「ありがとうな」

「うわ。破片ついてる。刺さったりしてない? 痛くない?」

「正直言うと、ちょっと痛い」


 ライナーに助け起こされた俺は、体中の痛みをようやく自覚した。


 食器の破片が落ちてる中でラフィオに押し倒されたわけで。服で守られてない部分には、少し刺さってるかもな。


「樋口さん! 悠馬も病院に連れて行った方がいいですか!?」

「見たところ大した怪我じゃないし、目立った破片を取り除いてお風呂で洗い流せばいいだけよ」

「なるほど! よし悠馬! 家に帰ろう! お風呂で洗い流すって樋口さん言ってたよね!? 一緒にお風呂入ろ!」

「なんでそうなる!?」

「悠馬と入りたいから!」

「俺の怪我を理由に馬鹿なことを言うな」 


 止めようとする愛奈もアユムもここにはいないから、遥はやりたい放題だった。

 それを見たつむぎも、すかさずラフィオの手を取った。


「あー! ラフィオも手のひらにちょっと刺さってる! わたしと一緒にお風呂入らないと!」

「やめろ! 入らないからな!」

「入るの! わたし水着着るから! 洗ってあげる! じゃあ悠馬さんライナー、先に帰ります! わたしの家でお風呂入ります!」

「うわー! やめろー!」


 もはやラフィオの治療じゃなくて、一緒に風呂に入るのが目的になっている。


 ハンターがラフィオの体を抱え上げて走り去った。普段はラフィオを足にしてるけど、ハンターだって魔法少女だ。元々の身体能力も高い。猛烈な勢いで遠ざかっていく。


「ほんと、賑やかな子たちね。こんな状況でも楽しそう。ほら、後のことは大人に任せて。あなたたちも帰りなさい。ここの後始末もできないから」

「わかりました! ほら悠馬、背負ってあげる」

「ああ。ありがとうな」

「どういたしまして!」


 ライナーの背中にしがみつきながら、俺も我が家に帰る。


 俺のやらかしたことは割と重大なのだろうけど、誰も気にする様子はなかった。

 その気遣いが嬉しかった。



――――



 ラフィオは結局つむぎを止められず、海パン姿で風呂に入らされていた。


「おい。いいか。風呂で温まるのが目的じゃないからな。悠馬を押し付けた時に刺さった破片を取り除くためだからな」

「うん。わかってるわかってる」


 そのためだったら、洗面台でも用は足りるはずだ。本当にわかってるのだろうか。


 家の物置からピンセットを持ってきたつむぎは、学校指定のスクール水着姿。ラフィオの手のひらを凝視しながら取り除いていく。確かに細かな破片がついていた。深く刺さってるわけでもないから、深刻になる怪我ではない。

 というか、よくピンセットなんか家にあったな。両親ともに理系なのが関係してるのかな。家でも実験とかやってたりするのだろうか。


「んー。たぶんこれで全部だね! 洗い直して、消毒して、ラフィオをモフモフすれば終わりだよー」

「最後は余計だ。怪我人をモフモフするな」


 本人が大した怪我とは思ってないけど、つむぎが大事にしてるのだから、これはつむぎが悪い。モフモフは無しだ。


「むー。しかたがない。じゃあ、悠馬さんの所に行く?」

「どうかな。今はそっとしてあげるべきじゃないかい?」

「んー。そうかも。じゃあ、わたしたちはこのままお風呂入ろっか」

「うん。そうしよう」


 別に入りたいわけではないけど、嫌でもない。


 恋人とゆったりした時間を過ごすのは、悪いものじゃない。

 ラフィオもつむぎも浴槽には入ってないし、お湯も張ってない。沸かすボタンを押してお湯が出るのを見ながら、シャワーも出して傷口を洗い流す。微かに血が滲んで排水口へ流れた。


「痛い?」

「少しだけ。大したことはない」

「ラフィオは、今日は手を大事にしないとね。ご飯作るのも、遥さんに任せること」

「わかった」

「お箸持つのも駄目だよ。わたしが食べさせてあげる」

「おい。そこまでやらなくていい」

「着替えもわたしがやるから。ラフィオのパンツ、わたしが履かせるから」

「やめろ。それは自分でやるから!」

「あははー」


 つむぎだって本気ではないのだろう。何が面白いのかはわからないけど、しばらく笑い続けた。

 それから。


「ねえ、ラフィオ。悠馬さん大丈夫かな?」

「大丈夫とは?」

「あの人のこと、許せると思う?」

「僕にはわからない」


 親を殺される気持ちなんて、ラフィオには未知のものだ。


 こっちは産みの母を殺そうと考えている。そのために戦っているのだから。


 まあ、大切な人を失うことの辛さは知っている。そこからさらに失うことを考えたら、胸が痛くなる。

 浴槽の縁にもたれかかる、隣にいるつむぎにそっと寄り添った。


「わからないけど、悠馬は強い奴だ。体だけじゃなくて、心も。だから心配ないさ。乗り越えられる。もし辛いようだったら、僕たちで支えればいい。家族ってそういうものだろう?」

「うん。そうだね。その通りだよね! 後で様子見に行こうよ」

「ああ。そうしよう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ