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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第12章 仇敵

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12-20.仕事始めの朝

『とにかく、酒井和寿は社会的には責めを負って、それを果たした。だから今更、あなたがなにか言う立場じゃないの』

「けど、酒井は姉ちゃんに接触をした」

『……それは聞いてないわ。どういうこと?』

「俺もさっき見つけたんだけど」


 元日に来た年賀状に、酒井から愛奈宛のものがあって、愛奈がそれを握りつぶしたこと。それをさっき偶然見つけて、愛奈には内緒で持ち出したことを話した。


 その年賀状を改めて見る。

 郵便局で売っている年賀状用葉書ではある。けど、謹賀新年とかあけましておめでとうございますとか、そういう祝賀を意味する内容は書かれていない。浮ついたイラスト、富士山とか干支とか、そんなのも無かった。

 ただ、無地に文字がびっしりと書かれていた。


 新年をいかがお過ごしでしょうか。その節は大変なご迷惑をかけました。そんな内容から、酒井和寿が釈放されて個人経営で仕事を始めたいたことなんかが綴られていた。

 それから、改めて家に伺ってお詫びをしたいとも。


「愛奈の様子がおかしかったのは、これか」


 元日に届くように予告した上で、早速訪問してくるかもしれない。だから愛奈は、予定外の訪問者である樋口と澁谷が来た時のチャイムに驚いていたわけだ。


 たぶん愛奈から酒井に連絡して、来るなと伝えたのだろう。


 まさか翌日、魔法少女に変身している時に対面するとは思わなかっただろうけど。

 魔法少女の力をもってすれば、憎むべき男を殺すなんて容易なこと。それをギリギリしないだけの理性が、愛奈にはあった。


『愛奈が酒井に殺意を持っているって、決めつけるべきではないけどね』

「そうか?」

『人を殺したいだなんて、人はそう簡単に思わないものよ。思っても、実行するまで考えることはない。悠馬、実の姉がそんな人間だって考えるのはやめなさい。あの子はちょっと変人だけど、まだまともな人間よ』

「それは……そうだな。うん、そうだ」


 殺そうと考えるなら、訪問をビビったりしないよな。

 それよりも。


「姉ちゃん、家族を殺した奴の連絡先を知ってるのか」

『そりゃ知ってるでしょ。事故の後、事後処理をしたのは愛奈なんだから。向こうの家との連絡手段も知ってて当然。……あの時、あなたは小学生だったんでしょ? あなたに負担をかけないように、愛奈が全部引き受けたのよ。あなたと顔も合わせようとしなかった』


 愛奈だって大学卒業間近で忙しい時期だった。それでも、憎い相手や保険会社とのやり取りを、ひとりでやりきった。


『あなたの駄目な姉は、それなりに頑張ってたのよ』

「ああ。姉ちゃんはすごいな」


 そんなこと、樋口に言われなくても知っている。俺の姉ちゃんは偉大だ。誰よりも。


 やり取りの大半はその頃に終わり、お互いの関係はそれで切れたはずだった。

 なのに今になって、また会いたいと連絡が来た。酒井和寿の仮釈放と共に。


 もちろん愛奈は、そんなことしたくない。もう顔も見たくないだろう。だから拒否している。


「なあ樋口。酒井の動向を探ってくれ。奴がまた、姉ちゃんに接触しようとするかも」

『ありえるわね。向こうは完全に善意で謝ろうとしてるのでしょうけど、こっちとしては迷惑って話よね』

「ああ。接触してほしくない」

『わかってる。それで魔法少女としての戦いに支障が出ても困るしね。一応、外から酒井家の様子は見ているわ。仕事場にしてる倉庫で、夜遅くまで作業している音だけは聞こえる。中の様子はよくわからないけど』

「仕事か」


 善人ではあるらしいし、事故を起こしたのも仕事熱心だった故だ。

 今も真面目に仕事をしているのだろうな。


「個人経営で仕事を始めたばかりだけど、遅くまでやるほど仕事があるのか。儲かってるんだろうな」

『そうね。珍しいことだけどね。……とにかく、中の様子も探ってみるわ。そう難しいことではないはず。ただの倉庫だから、盗聴器仕掛けるのも難しくはないわ』

「わかった。頼む」

『あとひとつだけ約束して。あなたが酒井和寿のことを知って、わたしに探らせてること、愛奈には絶対に伝えないこと。いいわね?』

「わかってる」


 愛奈に余計な心配をかけたくない。

 他の誰にも、絶対に言わないさ。



 翌朝、相変わらず起きようとしない愛奈の部屋へ向かい、化粧台の上にそっと年賀状を戻した。そして。


「起きろ」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」


 フライパンとお玉で愛奈を叩き起こす。


「大人しく仕事始めに行け」

「やだー! 嫌です! 仕事とかやだ! 一生寝てたい!」

「働け。働かないと叩き続けるぞ」

「うわーん! 弟が苛めるー!」


 いつもの通りの朝だ。


 その後、渋々スーツに着替えた愛奈は、俺が部屋の前で待ち構えているのと対面することに。


「な、なによ。ちゃんと着替えたわよ。仕事行くから」

「うん。ありがとうな、姉ちゃん。毎日仕事頑張ってて、偉いと思う」


 素直に感謝を口にした。酒井関係のあれこれは言うことはできなくても、その気持ちも込めた。

 ところが愛奈は。


「え、うん。ありがとう……急にどうしたの?」


 怪訝な顔をしていた。


「どうしたって。姉ちゃんに改めてお礼を言いたいというか」

「そ、そう。なにか企んでたり? フライパン持ったまま言われても、ちょっと怖いというか」

「いや、なにも企んでないから」


 咄嗟にフライパンとお玉を背中側に回したけど、そんなことに特に意味はない。

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