12-7.つむぎの家族
「彼氏……ということは、もしかして?」
「はい、男性なんです。けど着物似合ってるでしょ?」
「ええ。とても。ごめんなさい、男の子だって全然気づかなかった」
「ですって、良かったね剛くん」
「は、はい……ええっと、こういう格好をするのが趣味? みたいなものなんです。同性愛とかでは全然ないんですけど」
「そうなのね。最近の男の子も、こういうのに遠慮がなくて進んでるなー」
なんか、思ったよりあっさり受け入れられた。
麻美はそれがわかってたんだな。すごいな。
「あ、愛奈さんお寿司買ってきたんですけど、みんなで頂いてください」
つむぎの母がにこやかに告げた。
それから、剛たちが買ってきた寿司パックに気づいたようだ。
うん、女装云々よりも、こっちの方が気まずくなった。
するとちょうどいいタイミングで、玄関の鍵が開く音がした。
悠馬たちが帰ってきたんだ。
――――
愛奈からメッセージが来て、剛たちだけじゃなく、つむぎの両親も既に来ているとは事前に知っていた。
それを知ったつむぎの喜びようは相当なもので、ラフィオの手を引っ張って早く帰ろうと急かす。危ないから、ゆっくり歩こうな。本当に交通安全のお守りが必要になるぞ。
玄関には、普段より多くの靴が並んでいて。
「お父さん! お母さん!」
リビングにその姿を見つけた途端、つむぎは駆け出して母親に抱きついた。
「あけましておめでとう、お母さん。えへへー」
「ええ。あけましておめでとうございます。つむぎ、あまり帰れなくてごめんね。寂しくない?」
「寂しくないよー。みんなと一緒だから」
「そう。本当によかった。はい、これお土産」
「わー! もふっコとかげさんの大きいぬいぐるみ! お母さんありがとう!」
親子の久々の再開に、俺も温かな気持ちになれた。
遥もアユムもつむぎの両親と会うのは初めて。この家に女子高生がふたり同居しているという事実を、この両親は知ってはいるはずだけど。
「は、はじめまして。神箸遥です。悠馬の、えっと、クラスメイトです!」
「オレ、じゃなかった。アタシは女川アユムだ、です。悠馬とは昔からの友達です」
遥は俺の彼女だとは言わなかったし、アユムも口調を柔らかく見せようと努力しているようだった。
俺との同居を、不健全なものだとは思わせないための心遣いか。
ご両親も、遥の足には少し驚いた様子ながら、しっかり挨拶を返していた。
「あ、お母さんあとひとり紹介するね! ラフィオ、来て!」
「え。あ、ああ……」
なぜかラフィオは、俺の後ろに隠れている。小さな妖精になって完全に隠れるわけにもいかず、少年姿のままなんとかやりすごそうとしてるみたいに。
もちろんそんなことは不可能だ。
少し震えているラフィオの目は、つむぎというより母親の方を向いていた。
「お母さん、彼がラフィオだよ。わたしの恋むぐっ!?」
「は、初めまして。ラフィオと言います。海外から来ました。親がこの家と知り合いだったので、泊めてもらっています。つむぎとは、歳の近い友達として、とても仲良くさせてもらってます。だよねつむぎ、僕たち友達だよね?」
「う、うん! ラフィオとは友達! すごく仲良しなの!」
恋人呼ばわりは良くないって警句を忘れかけていたらしい。
なんとか取り繕ったけど、母親はラフィオにじっと目を向けた。
「なるほど、ラフィオくん」
「は、はい」
「魔法少女の仲間の、あのモフモフと同じ名前だけど……」
「ぐ、偶然です。僕の国ではありふれた名前なので。よくあることですよ」
「そう……なんだか、ラフィオくんからもモフモフの気配を感じたんだけど」
「ひえぇ……」
母親もまたモフリストらしい。ラフィオはこの母親と一度獣の姿で対面したことがあり、娘をも凌駕するモフモフへの情熱に恐怖を感じたらしい。
それが今、再び目の前に現れた。
隠れていたのはこれが原因か。
「気のせいか。ラフィオくん、つむぎをよろしくね」
「は、はい……」
それでも彼女は大人であり、目の前の少年が実はモフモフだなんて夢見がちな想像はしないもの。
納得して、ラフィオは解放された。
「生きた心地がしない……」
「ラフィオー。一緒にモフモフしよー」
「僕はね、モフモフをモフモフする趣味はないんだよ」
子供たちに人気のキャラクターらしい、青いトカゲのぬいぐるみを抱きしめたつむぎは、当然のようにラフィオと一緒に過ごす。
あと、テーブルに大きな寿司のパックがふたつ置かれていた。なんなんだろう、これ。それに剛はなんで着物着てるんだ。似合ってるけど。
「遥ちゃんよく帰ってきたわ。みんなにお茶出して! お酒でもいいけど! わたしひとりでお客さんの相手とか無理です!」
「情けないこと言わないでください! お姉さ……愛奈さんは家主なんですから!」
「お? 今、お姉さんって言わなかったけど」
「つむぎちゃんのご両親に、恋人同士で同居するような不健全な家と思われたくないので。今だけそういうことです」
「そっかー」
キッチンで泣きつく愛奈にため息をつきながら、遥はお湯を沸かし始める。俺も手伝いと酒を運ぶためにキッチンに入ったから、ふたりの会話は聞こえた。
家人が帰ってきた愛奈は、肩の荷が下りたとばかりに飲酒を始めるだろうから。




