12-4.初詣
「あー。この人に出すの忘れてた。あ、この人もしばらく会ってないなー」
とまあ、出してない相手もいるわけで。そういう人たちに改めて送る必要がある。だから年賀状チェック。
「麻美からだ。どうせ今日会うんだから送らなくてもいいのに。お返しの年賀状手渡しでいっか。あ、みんな宛にも来てるわよ。剛から」
「マジか」
「あー。そういえば先輩、去年もわたしの家に年賀状送ってきたなー。なんか部員全員に送ってるらしいよ」
そして今年も遥だけでなく、この家に住んでいる全員宛に、ひとり一通ずつ年賀状が送られていた。
そういえば剛の家はお金持ちだった。さすが、そういう所ちゃんとしている。
ちなみに剛と麻美は、今日の昼頃に揃ってうちを訪問する予定だ。だから年賀状なんていらないと言えばいらないのだけど。
「じゃあ姉ちゃん。初詣済ませてくる。すぐ戻るけど、剛たちが来たら対応してくれよ」
「うん。わかったー」
「あと愛奈さん、お父さんたちが来るかもしれないので、それもお願いします!」
「あー。ええ、いいわよー」
つむぎの両親も、愛奈にとっては顔なじみ。年賀状を数えている愛奈は余裕そうな返事をした。
遥の車椅子を押しながら、正月の街を歩く。
初詣と言っても、向かうのは近所の神社。
有名な神社に行くのも考えたけど、電車に乗る手間とか時間がかかる。
訪問者の予定があるのも考えれば、近場で済まそうとみんなの意見が一致した。
それでも近所の小さめな神社も、元日ということでそれなりに人の数があった。
「混んでるなー」
「混んでるねー。着物の人も多いねー」
「だなー。オレも着物来てみたかったな」
女子高生ふたりがそんな話をしている。
正月に合った振り袖なんて、俺たちのどの家にもない。レンタルも面倒ということで、着物に関してはやめておくことになった。
けど、実物を見れば少し気になるものらしいな。
「アユムちゃんの実家だとどうなの?」
「女はみんな着物着るぜ。オレはまだ小さいからって着たことなかったし、正直憧れもしないけど。動きにくそうだし」
「なるほどねー。たしかにアユムちゃん苦手そうだね。似合いはするだろうけど。わたしも車椅子だから、あんまり似合わないかな」
「似合いはするだろ。いいんじゃないか? 車椅子に着物」
「いいかもしれないけどさ。ほら、あんまりゆったりした格好だと、裾を地面に擦ったり車輪に絡まったりしそうで」
「あー。そういう心配もあるのか。車椅子って大変だな。だから遥は普段から足を出す格好してるんだな」
「それは短いスカートが好きなだけ」
「そっかー」
そんな会話をしながら、俺も着物姿の参拝客に目を向ける。
確かに動きにくそうだ。ああいう格好、俺もあまりしたくはないな。
賽銭箱の前には列が出来ていたけれど、それもさほど長くはない。少し待てば順番が来た。
百円玉を投げ入れてお祈りをする。
俺の家族が、これからもずっと平穏でありますように。たとえ怪物が暴れる街であっても、ちゃんと家族と共に暮らせますように。
みんなはどんなお願いしてるんだろうな。
「ラフィオ、おみくじ引かない?」
「引かない。悪い結果が出たら、なんか洒落にならなさそうだし」
「やったー! 見て! 大吉だって!」
「早いなおい」
賽銭箱の前から移動すれば、つむぎがおもしろいものを見つけて早速一枚引いた。
「えっとね、仕事運がいいんだって」
「仕事してないだろ小学生」
「だねー。あと恋愛運もいいって。好きな人と結婚できるって!」
「本当なのか? 本当におみくじにそこまで書いてるのか!? 見せろ!」
「やだー!」
つむぎはおみくじを高く掲げて、ぴょんぴょん跳ねてラフィオに見せないようにしていた。
これは書いてないな。そんな具体的なこと、おみくじに書いてるはずがない。
変身してなかったら少年のラフィオの方が体力あるから、少し頑張れば無事におみくじは奪えた。楽しそうだからいいけど、周りに人がいるから気をつけろよ。
「ほらやっぱり結婚とか書いてない!」
「けど大吉でいいこと書いてるのは本当だもん! 見てよ。愛は深まるって書いてるよ! ラフィオはわたしと愛し合うこと、嫌?」
「それは嫌じゃない」
「じゃあ結婚してもいいじゃん!」
「それは飛躍が過ぎる!」
「おみくじ、結びつけにいこーっと」
「おい待て! 走るな危ないから!」
駆け出すつむぎを慌てて追いかけるラフィオ。仲がいいな。
あのつむぎは、確かに着物とか着れないよな。
「ねえ悠馬。絵馬書こうよ」
遥もなにか見つけたのか、そっちに車椅子を自力で押していった。
絵馬か。そういえば書いたことなかったな。
「えっとー。何書けばいいのかなー?」
「願い事だろ」
「よし! 障害を持つ人が、みんな幸せになれる世界が来ますように」
「いい願いだな」
「あと、勉強しなくても頭が良くなりたい、と」
「願いの程度の落差が大きい」
聖人みたいな願いと、なんとも俗っぽい願いが並んで書かれた絵馬。遥らしいといえばそうだけど。
「オレは、えっと。都会人になりたい」
「アユムはもう都会人だろ。都市部に住んでるんだから」
「あと、田舎に帰りたくない」
「願いがネガティブすぎる」
思ってても、そんな後ろ向きの願いは書くな。
「わたしはねー。ラフィオと結婚したい!」
「まだ言ってるのかお前は!」
いつの間にか、つむぎとラフィオもこっちに来ていた。こいつはブレないな。
「あと、世界中のモフモフをモフモフしたい!」
なんなんだろう。願いをふたつ書くのが、実は流儀だったりするのかな。




