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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第11章 クリスマス回

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11-52.いつか家庭を

 地上四十二階の高級フレンチのお店。夜景が美しい。

 そこに樋口のエスコートで入る。俺が高校生なのもあって、周囲に不審には思われていない様子で。


 樋口は予約していたようで、あっさりと席に通されてウェイターがすかさずやってくる。あれ、こういう場ではギャルソンって言うんだったか? うん、わからない。

 なんかこういう場ではワインが出るらしい。それも樋口はあらかじめ指定していたそうだ。


「特別な日ってわけじゃないから、そんなにグレード高いワインでもないけどね。でも悠馬、あなたの産まれた年のワインよ」

「そ、そうか」


 それ、なんか特別な意味を持ってる物じゃないのか?


 もちろん、俺は二十歳未満だから飲むことなんかできない。俺のグラスには代わりに炭酸水が入っていて。


「じゃあ、乾杯。模布市の平和と魔法少女に」

「乾杯」


 チンと音を鳴らしながらグラスをぶつけ合う。


 ともすると愛奈に負けないくらいの酒好きである樋口も、今日は場所に合わせて上品な飲み方を心がけているようだった。


 そして料理が運ばれてくる。前菜とかスープとか。見た目にも華やかで日本人の口にも合う味付けがされている、シェフの名刺代わりの一品とか。

 美味しかった。けど、なんていう料理なのかウェイターが説明してくれたけど全く覚えられなかった。


 たぶん、普通はそういうものなんだろう。


 食事を胃袋に入れれば、最初は緊張していた店の雰囲気にもだいぶ慣れて、リラックスできるようになった。

 魚料理を口に運びながら、窓の外を見る。下界を忙しなく動く、年末の光景が見える。


「模布市は平和だな」


 さっき樋口が言っていたことを、俺も噛みしめるように口にした。


「ええ。平和ね。時々怪物が暴れる街でも、ここの市民は強かに生きている。だから平和。あなたたちのおかげよ」

「それに、樋口のおかげでもある」

「そう? わたしはあくまでサポート役だけど」

「でも、俺たちは樋口に助けられてる。樋口がいないと、ここまで戦ってこれなかった。今回だってクリスマス返上で仕事をしてたわけだし。ありがとう、樋口」

「……ええ。そう言ってもらえて嬉しいわ。今日はクリスマスのデートの代わりってことね」

「姉ちゃんたちが聞いたら怒るだろうな。けど、メリークリスマス」

「ええ。メリークリスマス」


 ふたりで窓の外をしばらく眺めた。静かな店の、ゆったりとした時間の中のほんのひとときが心地よかった。




 やがて食事も終わり、俺たちは下界に戻る。


「飲み足りないわね! ちょっと居酒屋行かない?」

「おい」


 年末の街を歩き回っても構わない格好をしてるとはいえ。高校生を連れて夜の居酒屋に行こうとするな。


「いいのよいいのよ。わたし公安だから」

「余計にまずいだろ。公務員がそんなことするのは」

「悠馬が飲むわけじゃないから、いいのよー。せっかく高校生を一日好き放題できる日なんだから! 楽しまなきゃ!」

「その言い方が既にアウトだ!」


 さほど酔ってるわけではないのに、樋口はテンション高めで俺の手をぐいぐい引っ張っていく。

 大きな駅だから、居酒屋もたくさんあるわけだけど。


 周りの目がちょっと痛かった。いい歳した大人が高校生を連れ回してるなんて。


「ほら。わかった。少し付き合ってやるから、せめて落ち着いた態度でいてくれ」

「本当? ふふっ。悠馬は話のわかる子だって信じてたわ」

「なんなんだこいつは……」


 少し落ち着いた雰囲気になった樋口を見てため息をつく。


 さっきもビルの上から見下ろしていた人々の足並みが、今度は近くに見える。

 樋口と同じように飲みに行くって感じの会社員の集団や、デート中らしいカップル。

 それから、家族連れ。


 晩ごはんどこで食べようかって会話とか、子供がなにかわがままを言って苦笑しつつ応じる両親の様子とか、そんな他愛もない光景が俺の目に留まる。


「家族が……普通の家庭を持っていないこと、今でも寂しいって思う?」


 ふと、樋口が落ち着いた口調で尋ねてきた。


「さあな。前までは思ってたけど。今の家はにぎやかだから」

「そうね。幸せなことよ。けど、ああいう普通の家族に憧れたことは?」

「……」

「ま、わかんないわよね。それでいいと思うわ。家族はまた作れるものだし、いずれあなたも結婚して家庭を持つことになるかもしれない。その時、あの時憧れていたのかもって気づくのよ」

「俺が、家庭を? 姉ちゃんと?」

「ちょっと待ちなさい」


 いい店がないか歩きながら探していた樋口は、俺を咎めるように止まった。


「家族は作れるって話でしょ。なんで元からの家族の話になるのよ」

「……確かに」

「まさかあなた、実の姉と結婚して子供を作りたいとか思ってないでしょうね?」

「考えてない。うん、絶対に」

「だったらいいけど」


 ただ、結婚と言われて身近な女を咄嗟に想像したとき、なぜか実の姉が思い浮かんだだけだ。


「遥とかアユムと結婚するかも、とか考えるべきだったかな」

「身近な人とそういう想像するのも、生々しいから考えものだけどね。これから出会う人もいるでしょうから」

「ラフィオとつむぎは、たぶん結婚する気満々だぞ。主につむぎの方が」

「あれは特殊な事例。というか、ラフィオと結婚って法的にできるのかしら。無理よね戸籍がないから。本人が望むならさせてあげたいけど」


 できるのかな、それって。


 俺は再度、街を行く家族連れを見た。幸せそうだな。


「結婚とか、俺全然わからないけどさ、ああいうのに憧れる気持ちはあるんだ」

「そう。幸せなことね。わたしも……ちょっと憧れるかな」


 自分がそれを作れるかは別として。


 そして、確かなことがひとつだけあった。


 俺は、こういう幸せを守るためにも、これからも戦わなきゃいけないってことだ。

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