11-43.バスに突入
金属同士がぶつかる音がして、フィアイーターの指が一本切り落とされる。
「あー。硬い。見た目より硬いわね、こいつの体。けどなんとか出来そう!」
「セイバー、オレの助けは必要か!?」
「いいえ。大丈夫よ。バーサーカーあなたはみんなの援護をしてなさい」
「おう! わかった!」
「あのバスを止めるとかね!」
「そうだな! 任せろ! うおおおおおおおお!」
再び動き出そうとしているバスのフィアイーターに、バーサーカーは真正面からぶつかった。顔が描かれているフロントガラスに大きなヒビが入る。
「バーサーカー! こいつのドアを開けろ! 中に人がいるんだ!」
「うおっ!? マジか!? よし!」
今の激突でバスの動きが止まる。その隙にバーサーカーは側面に回り込んで、前方の扉を思いっきり蹴飛ばした。
アユムの田舎にもバスはあるわけで、扉の構造は知っているはずだ。スライドさせるように動かして扉が折りたたまれるって物なんだけど、その折れる箇所を攻撃した。
俺がバスの前輪に鉄パイプを差し込んで動き出さないようにしていると、タイヤを光の矢が射抜いた。ラフィオがバスの周りを動いて黒タイツを蹴散らし噛み殺しながら、ハンターがタイヤをパンクさせているらしい。
バスの両側面から生えている腕にも複数の矢が刺さっている。それでも腕自体はなんとか動かせているらしく、バーサーカーはそれを両腕で受け止めながらの蹴りを続けていて。
「よっしゃ開いた!」
バキッと大きな音と共に、バスの扉が開いた。バーサーカーはすぐさまバスの中に駆け込んで呼びかけた。
「おいお前ら! さっさと逃げ」
「フィー!?」
「うおっ!? 何だこいつら!?」
バスの中に潜んでいたらしい黒タイツに襲われていた。
――――
あの女を殺すために万全を期す。キエラはフィアイーター三体を用意して大攻勢を仕掛けることにした。
やはり大きなフィアイーターがいいなと考えた彼女は、そのひとつに大きな乗り物を選んだわけだ。すると中におまけがついてきた。
ティアラ曰く、バスには人がつきものらしい。へえ、そういうのがあるんだ。
ちなみに大きな乗り物をもうひとつ選んだけど、トラックの方は運転手がすぐに逃げ出しちゃった。残念。
けど、バスの中に十人ほどいた人間からは、良い恐怖が得られた。サブイーターたちに脅かさせ続ければ、このフィアイーターは傷を受けてもすぐに回復するから便利だ。
「ふふふっ! もっと怖がりなさい! ほらほら怪我しちゃうわよー!」
「キエラ、なんか楽しそう」
「え? そうかしら?」
中の乗客たちを煽っていると、隣のティアラが微笑ましいものを見る視線を送ってきた。
こちらとしては怖い感じを出したいのだけど。楽しそうなら、相手も楽しくなってしまうじゃない。
「キエラはかわいい女の子だから、怖い感じを出すのは無理だと思うな」
「そうかしら。困ったわね」
「でも怖い女なら、ラフィオって子も近づかないでしょう? だから今のままでいいと思うな」
「! そうね! 確かに! わたしはかわいいの――」
ドンと音がして車内が揺れた。フロントガラスの向こうに魔法少女の姿。
それきりバスは走行ができなくなったのか、その場で咆哮を上げて揺れるだけ。割と揺れが激しいから、中の人たちがまた悲鳴を上げる。
そしてドアが壊された。すぐさま待ち構えていたサブイーターが襲いかかる。緑色の魔法少女はその不意打ちに対応しきれず、サブイーターに押し倒された。
よしいいぞ! ぶん殴って! 魔法少女なんかボコボコにしなさい!
そう思ったのに、魔法少女でもないくせに戦ってる覆面男がサブイーターを横から蹴飛ばしてしまった。
次に彼はバスなかに踏み込んできた。本当にムカつく奴!
――――
ピンチになってたバーサーカーをなんとか助けてから、俺が代わりにバスの中に入った。
なるほどな。姿が見えなかったキエラたちはここにいたのか。優花里を殺すのが優先ならば指揮を取るために現場から離れるのは考え辛かったけど、こんなに揺れて居心地の悪い場所に隠れていた。
乗客がいて恐怖に震えていること自体は本当だったのが、たちが悪い。
「あんた嫌い」
包帯で腕を吊るしているキエラが不機嫌そうに言う。
怪我のおかげで迫力は出てないけど、言葉の内容自体は俺も同じことを考えているから気が合う。
「バーサーカー。もうひとつのドアも壊してくれ。客を逃がす出口は多い方がいい」
「おう。任せろ」
「みんな! やっちゃって!」
俺の指示とバーサーカーの返事とキエラの殺意に満ちた発言がほぼ同時に行われて、さらに黒タイツたちがこっちに殺到。
とはいえ狭いバスの中だ。一列になって迫ってくるしかない。取り囲まれる心配がないのがいいな。
もちろん狭い車内では棒を振り回す余地もないから、俺だって素手での戦いを余儀なくされるけど。というか鉄パイプはまだ、このバスのホイールに挟まっている。
列をなして襲ってくる黒タイツの先頭の一体に大して、俺は腰を低くしながら突っ込んだ。
黒タイツの鳩尾のあたりに肘鉄を食らわせつつ押す。黒タイツからくぐもった叫びが聞こえつつ、奴は後続にぶつかりながら後ろによろけた。
が、転倒させるには至ってない。後続が支えになったからだ。
俺は姿勢を戻して黒タイツの顔面を殴り、押し返す。
「フィー!」
「ああ。行儀が悪いな!」
すると別の黒タイツが、座席の上に立ち背もたれを乗り越えて横から襲いかかってきた。なんてマナーのなってない奴だ。




