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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第12章 仇敵

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12-19.親の仇

 そうやって愛奈をベッドに寝かせた。枕に頭を乗せて、毛布を抱きしめて横になる。


「うへー。眠たくない」

「寝ろ」

「寝たら明日が来ちゃう……」

「寝なくても来るんだ」

「じゃあ……せめて……眠るまでそばにいて……」

「ああ。わかった」


 横になった愛奈が手を伸ばしたから、俺はそれを握り返す。

 ベッドサイドにある化粧台の椅子を、手を伸ばして引き寄せて、それに座って愛奈の様子を見た。


「ふふっ。悠馬の手、温かい」

「そうか?」

「うん。すごく気持ちいい……ねえ、頭撫でて」

「わかった」


 それで早く寝てくれるなら。愛奈の短い髪に手を伸ばして、ゆっくりと撫でる。


 心地よさそうな表情を見せた愛奈は、そのまますぐに眠ってしまった。

 相変わらず握った手を、俺は愛奈を起こさないよう細心の注意と共に剥がした。それから。


「やっぱ悠馬って、愛奈に甘いよな」

「うおっ!?」


 アユムが一緒に来ていたことをすっかり忘れていて、俺は素で驚いた。


「ずっといたのか? 愛奈が寝るまで?」

「途中でオレだけいなくなるのも、なんか変だろ。オレのこと忘れてたらしいし、居心地悪かったけど」

「ごめん」


 愛奈を起こさないよう、小声で話す。というか、さっさとここから退散しよう。


「にしても、ほんと散らかってるよな、この部屋」

「整理整頓とかできないからな、姉ちゃんは」

「だろうな。オレも同じではあるけど、でも遥が片付けてくれるからな」

「自慢げに言うな」


 片付いてないよりは、ずっといいけど。愛奈の部屋の惨状にため息をつきながら、さっきまで座っていた椅子を化粧台の前に戻す。


 化粧台の上も整頓とは程遠かった。俺には何に使うかもわからないメイク用品が雑然と置かれている。


 その片隅に、くしゃくしゃに丸まった紙が無造作に転がっていた。ゴミだろうか。葉書のサイズと厚みの紙に見えた。

 というか、間違いなく葉書だ。送り主の名前が、ちらりと見えた。


 「酒井」という名字から出された年賀状のようだった。


 咄嗟に掴んでしまったけど、こんな所に置いているなら愛奈が隠したがっている物に違いない。すぐに戻さないと。

 そう思ったのだけど、同時にポケットに入れていたスマホが着信音を鳴らした。愛奈を起こさないようにと、慌てて部屋から出る。


 年賀状は手に持ったままだった。


 スマホの画面には樋口の名前。

 いつもは人の調査を依頼すればすぐに結果が返ってくる。しかも今回は、住所も名前もわかっている相手。


 普段より時間が掛かったのが気になるけど、役所も正月休みとかで仕方がなかったのかな。とにかく、報告は聞けそうだ。


 なのに、電話の向こうの樋口の口調はどこか重くて。


『これ、伝えるべきか悩んでるのよ。酒井という男の素性については、比較的すぐにわかったわ』

「珍しいな」

『ええ。自分でもこんなに迷うなんてね』


 どこか自嘲的な雰囲気すらあった。


 酒井という男に関して、気にしているのは俺だけ。愛奈の様子が変なことに気づいているのも俺だけで、愛奈が隠したがってることなら変に広めることもない。

 だから俺は会話を聞かれないように、自室に戻ってベッドに寝転がりながらの通話をした。


『愛奈が気にしているのは、あの家族の父親の方。酒井和寿。義肢装具士の仕事をしていた』

「していた?」

『ええ。正確には、していて、中断があって、今また再開した。前は工房というか、小規模な会社に属していたのが、今は個人経営で仕事をしてるようね。義肢の制作や、修理やメンテナンスなんかが業務。つい最近開業したらしいわ』


 義肢作りの仕事か。


 遥のことが思い浮かんだ。今は車椅子生活の彼女も、これ以上背が伸びないと判断すれば、いずれは義足を作ることになるだろう。

 もしかしたら、走る義足を使って障害者アスリートになるかもしれない。


 アスリートか。あの男の息子は、プロ野球選手を目指す熱心な野球少年だ。


 そんな、誇れる職業を持ち立派な父親をやっている男と愛奈に、なにがあったのか。


「会社を辞めて独立したってことか?」

『ええ。まあ。そうなるわね。会社を辞めた経緯が複雑……ではないわね。ちよっと訳ありなのよ』


 ここに来て、樋口はまた歯切れの悪い言い方をする。


『悠馬。落ち着いて聞いてね。彼、酒井和寿は去年の暮れまで交通刑務所に服役していた。重大な交通事故を起こしていたの』


 どくん。心臓の鼓動が大きくなるのがわかった。


 交通事故? まさか。


『四年と九ヶ月前、製作した義肢を病院で待つ患者に送り届けるために急いで車を走らせていた。患者は小さな子供で、一刻も早く届けたかったのでしょうね。彼の運転する営業者が、一台の乗用車と衝突。乗っていた三名が死亡。……あなたの両親と兄を殺したのが、酒井和寿よ』


 体温が急激に下がる感覚がした。


 この世のどこかにいると知っていた、俺の家族を殺した人間。それがこんなにも近くにいたなんて。今でも、同じ街にのうのうと生きている。

 しかも幸せそうな家庭まで持って。




 ああ。あの息子、野球少年は言ってたな。最近まで父がいなかったと。ようやく帰ってきたと。


『悠馬。悠馬聞いてる?』

「あ、ああ……」

『彼は既に責任を果たしている。賠償をして、刑事的にも責めを負って服役を完了させた。模範囚として過ごしていたから仮釈放が認められたの』

「人を三人殺しておいて、こんなに早く出られるのか?」

『故意に殺したわけではないし、本人が深く反省しているから……ええ、悠馬。あなたの気持ちもわかるわ。許せないわよね。けど、あなたから彼らに接触するのはやめなさい』

「そんなこと言われても」

『行くつもりだったの?』

「……わからない」


 許されるなら、今すぐにでも両親と兄貴の仇を討ちに行きたい。許すというのが誰なのかは、俺にもわからないけど。法? 社会? 己の良心?


『だから伝えたくなかったのよ』


 電話の向こうで、樋口が小さくため息をついた。

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