12-1.大晦日
年末は忙しいものと言われているけど、高校生である俺たちはそんなものとは無縁だ。
クリスマスとその翌日以来、フィアイーターが出ることもなく、俺たちはのんびりとした年末を過ごしていた。
たぶん正月も同じように、ゆったり過ごせるはず。
年末進行とやらに忙殺されて毎晩浴びるように酒を飲んでいた愛奈も、無事に正月休みに入ることができて、解放感から毎晩浴びるように酒を飲んでいた。
「姉ちゃん、少しは酒を控えろ。休肝日を作れ」
「やだー」
スルメを齧りながらビールを一気飲みする愛奈に呆れかえるけど、まあいいか。こんなのだけど、会社の健康診断では健康そのもの何も問題無いって結果が出ているらしい。
酒の悪影響を受けない体の作りをしているのだろうか。人体の神秘だ。
まあいいか。仕事が苦手すぎる愛奈が一年頑張ったんだ。今年は有給あんまり使わなかったし。だから、少しくらい甘やかしてあげよう。
そして、いよいよ新年を翌日に控えた大晦日。
「おせちの材料、足らなかったから買いに行こ」
遥が突然、そんなことを言った。
冬休みに入ってから、遥はいつも以上にキッチンに入っておせち料理の準備をしていた。数の子の塩抜きをして黒豆とくわいを煮て。伊達巻きとかまぼこは買ったやつを切っていた。
「やー。六人もいると量が多くてねー。作りがいがあります!」
「ありがとうな、遥」
「ううん。いいの。わたしがやりたくてやってるから! それより、追加の材料買いに行こうよ。あと年越しそばも買いに行かなきゃだから!」
「わかった。行くか。たぶんラフィオたちも、石の交換を終えるくらいだから、合流するか?」
「うん。そうしよっか。アユムちゃん、お留守番よろしくねー」
「いや、オレも行きたいんだけど」
「あはは。行こう行こう」
玄関の方に、遥とアユムが並んで向かっていく。
俺も愛奈に少し出かけると声をかけてついていった。
愛奈はといえば、前日の深酒の影響でずっと寝ている。二日酔いの辛さに、もう酒なんて飲むものかと愚痴を言っているのは何度か聞いたことがあるけど、結局その日の夜には飲むんだから意味がわからない。
酒ってそんなに魔力があるものなのかな。
――――
ラフィオとつむぎは、今日も河原に行っていた。
寒さが厳しくなる季節。ちゃんと温かい格好をしている。フワフワモコモコモフモフの格好だ。
石も冷たいから、手袋をして拾う。
「あとどれくらいで向こうに行けるの?」
「一ヶ月くらいかな。そこまで時間はかからないよ」
「そっかー。早く、優花里さんを元に戻してあげなきゃだね!」
「そうだね」
他愛もない話をしながらの石拾い。
少し離れたところで、ラフィオたちとそう歳の変わらない少年たちが運動していた。
地元の少年野球チームだ。本格的な試合をしてるというわけでもなく、冬休みの間に強化トレーニングをするとか、そんな趣旨なんだと思う。
自分たちだって、樋口に言われてこの河原までトレーニングしてるわけだし、河原に沿った道をランニングする人はよく見るし。
そういう場所なんだろう。
元気に声を上げている少年たちを、保護者の皆さんが見守っている。母親たちが多いけど、父親も何人かいた。
働いている父親たちも、大晦日は正月休みに入っている。普段は忙しくてなかなか見れない息子たちの雄姿を、休暇なら見れるというわけで。
「いいね、家族って」
そんな光景を見たつむぎが微笑みながら言う。
「憧れるかい?」
「お父さんとお母さん、お正月はちょっとだけ帰ってくるらしいよ」
「そうか。それは良かった」
つむぎの両親も、娘のことは愛している。仕事が忙しいのも、娘のためでもある。
だから正月くらいは帰ってくる。
つむぎの笑顔は、それが楽しみって意味でもあるのだろうな。
「ラフィオのこと、彼氏って紹介していい?」
「どうしようかな。とても魅力的な考えだけど、ご両親が驚かないかい?」
「そっか。びっくりさせちゃ駄目だよね」
「友達、くらいでいいだろう」
つむぎが悠馬の家に一緒に住んでいることは、ご両親も知っていること。そこに預けられている外国人の知り合いというのが、ラフィオの公的な立場。
シェアハウス的に一緒にいる、同い年の友達くらいの関係の紹介でいいかな。
小学生には恋愛は早いって考えの大人もいるし。うん、これくらいがいいはず。
ふと、つむぎのスマホが鳴った。
遥かららしい。
「おせち料理と年越しそばの材料買いに行くから、一緒に行こう、だって」
「そうか。じゃあ、とりあえずこの石を家まで運ばないとね」
「うん! おせち料理楽しみだねー。わたし伊達巻き好き!」
「だろうね」
「ラフィオは何が好き?」
「僕はおせち料理食べたことないからわからないよ。初めてだ。けど、数の子っていうのは興味あるね」
「あー。おいしいよね。お正月にしか食べないものだけど、わたしも好き。魚の卵だし」
「君は本当に卵料理が好きだね」
そんな会話をしながら家の方に向かっていると、悠馬たちも来ているのが見えた。




