11-41.四人で変身
「ええっと! どこかに車椅子と荷物隠さないと! 樋口さんに連絡つく?」
「つかない! てか、たぶん樋口は返事してる場合じゃない」
どう考えても優花里関係での襲撃だろう。向こうが動くのが思ったより早かった。
「じゃあ澁谷さんに連絡して、テレビ局のスタッフに取りに行ってもらおう」
港の敷地内にある建物の裏手。人が通らないはずのそこに、車椅子と荷物を置く。あと、ペンギンのぬいぐるみが六体。
「どれが誰のか、わかるようにしなきゃねー」
「おい。それどころじゃねぇぞ。街が大変だ」
ぬいぐるみに目印をつけるとか並べ方を工夫するとかで悩んでいた遥かに、アユムがスマホの画面を見せてきた。
幹線道路で大型のフィアイーターが暴れているとか。怪我人が出てるとか。
フィアイーターは複数体いるとか。そんな情報が流れている。
俺のスマホにも通知が来ている。澁谷と麻美からだ。すぐに現場に行くと。敵勢力が強すぎるから、こちらもレールガン含めて総力戦で行くしかないらしい。
澁谷に、スタッフのひとりを港へ向かわせて車椅子の確保をお願いする。その間に、魔法少女たちは変身していた。
「ライトアップ! シャイニーセイバー!」
「ダッシュ! シャイニーライナー!」
「デストロイ! シャイニーハンター!」
「ビート! シャイニーバーサーカー!」
四人一斉の変身は、さすがに迫力がある。
「闇を切り裂く鋭き刃! 魔法少女シャイニーセイバー!」
「闇を蹴散らす疾き弾丸! 魔法少女シャイニーライナー!」
「闇を射抜く精緻なる狩人! 魔法少女シャイニーハンター!」
「闇を砕く鋼の意志! 魔法少女シャイニーバーサーカー!」
四人の魔法少女が並んでポーズを取っている。
「いいなあ。こういうの、すごくいい。魔法少女を作ったの、こういうのを期待してる面はあった」
「そうか。ラフィオお前も巨大化しろ」
「ああ。わかってるとも」
良いものが見られた、みたいな顔をしているラフィオに声をかけると、彼も大きな獣に変わった。
俺もまた覆面を被る。
「わーい! ラフィオモフモフ!」
「おいこら。やめろ」
「ラフィオ、澁谷たちの電源車に合流してくれ。それから一番でかい敵にぶっ放してから倒せ。もしかしたら連射の可能性も出てくる」
「わかってるとも。行ってくる」
「ライナー、俺を運んでくれ。あとのふたりも急いでくれ」
「はーい。じゃあお先に失礼するね!」
ライナーが俺を背負って現場へと走る。さすが速いな。
緊急を争う事態だから、ライナーと俺だけでも先に戦わないと。
港から現場の幹線道路までは結構離れているけれど、魔法少女の足で距離の割には短時間で到着できた。十分弱といったところか。
ああそうとも。決して短時間とは言えないよな。
「樋口!」
「遅いわよ、もう……」
襲われ続けていた方はかなり参っていた様子だった。
無人の車を背にして、掴みかかってくる黒タイツの両手を掴み返して、その腹を蹴って押し戻したところ。しかしすぐに別の一体が来る。
「こらー! 樋口さんから離れなさい!」
「フィー!?」
そこにライナーが突進。黒タイツ数体をまとめて蹴って、首を折って殺した。
「樋口、大丈夫か!?」
「ええ。怪我はしてないわ。めちゃくちゃ疲れたってだけ」
「わかった。状況は?」
「フィアイーターが三体。黒タイツも三倍いる。キエラたちの姿は見えない。米原優花里が狙いのはず」
優花里の姿はどこだ? 近くには見当たらない。
けど、トラックのフィアイーターが無人の車にガツンガツンとぶつかりながら一方向にむかっていた。車の陰に隠れて見えないけど、そこに優花里たちが隠れているのかな。
「あと、あの大型バスのフィアイーターの中に市民がいるわ」
「マジかよ」
「閉じ込められてる。助けないと。それから、あそこのひっくり返った車の中に気絶した警官がいる」
「そうか。それは助けないとな。樋口、動けるか?」
「休ませてはくれないのね?」
「今は人手が足りない。ライナー、優花里たちを守ってくれ!」
「うんわかった! なんかフィアイーター三人も相手にするのすごく大変そうだけど! セイバーたち早く来てくれないかな!?」
ライナーはフィアイーターの方に向かっていた。
敵も俺や樋口のことは排除すべき相手だとわかっているのか、少なくない数の黒タイツをけしかけてきている。けど、メインは優花里たちらしい。フィアイーターを生身で相手する事態にはなってない。
ひっくり返った車へと走りながら、スマホで澁谷に電話をかけた。
バスの中に人がいるから、レールガンを撃つときは注意するように。
了解の返事を聞く暇もなく、黒タイツが襲ってきた。咄嗟にナイフで迎撃しようと考えたけど、やめておく。壊したくないし。
素手で黒タイツを殴り倒した。
ナイフの、より有意義な使い道は。
「樋口、シートベルトを切ってくれ」
「ええ」
車椅子から外しておいたナイフを樋口に手渡す。樋口もこういう武器の扱いには慣れているのか、気絶した警官を吊るしているシートベルトを器用に切り裂いて彼を車から出した。




