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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第12章 仇敵

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12-14.凧のフィアイーター

「とりあえず黒タイツたちを減らしながらフィアイーターの動きを見よう。ライナー、この周辺を回って、散らばった黒タイツを殺してくれ」

「うん。任せてー」


 見たところ黒タイツは公園内での破壊活動をメインにしているものの、そこで遊んでいたと思しき人たちはみんな避難済のようだ。地面の上に、独楽や羽子板や砂遊びの遊具なんかが散らばっていた。

 だから黒タイツも散らばっているはず。ライナーは慣れた様子で駆け出した。


 バーサーカーとラフィオは既に戦闘を開始している。ブランコの鎖をぐっちゃぐちゃに絡ませるという無法を行っている黒タイツが、顔面を殴られて死んだ。


 俺もナイフを取り出しつつ周囲を見る。

 フィアイーターは頭上からこちらを睥睨していた。


 少し下に伸びた菱形をした凧にフィアイーターの顔が浮かんでいるそれは、今回は手足がついていなかった。代わりに取り付けられている吹き流しと呼ぶべきだろうか、二本のリボンが風の影響以上にウネウネと動いている。


 凧から紐は伸びていない。地上へと縛り付ける邪魔な紐は、自分で引きちぎったということか。それによって自由を得た凧は、風に流されていて。


「フィァァァァァァ!?」

「あ、飛んでいった」


 少し強めの風が上空で吹いたのだろう。フィアイーターはそれに流されて、公園の上空から移動した。たぶん、本人の意志とはあまり関係なく。


「フィアァァァアァァァァ!」


 咆哮というか悲鳴に似た声まで聞こえてきた。もしかして、あのフィアイーターはそんなに強くないのか?


 それでも放置はできず、俺はフィアイーターを追いかけた。進路上にいた邪魔な黒タイツを蹴飛ばして、ナイフで首を刺して的確に殺してから、さらに追いかける。


 公園を出て住宅地を駆け抜ける。近くに怪物が出た情報は既に周囲一帯に広まっているから、正月の住宅街は外を出歩く人影も見当たらない。みんな家の中に隠れて身を潜めているのだろう。

 けど、さすがに少し離れた所までいけば、隠れていない人間もいるかも。公園まで距離があるから安心だとか、そんな考えをする人たち。


 あるいは、なんらかの事情でスマホを持たずに外出している人間だっているかも。たとえば。


「うわーっ!?」


 ランニング中の体育会系小学生男子とか。新年からトレーニングとは精が出る。近所の同志が数人集まって走っていたところ、怪物と遭遇したらしい。

 小学生ならスマホ持ってないことも多いもんな。真面目に運動に打ち込むタイプなら特に。


 彼らに、高度が落ちてきたフィアイーターが襲いかかった。二本のリボン状の布を触手のように子供たちに伸ばして絡め取ろうとする。


「おい! 離れろ!」


 どこまで意味があるかは置いといて、敵の注意を引きつけるように呼びかけながら駆け寄る。追いかけっこよりは、こうやって戦う方がいい。

 子供に巻き付いたリボンを掴んで、ナイフで切断を試みる。元はひらひらの布なわけで、思ったよりも苦労せずに切断できた。


「フイァァァァァァァ!?」


 ちょっと痛そうな叫びと共に、フィアイーターは再び上昇。

 それから。


「これ! 動いてる! 痛い痛い!」


 リボンに巻きつかれていた少年の叫びが聞こえた。切断した端が未だにウネウネと動き続けて、蛇のように少年のひとりの胴と腕に巻きついて締め上げる。

 他の少年たちが仲間を助けようと、必死に白いそれを掴んで剥がそうとしてるけど、リボンは思ったよりも力が強いらしい。


 よく見れば、助けようとしている少年のひとりは。


「お前……」

「覆面さん! こいつを! なんとかしてください!」

「あ、ああ!」


 ここ数日、妙に顔を合わせている野球少年だった。というか、見覚えのあるユニフォームを着ているし。


 もちろん彼にとって、今の俺は覆面を被った魔法少女の仲間。市民を守るヒーローだ。


 元からお互いに名前なんか知らない、顔見知り程度の関係。けど今はもう少し変わった接しかたをしないとな。


 リボンの切断自体は難しくはない。少年の体に巻き付くリボン状のそれは、締め付ける力こそ強いらしいが、体自体の頑丈さはそれほどでもない。

 暴れるそれを次々に切断していく。ナイフの敵ではなく、すぐに何分割にも切られて地面に落ちていく。


 子供の体に巻き付けるほどの長さが保ててなくても、生きてはいるらしくウネウネと動き続けて気持ち悪い。

 そして、危機は何も脱してはいなかった。


「フィアアアアァァァァァァ!」


 凧のフィアイーターは相変わらず上空を旋回中で、こっちに狙いを定めているようだ。

 風の乗り方も学んだらしく、ゆらゆらと揺れながらも俺から視線を離すことはない。


 さて、どうするかな。俺からは手出しができない。やれることがあるなら。


「おい、お前ら。家はどこだ? そこに着くまで守ってやる」


 あのフィアイーターに、家の窓を破って中に入るような力はないらしい。だから外に出ている人間がいない限りは、奴も動けない。


「お、俺の家、あそこです!」


 ここ数日よく顔を合わせる、例の野球少年がおずおずと言った。この中で一番近い家なんだろう。


「わかった。そこまで走れ。怪物が襲ってきたら俺が助けてやる」

「は、はい!」


 俺の指示に少年たちが駆け出した。さすが普段から運動しているだけあって、足が早い。


「フィアアアアァァァ!」


 フィアイーターもまた、野球少年たちに襲いかかろうとした。

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