12-23.セイバーとの距離
セイバーひとりで戦っていたから当然なのだろうけど、敵に群がられてピンチのようだった。
ハンターのおかげで当面の危機からは脱せられたけれど、俺たちとセイバーの間には敵の集団がいて、分断された状態だ。
キエラやティアラまでいる。
キエラの様子を見つめた。右手が無くなって包帯を巻いている。そして、脇に挟むように金属製の棒を持っていた。
あれが義肢だろうか。少女の姿のキエラにとっては長い気がするけど。
「ムカつく! ムカつく! あの青いの! 今すぐ殺したい……けど、それは無理そうね。みんな、あいつらがこっちに来るのを邪魔して。ティアラも参加して」
怒りに満ちた言動をするキエラだけど、セイバーの方をちらりと見て冷静さを取り戻した。侮れない奴だ。
孤立しているセイバーから倒すという方針らしい。正解なんだろうな。
ということは、俺たちがするべきは。
「突破するぞ! ライナー、ぶちかましてやれ!」
「え、わたし? パワーならバーサーカーの方が」
「ライナーの機動力で、早くセイバーと合流してほしい。バーサーカーはティアラの首を折りに行け」
「そういうことなら!」
「おう! 任せろ!」
ライナーとバーサーカーがすぐに走り出した。
ラフィオとハンターも既に動いている。ふたりもセイバーとの合流を果たすべく、黒タイツの群れに突っ込んでいた。
黒タイツの首に噛み付いて振り回すラフィオと、その隙にモフモフの体に掴みかかろうとする別の黒タイツを射抜いていくハンター。息はぴったりだった。
「ラフィオの! モフモフは! わたしのだから! 触らないで!」
なんか、ハンターの気迫がすごいのだけど、頼りがいがあるってことにしよう。
「おら! 死ね! いや本当に死ぬのも困るけど! いや死ぬべきなのか!? とにかく食らえ!」
バーサーカーが、立ちふさがったティアラに掴みかかろうとしていた。ティアラも相手の手を受け止めて押し合いになっている。
体格的にも腕力でもバーサーカーの方に分がある様子だけど、ティアラは押し合いの途中でわざと力を緩めた。
「うおっと!?」
「食らうのは! あなたの方!」
「うげっ!?」
つんのめったバーサーカーに、今度はティアラの方から肉薄。剥き出しのお腹へ膝蹴りを食らわせた。まともに当たったバーサーカーは苦しそうな声と共に下がったが。
「やりやがったなテメエ!」
闘志は一切衰えず、再び掴みかかる。
ティアラも負けじとぶつかっていった。彼女にも目的があるのだろう。キエラの望みを果たすとか、そんな感じの。
このティアラは厄介な敵だけど、バーサーカーと互角の戦いをしているから足止めは問題なく出来ている。ここは作戦通り。
けど、足止めされてるのはこっちも同じ。
「フィー!」
「フィー!」
「ちょっ!? なんか多くない!?」
自身に群がる黒タイツに、ライナーが苦戦していた。
脚力で一気に突破と言っても、何人も重なった黒タイツにぶつかったら弾き飛ばされてしまう。体重差の問題だ。
蹴り殺すこと自体は難しくはないけれど、周囲を取り囲まれたら機動力も活かせずキックもし辛い。
そんなライナーの窮地を助けるべく、ラフィオたちが駆けつけてるけど、その間にも改札の向こうのセイバーがピンチだ。
俺だって見てるだけではない。ナイフを握って黒タイツたちの壁に挑んでる。けど、ただの人間である俺が出来ることは多くはない。
目の前の黒タイツの喉にナイフをぶっ刺す。それで一体は倒せたけど、直後に二体が両側面から襲ってきた。咄嗟に後ろに下がったから攻撃は回避できたけど、セイバーとの距離は開いてしまった。
都市中心部ではない駅の改札前だ。それほど広いスペースがあるわけではなく、周りは壁に囲まれている。黒タイツの密度が高く感じるのも当然なのかも。てか、明らかに普段より多い。キエラも本気か。
「ああもう! 多い! あと散れ! いなくなれ!」
「フィアアアァァァァァ!」
「あんたもうるさいのよ!」
セイバーが声を上げながら戦っている。ギターのフィアイーターの音による攻撃で、セイバーはたびたび後ろによろめくことになってしまった。その隙に黒タイツが掴みかかろうとして、なんとか凌ぐというのを繰り返している。
剣で斬られれば黒タイツは死ぬけど、奴らはそれを恐れなかった。繰り返し、何度も突っ込んできてはセイバーに斬られる。
「何体いるのよこいつら!」
「お姉さんちょっと待っててください! そっちに行きますから!」
「早く助けて! こいつらわたしばっかり狙ってくる!」
黒タイツの群れの中に隙間を見つけたライナーが、そこを縫うように駆ける。塞ごうとした黒タイツを、走る速度を乗せて蹴ることで殺す。ぶつかった衝撃で速度が落ちるけど、再度の邪魔をされないうちに再加速。
セイバーも少しは希望が見えたのか、勢いよく剣を振った。正面から襲ってくる黒タイツの首を二体まとめて斬り落としてから、そのまま振りぬこうとして。
「フィアァァ!」
「うわっ!? こいつ意外に硬い!?」
フィアイーターが剣を受け止めた。六本の弦の部分でだ。
セイバーはすぐさま剣を戻そうとしたけど、それより先にフィアイーターが両手でセイバーの手首を掴む。
さらに黒タイツが襲いかかってきたけど。
「邪魔よ!」
「フィッ!?」
それはセイバーによって足蹴にされて哀れにも死ぬこととなった。




