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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第11章 クリスマス回

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11-49.戦いの後の静けさ

 見れば、セイバーが街灯の点灯部分を滅多切りにしているところだった。

 フィアイーター自身も大きく暴れているけど、それをライナーと剛が必死に押さえつけている。


 バーサーカーもすぐに加勢をと駆け出したけど、その必要もなさそうだった。


「まったく! こいつは! 散々苦労かけさせて! さっさと死になさい! この! この!」


 セイバーがこの細長い街灯とずっと戦っていたのは知っている。苦労してたんだな。

 その恨みを晴らすべく、何度も何度も刃を振り下ろしていた。


 やがて、ある一撃がコアに当たったらしい。黒い粒子が空気中に放たれて、フィアイーターが壊れた街灯へと戻っていった。


「あー! 疲れた!」


 そしてセイバーはその場に座り込む。


「おい。行儀悪いぞ」


 バーサーカーは歩み寄りながらたしなめたけど、それを聞くセイバーではない。


「だってー。こいつ硬いし。長いし。ひとりで戦わなきゃだったし。大変だったのよ」

「頑張ったのはわかるけどさ」

「悠馬ー。どこー? 疲れて歩けないの。背負って! てか抱っこして!」

「ここにいねえから」

「えー」

「おい。寝転ぶな。座るだけでもみっともねぇのに!」


 そしてふと気づく。いつもはこういうの、悠馬がいなければライナーが諌めてなかったか?


 周りを見回した。さっきまでフィアイーターを押さえつけていた黄色い魔法少女は、街灯の残骸を無言で見ていた。

 意識は街灯ではなく、別のところにあるらしい。しきりに左足のつま先をトントンと地面に当てている。その感触が確かに存在していることを確かめるみたいに。


「ライナー?」

「え? なに? どうしたの?」

「いや、なんかぼーっとしてるなって思って」

「あー。うん。なんかね……キエラ、殺せなかったなって」

「ああ。そうだな」


 つま先トントンは終わったけど、ライナーの心情はなんとなくわかった。


「怪我はさせられたけどね。なかなか難しいね、戦いって」

「……ああ」


 バーサーカーには、なんて声をかければいいのかわからなかった。



――――



 穴に転がるように入ったキエラたちは、当然エデルード世界に落ちるように戻ってきた。


 こちらの穴を床に近い位置に作ったために、落下自体のダメージはあまりない。めちゃくちゃ痛いとしても、戦いで受けた傷に比べれば大したことはない。


「キエラ! キエラ! 死なないで!」

「あっ。い、痛い! 痛い! わたしの! わたしの手!」

「大丈夫、大丈夫だよ! きっとなんとかするから!」


 小屋の床に血が広がっていく。止血ってどうすればいいの? 包帯で傷口を縛るとか?

 貧しい高校生でしかなかったティアラにそんな知識があるはずもない。けれど何もしないわけにはいかない。


 とにかく血を止めないと。それから、それから……。


「あああ! ラフィオ! こんな体になっても、わ、わたしのこと、愛してくれる!?」

「うん! きっとそうなるよ! ラフィオもわかってくれるよ! だから、頑張って生きないと!」

「わたしの右手! 右手が! 絶対に許さない! あの女許さないから!」

「落ち着いて! 興奮したら血が止まらない!」


 強引にキエラの体を押さえつけて、切り口のあたりを包帯で強く縛る。


 こんな小さな女の子が、素人の処置で救えるのだろうか。ううん、救わないといけない。


「キエラ。小さくなって。そうしたら傷口が塞ぎやすくなる」

「え、ええ!」


 ティアラに言われて、ようやく思いついたとばかりに妖精の姿になった。この姿でも右前足が途中から無くなっているのは変わらない。

 けど、確かに塞ぐべき傷は小さくなった。キエラ自身が小さくなったから、体力も減ったのかな? それはないと思いたい。


 ティアラは懸命な看護を続けた。



――――



 戦いが終った現場に戻った俺は、なんか静かな魔法少女たちの姿を見ることになった。

 大きなラフィオに抱きついてモフモフしているハンターはまあ、いつものことだ。


 地面に寝転がるセイバーは、そのままライナーとバーサーカーに目をやっていて、声を上げるのを躊躇ってる様子。見られてるふたりも、何故か無言だった。


「悠馬。優花里さんたちはどうだった?」


 魔法少女のコスプレ姿の剛だけはいつも通りだった。


「それは……意識を失っている。ラフィオ、一度彼女の容態を見てくれないか? どんな状況なのか、ラフィオにしかわからないだろうから」

「わかった。どこに行けばいい?」

「樋口に連絡しておく。たぶん、あの病院だろうけど」

「皆さん。そろそろ撤収しましょう。人が戻ってきます」


 あちこちに壊れた車やらその残骸が転がる現場に、澁谷がやってきた。


「電源車で皆さんの家の近くまで送りますので。剛くん、麻美さんが待ってるわよ」

「あ、ありがとうございます。ではお先に失礼しますね」


 赤い魔法少女がぺこりと頭を下げて去っていく。俺たちも帰らないと。


「遥ちゃん。車椅子はうちのスタッフがちゃんと確保しました。ぬいぐるみもね。今、マンションの近くまで運んでるところよ」

「そうなんですね。ありがとうございます。えへへ。ハンター良かったね。ぬいぐるみさん無事だって」

「はい! お外で放っておいたから寂しがってると思います。後でいっぱいモフモフしてあげないと。早く帰りましょう!」

「モフモフするのは余計だと思うけどなー」

「ラフィオもモフモフしてあげるね!」

「いらないんだよ、それは」

「悠馬ー! 起こしてー」


 少し静かにしていたと思ったセイバーが、俺を見た途端に声を上げる。まったくこいつは。


「ほら、立て」

「抱っこしてー。疲れたから! もう一歩も動きたくないです!」

「俺だって疲れてるんだよ」


 そりゃ魔法少女よりは運動してないかもしれないけど。こっちは生身で戦ってるんだ。


「やだやだ。明日仕事じゃん。今日はもう体力使いたくないの!」

「ああもう。わかったから!」


 このままなら永遠に動かなさそうだ。根負けした俺はセイバーの体を抱え上げた。そうだよお姫様抱っこだ。

 こうなると、ライナーがうるさく言ってくるはずなんだけど。


「……」


 今日の彼女は、なんだか上の空だった。

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