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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第12章 仇敵

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12-17.平和な新年

「いっそのこと、職人さんをフィアイーターにしちゃって、色々作らせるのはどうかな?」

「特別製コアがしばらく完成しないから、それはできないわ。けど……色々作るって?」

「普通じゃない義足も作るの。フック船長って知ってる? 腕の先に金属のフックがついてて、それが武器になるの。キエラも魔法少女と戦う時に武器があれば嬉しいでしょ?」

「おもしろそう! いいわね! 剣とかつけるのかしら!? やってみましょう! ……職人さんはどこにいるのかしら。やっぱり病院?」

「どうかな。調べてみる……病院にはいないみたい。けど、病院と提携しててそこから依頼があって作るんだって。義肢装具士ってお仕事」

「へえー」

「義手が壊れた時とかの修理は、病院経由だけじゃなくて、職人さんに直接お願いすることもあるそうだよ。職人さんが所属する会社、調べたら色々出てきた」

「会社は避けた方がいいわ。ちゃんとしたやり方以外、受け付けなさそう。それよりは個人でやってる所の方がいい」

「そうだね。……個人でやってる所なんてあるかな……調べたら出てくるかな……あった」


 義肢装具士、模布市、個人。そんな言葉を鏡に打ち込めば、望む結果が本当に出てきた。この街は広いな。


「へえ。いいじゃない。つい最近仕事を始めたらしいわ。事務所は自宅を兼ねている。つまり、まだあまり稼げてない。仕事もそんなにない」

「だから、お金をちらつかせれば仕事を引き受けてくれる?」

「ええ。きっとそう。うまくいくわ! まずはお金を確保しないとね!」

「またフィアイーターを出して暴れさせる? 銀行とか」

「そんなことする必要ないわよ。わたしはどこにでも入れる。穴を作ってね。銀行の金庫とかに入ればいいだけ。早速やりましょう!」


 ウキウキした様子を隠さないキエラ。それが、ティアラにも幸せだった。片手をなくしてから、初めてこんなに笑ってくれた。


 お金を盗むならどこからがいいか。あれこれ考えるキエラを見てから、ティアラは鏡に目を向け直した。肝心の職人さんについて、よく知っておかなきゃいけないから。

 酒井。そういう名前の男性の職人さんらしかった。



――――



「ウサギだけどウサギじゃないよ、モッフィーは」

「はい!」


 遥が読み上げた瞬間に、つむぎが札を取る。

 俺もラフィオもアユムも参加しているけど、その動きについていけなかった。


 せっかく買ってきたミラクルフォースかるただから、みんなで遊んでみたのだけど、つむぎが強すぎる。


 絵札に書かれた文字を手がかりに早いもの勝ちで取ればいいだけだから、ミラクルフォースに関する知識なんかも不要なはず。

 つむぎばかりが札を取ってるのは、彼女の身体能力に俺たちが追いついていないからだ。腕力では年上には勝てなくても、俊敏さでは誰にも負けない。


 こいつ、走ってる犬とか猫に追いつく素早さを持っているからな。


「サメの力が炸裂。強いぞミラクルシャーク」

「はい!」

「うわっ!? つむぎちょっと強すぎねえか!?」

「えへへー。ミラクルフォース好きなので!」


 目の前に置かれていた札を取られたアユムが目を丸くしていた。


 モフモフを見た時の身体能力を、この勝負でも発揮しているわけだ。

 結局、ミラクルフォースかるた勝負はつむぎが札の九割を獲得して圧勝となった。



「ラフィオー。もう一回やろ!」

「嫌だ。他のことして遊ぶ」

「じゃあなにしよっかー。お出かけ行く? 動物園とか!」

「それは昨日行ったはずだ」

「ラフィオとだったら何回でも行きたいの! じゃあラフィオモフモフして遊ぶ!」

「おい! やめろ! こら!」


 つむぎがラフィオに飛びかかって、ラフィオも必死で押しとどめている。



 今日は正月の三が日も過ぎた、一月四日。つむぎの両親は俺に、娘をよろしくお願いしますと丁寧な挨拶をしてから仕事に戻っていった。またしばらく帰ってこれないのかな。

 両親と過ごす時間を楽しんだつむぎだけど、その間ラフィオをモフれなかったことだけはストレスだったらしい。


 それを発散するがごとくラフィオに襲いかかるつむぎは、普段より力強かった。


「ラフィオー! ラフィオラフィオラフィオ! モフモフさせて! 匂い嗅がせて! 一緒にお風呂入ろ!」

「嫌だ! 離せ! こらやめろ!」


 仲がいいなあ。



 三が日を過ぎれば、新年の祝賀ムードも一段落つく。テレビを見ても通常編成に戻り始める。街を歩いていても同じだろう。

 俺たちの冬休みは、まだしばらく続く。けどお正月っぽい事をやろうって気にもなりにくい時期だ。


 一番お正月を堪能しようとしていたアユムも、今はソファに座ってぼーっとテレビを見てるだけ。


「まあ、のんびり過ごすのもいいと思うけどねー」


 遥が俺の隣に来て、そっと身を寄り添わせた。いや、のんびり過ごすのはいいけど、もたれかかるな。


「こうやって静かな時間を楽しむのもありだよねー」

「静かか?」

「ラフィオー! あったかい! モフモフで温めて!」

「嫌だ! 断る!」


 うん、静かではない。


「まあね。けど、平和だよね」

「それはまあ、確かにな。フィアイーターも出ないし、大きな事件も起きない」


 なんて言ったらフラグになって、本当に怪物騒ぎが起こりかねないのだけど、今日はそんなことはなかった。


 事件といえば、愛奈は普段通りに戻っていた。今は部屋でひとりで寝ているらしい。正月休みの残りを気にして出勤日が近づいていることに怯えながらも、普段の愛奈と変わらない様子だった。

 あの酒井という家族にまつわる懸念は、とりあえず払拭できたのかな。忘れはしなくても、気に留めないようにはできた、のかもしれない。


 正直、俺には何もわからないけど。


 樋口からの連絡もまだなかった。これはいずれ来るのだと思うけど。


 ああ。平和だな。すごく平和だ。俺の家族も、それに街も。今日は何事もなく動いている。



 俺は知っている。こういう平和は、ある日思ったよりも簡単に崩れ去ってしまうと。

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