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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第12章 仇敵

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12-9.招かれざる客

「つむぎちゃんにも、ちゃんと家族の時間を過ごしてもらわないとね!」

「遥。お前も家族と一緒じゃなくていいのかよ」

「そうだねー。どこかで、一旦帰ってみますか。アユムちゃんは? 遠いから気楽に帰るってわけにもいかないだろうけど、帰省とかいいの?」

「そうだなー。いい。しばらく戻らねぇ。田舎に帰ったら、そのまま都会に戻るなって言われそうだから」


 それはさすがにないと思うけど、アユムなりに切実な想いがあるようだ。


 みんな、家族について思うところがある。いろんな形があっていいんだな。


「うへへー。もう、今日は誰も来ないわよねー」


 テーブルに突っ伏した愛奈が、なんとも幸せそうな様子で呟いた。

 来客の予定は確かにないけれど。


「誰にも来てほしくないのか?」

「そりゃ麻美たちは良いのよ。仲のいい知り合いだから。でも、お正月には招かれざる客も来るって言うじゃない?」


 そんな言い伝えは聞いたことがない。


「というか姉ちゃん、樋口たちが来た時、妙に緊張していたというか、様子が変だったよな?」

「えー? そうかしら?」

「なにか隠してないか?」

「ないない。何もない。悠馬が心配することなんて、何もないのよ」

「姉ちゃん」


 愛奈の様子は明らかにおかしくて、それを見過ごすことは俺にはできなくて。


「何かあるなら言ってくれ。俺の力になれることなら助けるから」

「う……」


 少し真剣に話してやれば、愛奈も身を起こして気まずそうな顔を見せた。

 みんなも、会話を止めてこちらを見ている。


「心配させちゃったかな。ごめんね。ええっと……昔の知り合いから年賀状が来てね。会いたいって言ってきたのよ。でも突然のことだし、あとそいつとはちょっと因縁というか、あんまり仲が良くなくて」

「学生時代の元カレとかですか?」

「違うわよ。そんなのいないから。わたし、大学時代あんまりモテなかったし」

「そうですね。美人なのは確かだけど、男を引き寄せるにはちょっと魅力が足りないですよね」

「人の胸元見ながら話すのはやめなさい」

「じゃあ、その知り合いって誰ですか? 学生時代の友達とか?」

「なんで学生時代限定なのよ。確かに出会ったのはその頃だけど。とにかく、会いたくない人から会いたいって連絡があって、断りの連絡は入れたけど来たかもって思っただけ。今日来ないなら、メッセージ受け取って、もう来ることもないでしょう。だから心配はいらないの」


 それだけ一気に言って、愛奈はコップの中のビールを飲み干した。


 相手が何者かわからないから、そこだけモヤモヤするけど、愛奈はそれ以上話そうとはしなかった。


 何もないのは本当みたいだし。だから、俺が心配するようなことではないのかも。

 大人である愛奈にしかわからないこと。


 普段はこんなのなのに、愛奈は間違いなく大人だった。悔しいけど。


「姉ちゃん。なにかあったら、ちゃんと話してくれよ。家族なんだから。遠慮するな」

「ええ。わかってるわよ。家族だから」


 俺を見つめる愛奈の表情はどこまでも優しかった。




――――



 エデルード世界には、新年という概念はない。そういう物をこれから作らなきゃいけない段階でラフィオが離反したからだ。


 この世界は作りかけで止まっている。


 ティアラにとっても、新年はあまり意味があるものではなかった。


 母がチャンネル権を占拠するテレビの中で、年が明けてめでたいと、知らない芸能人たちが言いながら大はしゃぎする。それだけの行事。

 この時期に友達と遊ぶなんて予定も入っていないし、家族で特別なことをするわけでもない。世間のお祭りムードとは切り離された生活を送ってきた。


 そこから脱せられた今も、同じではある。


 右手を失ったキエラの処置も一段落して、ティアラは魔法の鏡から新年の訪れを知ることとなった。


「キエラ。年、越したよ」

「そ、そう。それって、いいことなの?」

「わからないけど、人は喜んでる」

「人間が喜ぶなら、悪いことね。怖がってくれなきゃ嫌」


 横になったままのキエラが静かに答えた。


 手の先端に巻かれた包帯には血が滲んでいるけれど、それも日に日に少なくなっていっている。とりあえず、死ぬことは避けられそうだった。

 もちろん、しばらくは安静にしてなきゃいけないのだけど、キエラは失われた右手の代わりに左腕を振って空間に穴を作った。


「恐怖を集めないと」

「駄目だよ、キエラ。今は寝てないと」


 あの由香里という女は死んでいないらしいけれど、さりとてこちらに攻め込むような事態にはならなさそうだ。

 だから、今はキエラには回復に努めてほしい。


「この腕、もう使えないのかしら」

「そんなことない。なにか……いい方法があるはず。義手とか」


 ティアラにも、それがどんなものか詳しくはわかってないのだけど。


「義手……面白そうね」

「ええ。元気になったら調べましょう。だから今は休んで」

「わかったわ。けど、恐怖は集めないと。ティアラ、あの街にコアを投げ込んで、何かをフィアイーターにして」

「うん。後でね。ちゃんとやるから……」

「お願い。メインコアがあと少しで完成するの……」


 言われたことは守るとも。キエラにとっては大事なことだ。でも。


「キエラは、ゆっくり寝てて。あとのことはわたしに任せて、ね?」


 彼女の頭をなでながら、ティアラは語りかけ続けた。

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