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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第12章 仇敵

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12-18.キエラの義肢作り

 キエラの失われた手の代わりになるのが、義手なのか義足なのかは本人たちにもわからなかった。少女の姿でつけるなら義手だし、妖精や獣の姿でつけるなら義足になる。

 面倒だから、義肢とまとめることにした。


 調べたらペット用の義肢というのも世の中にはあるらしい。けどキエラのサイズの義足を作った例は存在しないだろう。


 けど、酒井という男はなんとか了承してくれた。札束を見せて、もし言うこと聞かないならこの場で怪物を作ると脅したら頷いてくれた。


 ただひとつ、家族にはキエラたちの訪問は極秘にしてほしいと言われた。まあ、それは仕方ないよね。



 どうやら酒井さんにとって、この家と家族は絶対に守らないといけないものらしい。

 ティアラには、家族愛というのがよくわからない。けど存在するのは知っている。そういうのは尊重してあげないと。

 キエラも同意見だった。


 そういうわけで、ティアラたちは酒井の家族が寝静まった夜中に訪問して、義肢作りを作ることに。彼の仕事場は、家の片隅に建てられた倉庫の中。これを工房と呼んでいるらしい。

 小さいけれど、家からは隔絶されていてキエラたちが家族にバレずに訪問するにはぴったりだ。


 まずはキエラの体のサイズを測ることからだ。


「この時期の女の子は特に、体の成長が早い。君も同じなの?」


 主に左右の腕の長さや太さを測りながら酒井が尋ねる。


 人間態だけではなく、獣や妖精の姿でもサイズを図らないといけないから、手間は三倍かかる。

 それに見合う十分な報酬は与えているから、問題ないだろうけど。


「ええ。この人間の姿は成長するわ。妖精は小さいままだし、それが大きくなった獣の姿も成長はしないけど」

「そうか。ということは、ふたつは将来的にサイズを変えることはないわけだ。人間の姿の時は、割と早い段階で入れ替える必要があるだろう……あと、傷口はもう少し清潔にしておいてくれ」


 未だに包帯を巻いたままのキエラの手を見る。傷口はほとんど塞がっているけれど。


「本当は、ちゃんとした病院で処置してもらわないと。感染症を受けて傷口が化膿していないのは奇跡だ」

「そんなこと言われても、わたしたち素人だものね」

「ええ。病院にも行けないし」

「まったく……」


 キエラたちが非合法な存在なのを、酒井も理解している。困惑と呆れの感情を表に出したけど、それ以上は特に何もなくて。


「義肢を装着する大切な部分なんだ。綺麗な形を保っておく必要がある。もっと頻繁に包帯を交換して、傷口のところをよく拭いて、消毒もするんだ」

「ええ。わかったわ。義肢が出来るのはいつになる?」

「これから作るんだから、時間がかかる」

「すぐに欲しいわ!」

「……失われた部分を延長するような、単なる棒みたいな物なら短時間でも作れる。失われた手首の関節の駆動も無いし、指に相当する部品もない」

「妖精と獣の時に、四本足で立てるための物、みたいな感じですか?」


 ティアラの問に酒井はゆっくり頷いた。


 立てるけど、歩いたり走ったりはできない。やるには訓練が必要。そんな代物。


「人間の姿用の義肢は、もう少し作るのを待ったほうがいい。傷口がどう変化するかもわからないし、手の代わりを作るには時間がかかる。それよりは、簡易的な足から始めよう」

「ねえ! 獣の時用の足から作って! 棒みたいなのを作るのよね!? その棒の先を尖らせて、武器にできないかしら!?」

「ぶ、武器!?」

「そう! 武器!」


 無邪気に言い切るキエラは、いつものように説明不足。


 酒井だって困るだろう。なんのための武器なのか、わからないだろうし。

 いや、こっちの素性は既に明かしている。だから察せられるはずだ。


 わからないという様子なのは、本当にわからないのではない。自分の頭の中で出した答えを受け入れられないだけだ。


「な、なんのための武器だ?」

「もちろん、魔法少女をぶっ殺すためよ!」

「魔法少女を……」


 この人は、単なる市民だ。魔法少女に守られる側の人間。そしてキエラはその敵。

 魔法少女の敵に与している。それを早速自覚させられたらしい。


「気にすることはないですよ。酒井さんはお金を手に入れられる。それでいいじゃないですか。お金があれば、この世界では好きなことが出来る。それだけが大切なことです」

「そ、そうか……そうだな。俺は家族のためにも……稼がないと」


 きっと並々ならぬ葛藤があったのだと思う。けど、彼は答えを出した。


「わかった。武器を作る。サイズをもう一度測りたいから、獣になってくれ。それさえあれば、数日で作ってみせる」

「本当!? やったあ!」


 キエラは無邪気に笑いながら、その場で獣になった。



――――



 俺たちの冬休みはもう少し続くが、どうやら社会人は少しだけ早く終わるらしい。

 愛奈は明日から仕事だ。


「あああああ! 仕事したくない!」


 その日の夕方。愛奈がいつものように叫んでいる。ほんと、毎日飽きないな。


「姉ちゃん。明日から仕事なんだから、あまり飲むのはやめろよ」

「やーだー。のむー。仕事のやり方忘れるくらい飲む!」

「おい」

「ていうか、既に仕事のやり方忘れてるし! 一週間も仕事しなかったら、それは仕方ないことよね!」

「待てこら」


 堂々と情けないことを言いながら、愛奈が缶のビールを一気飲みする。いつもながら体に悪そうな飲み方だ。


「お姉さん、そこまでですよ。悠馬、部屋まで運んであげて」

「ああ。アユム、手伝ってくれ」

「おう」

「やだー! せめて悠馬にお姫様抱っこしてほしいー!」

「駄目だ」


 アユムと一緒に左右から愛奈に肩を貸してやり、部屋まで連行する。


「なんか、捕まった宇宙人みたいな感じね」

「あんなに小さくないだろ、姉ちゃんは」

「まあねー。お姉ちゃん大きいから。胸とか」

「おら」

「ぎゃー! アユムちゃんがおっぱい押し付けてくる!? 無駄に膨らんだ脂肪の感触!」

「なんかムカつくんだよな……」


 なんてくだらない会話だろう。

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