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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第11章 クリスマス回

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11-48.目覚めない

「フィァァァァァ!?」


 街灯フィアイーターの叫び声が響く。そのひょろ長い体が大きく傾いたと思うと、道路沿いに建っていた何かの店舗に倒れ込む。

 建物のフレームが歪み、大きな窓ガラスが割れる音。


 それから、悲鳴。こちらからはその姿は見えないけど、中に人がいたらしい。

 こんなに近くで大型の怪物が暴れているのに、逃げるのではなく建物に立てこもることにした人がいるのか。確かに一時的な避難場所としてはいいかもしれないけど。


 いや、もしかすると戦いを近くで見たい人がいるのかも。ずっと姿の見えないあの人たちが。


「優花里! 優花里!」


 駆け寄る俺の耳に、彼氏の声が聞こえてくる。

 そうか、あのふたりはここにいたのか。


「みんな! フィアイーターを急いで殺してくれ! 俺は中のふたりを助けに行く!」

「あ、わたしも行くわ」

「……ああ」


 セイバーが剣を握りながら俺に先行する。


 街灯のフィアイーターは店舗に体を倒れかけさせながらも、その場で大きく藻掻いていた。俺だけじゃ危険すぎて近づけもできない。


「こら! おとなしくしなさい! そりゃ! てかあんたのコアはどこ!? 頭とか!? ようやく手の届く位置に来てくれたわわね!」


 セイバー自身、このフィアイーターにこれまで有効打を与えられていなかったことを歯がゆく思っていたらしい。奴の腕を剣で弾き返しながら、頭部に接近していく。

 俺はそんなセイバーに少しだけ目をやりながら店舗の中に入った。ケーキ屋さんだったらしい。店内には甘い匂いが充満していた。


「無事か!?」

「優花里が! 優花里が俺を庇って! あの怪物が手を伸ばしてきて……く、首が折れて!」

「安心しろ。その状態になったら、魔法少女じゃなきゃ殺せない……と思う」


 自信はなかった。キエラは魔法少女じゃないのに、優花里を殺そうとしていた。つまりフィアイーターや黒タイツにも、同じフィアイーターを殺す力があるのかも。

 同族だから、それは可能な気がする。ラフィオに聞かなきゃわからないな。


「詳しく状況を教えてくれ」

「優花里は俺を連れてこの店に逃げたんだ。お前らがキエラ……あの女の子を殺せるかちゃんと見守りたいし、必要なら加勢するって」

「そうか」


 篤史という彼氏と一緒に、意識のない優花里の体を両側から支えながら戦場から離れていく。


 ちらりと振り返れば、魔法少女たちがよってたかってフィアイーターを攻撃していた。


 俺が運んでいるのもフィアイーターだけど。人間の体をしているのに、体温は妙に冷たい。呼吸もしていないし脈もない。けど血色は良いという、よくわからない状態。

 ただ眠っているだけに見える。折れたという首も、この地の魔力を吸っていつの間にか治っていた。


 フィアイーターが回復する姿にホッとする時が来るなんて、考えたこともなかったな。


 ただし目覚めはしなかった。なぜかは俺にわかるはずもない。

 篤史は悔しさをにじませながら、さっきあったことを話し続けた。


「優花里は俺に逃げるように言って、自分は戦いに戻ろうとしたんだ。その方が敵を確実に殺せるから。けど、俺だけ逃げる? そんなことできるはずがない。言い争っているうちに、キエラは大怪我をして逃げていった」

「ああ。俺もそれは目の前で見た」

「優花里はすぐに魔法少女の方へ飛び出そうとしたよ。今なら自分が向こう側までキエラを追えると。それで魔法少女たちに殺して貰う」


 そこにフィアイーターが倒れ込んできたのか。


「あのでかい電柱が店の中でばたついて。優花里を腕でぶん殴った。それでこうなった」

「わかった。とにかく安全な所へ」

「なあ。優花里は目覚めるのか? 俺たちは元に戻れるのか?」

「それは……最善を尽くす」


 そうとしか言えなかった。


 彼と話すのが辛くて、俺はスマホで樋口に電話をかけた。

 優花里の状態と、彼氏と一緒にどこかへ保護してもらえないかお願いするために。


『ええ。わかったわ。ふたりの身柄はこちらで引き取る。病院に連れて行って、そこで保護するわ』

「今どこにいる?」

『負傷した警官を病院まで連れて行って、代わりの車を調達してたところ』


 俺たちが来るまでに孤軍奮闘してて、今も休んでるわけじゃないのか。


 俺が指定した位置に、樋口はすぐに来てくれた。たぶん警察所有と思われる車に乗って。

 そこの後部座席に意識がないままの優花里を乗せて、隣に篤史を座らせる。


「あなたたちに悪いようにはしないわ。今は魔法少女たちを信じてちょうだい。お願い」

「……わかりました」


 運転席の樋口に、篤史は頭を下げた。言いたいことはあるだろうけど、彼女のことが最優先なのだろう。

 病院に向かう車を、俺は無言で見送った。


 振り返れば、戦いは終わろうとしていた。



――――



 バーサーカーは未だにトラックの上に陣取って、屋根を破壊し続けていた。


 フロントガラスはもはや無くなっていて、そのフレームもガタガタ。天井には大穴が開いて、その縁を掴んだバーサーカーがさらに広げている。

 ところが、コアが天井に埋まっている様子はなかった。


「じゃあさっきと同じハンドルのところか!? ああくそ面倒くさい! なあハンター! こいつがまた走り出さないようにしてくれよな!」

「やってます!」


 ラフィオの上のハンターが、フィアイーターのタイヤ部分に何度も矢を放っている。タイヤはパンクしてホイールも曲がって、走るにしても随分と不自由な動きになりそうだった。

 バーサーカーはそんなトラックの運転席に、無くなったフロントガラスの箇所から侵入。さっきと同じようにハンドルを引きちぎり、パネル類を無茶苦茶に破壊していく。


 目の前に広がる闇の中に、確かにコアがあった。


「よっしゃ! 食らえ!」


 拳を大きく振り上げたバーサーカー。それがコアを粉々に砕いて、フィアイーターを単なる壊れたトラックに変えた。


 よし、あと一体。

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