11-47.キエラの右腕
フィアイーターの腕は二本。時々足も使って蹴ってくる。対してセイバーの剣は一本だ。
セイバーを挟むように両側から金属製の腕が振られて、咄嗟に避けるセイバーは敵を切る決め手に欠けている様子。
ひとりでフィアイーターを足止めしているのは立派だけど、援護が必要そうだ。
一方、トラックのフィアイーターはバーサーカーに圧倒されっぱなしだった。
体重差があるトラックに普通に対峙したらバーサーカーも勝てないだろう。しかしバスの上に乗ることで、突っ込んでくる重量を受け止めていた。その上で、対峙するフィアイーターの頭部を蹴ったり掴んだりしてダメージを与える。
トラックのフロントガラスは既にバキバキに折れていて、その窓枠も大きく歪んでいる。
フィアイーターもバスに何度もぶつかりバーサーカーを落とそうとしていたが、彼女は悪態をついて大きくバランスを崩しながらも、なんとかバスの上にとどまり続けていた。
やがて、バスを押しても意味が無いと判断したフィアイーターがバックして、そのまま距離を取ろうとした。すかさずバーサーカーがトラックの屋根に飛び乗って、窓枠を掴んで雄叫びと共に引っ張り歪めていく。
相変わらずの荒々しい戦い方だ。
「ねえラフィオ。キエラ、狙える」
「え?」
不意にハンターが告げた。
「立っているだけ。周りに誰もいない」
「よし! 殺せ!」
「うん!」
この戦いを終わらせる絶好の機会。ラフィオに言われたハンターは、即座に狙いを定めて引き金を引いた。
狙いは完璧。ただし直前にティアラがこれに気づいてしまった。
――――
「キエラ!」
ティアラの声が聞こえた。
俺が振り返れば、彼女はランナーの制止を強引に突破してキエラの近くへ走っているところだった。
キエラを庇うように抱きしめたティアラの背中に、レールガンの弾丸が命中。
悲鳴がふたつ聞こえた。いずれも苦悶に満ちていた。
「あがっ! い、痛い! 痛い痛い!」
「き、キエラ……無事……?」
「ティアラ!?」
どうやら弾丸はティアラの体を貫いてキエラにまで被弾させたらしい。
負傷の状況はわからない。けど少なくともティアラの背中には大穴が開いていて。
そこからコアが見えていた。
「ライナー! ティアラのコアを壊せ!」
「え、あ、う、うん!」
「みんな! わたしたちを守って!」
「フィー!」
「フィアァァァァ!」
黒タイツが一斉にティアラたちの周りに集まってくるし、トラックのフィアイーターもまたそちらへ向かう。
ライナーは未だに覚悟が決まってない様子ながら、ティアラの方へ走った。進路上の邪魔な黒タイツを俺と剛で押し倒していく。さらに遠方から光の矢が立て続けに飛んできた。
一本が黒タイツの頭を射抜き、別の一本はティアラの片膝を射抜いた。また悲鳴があがる。
ティアラが立てなくなったのか、地面に膝をついた。そのためにキエラの姿が明らかになる。
巻いていた包帯が血で染まり、右手の肘から先が無くなっていた。
「ティアラ! ティアラ大丈夫よ! わたしがなんとかする! 逃がすから!」
「う、うん。うん……」
明らかに弱っているティアラに、キエラは必死に呼びかけていた。その背後にライナーが迫る。
「か、覚悟……!」
光る足でティアラに飛び蹴りを食らわせようとしたライナーも、キエラの失われた腕を見て。
「あ……」
その姿に、欠損を抱えた自分を重ねてしまったのかもしれない。
心に迷いが生じた結果、蹴りの威力が落ちてしまう。キエラが片腕でティアラの体を引っ張った結果、ライナーの蹴りはコアを外れてティアラの背中を蹴ることに、
ふたり少女の体が転がる。その途中でキエラは地面に穴を作った。そして揃って、エデルード世界へと落ちていく。
追いかける暇もなく、穴は閉じてしまった。
「……」
「ライナー」
「ごめん。絶好のチャンスだったのに。わたし……」
「気にするな。それより残りのフィアイーターを殺すぞ」
「う、うん! がんばる!」
「フィアアアァァァァ!」
トラックのフィアイーターは主人たちを守るべくこちらに突進しているところだった。しかし頭の上でバーサーカーが好き勝手に暴れるせいでまっすぐ動けていない。
どうも、頭をぶん殴られ続けながら走っているみたいな感覚らしい。バーサーカーを振り落としたい気持ちもあって、大きく蛇行しながら走行している。
進路上の黒タイツも容赦なく挽き潰している。
「おい悠馬! ライナー! 避けろ避けろ! なんかやばい!」
バーサーカーに言われるまでもない。ライナーが俺の手を引いて退避する。隣に目をやれば、ハンターを乗せたラフィオも慌てた様子で飛びのいていた。剛も同じくで、ただの人間の足でギリギリの所で暴走トラックを躱す。
「うわああああ! 止まれ止まれ!」
「フィァァァァァァ!」
バーサーカーは悲鳴を上げながらも、自分が殴るのを止めるとか上からどけばいいとか、そういう発想には至らないらしい。
立派だけどな。敵を殺そうって意志は本物だから。
俺たちの前を通過したフィアイーターはなおも止まらなかった。
そいつが向かう先は。
「あ! おいセイバー! 避けろ!」
「ちょっ!? 邪魔しないでくれるかしら!? てか危ない!」
街灯のフィアイーターと戦闘中だったセイバーも暴走トラックを見て慌てて逃げる。フィアイーターは切り傷だらけの腕を伸ばしてセイバーを捕まえようとしたが、セイバーの方が少しだけ動きが早かった。
そんな街灯フィアイーターに、暴走トラックが直撃した。




