11-35.クリスマスパーティー
というわけで、駄目な姉を駄目にしてしまうことで無力化させる作戦だ。
冷蔵庫から数本のビールとコップを持ってテーブルの上に置く。
「よし! じゃあわたしたちの楽しいクリスマスを祝って! 乾杯!」
ひとりでコップを掲げた寂しい乾杯。そして一気飲み。体に悪そうだなあ。
「そうだ姉ちゃん。俺も沖漬け食いたい」
「そうだった。愛奈への土産って形で、オレたちが食べたいから買ったんだよな」
「え、ちょっ!?」
俺は自分の箸で愛奈の肴をつまんで食う。
なるほど、イカの身の中まで味が染み込んでいるのがわかる。
「おー。これがいかとんび……この黒い嘴は固くて食えないのか。けど周りのところ、うまいな。食感が独特で」
「待って待って! わたしも食べる!」
先を急ぐようにイカを食う俺たち。
やがてインターホンが鳴った。
「麻美たちだな。姉ちゃん、出てやれ」
「ふも。もふへもふふ」
「イカ飯食いながらしゃべるな。行儀が悪い」
「ふぁーい」
さらにビールをぐいっと飲んだ愛奈が立ち上がり、玄関まで行く。既に酔っているのか、足元がおぼつかない様子。俺はもちろん、ヒラヒラ揺れるスカートからは、ちゃんと目を逸した。
「麻美ー。いらっしゃーい。お酒買ってきた?」
「もちろんです! あ、澁谷さんも一緒です」
「お邪魔します。わー、愛奈さん、サンタさんの格好似合いますね!」
「でしょー? わたしだけこんな格好してるの、ちょっと恥ずかしいって思えてきたけど」
「ふふふ。実は僕もコスプレしようかなと思ってたのですけど、家に寄る時間もないので断念しました」
剛お前もまさかミニスカサンタになるつもりだったんじゃなかろうな。
今の剛も、さすがにスカートは履いてないけど、ゆったりしている女物の服を着ていた。似合ってるのだからすごい。
いつの間にか料理も完成していて、ケーキもできていた。あとミラクルフォースケーキもあるし。
「じゃあ皆さん、グラスを掲げてください」
サンタ服のままの愛奈がビールの入ったコップを持ち上げる。さっきはひとりで乾杯してたけど、今度はみんなで。
それが正しいやり方。
成人組は当たり前のようにビール。未成年者はジュースとかシャンメリー。
「えっとですね。なんかこう、今年もクリスマスを迎えられたことを、なんか良かったなと思うんですよ」
愛奈が乾杯の音頭を取ろうとしてるけど、全くできてない。言ってることに中身がない。
多分本人もわかっていて、それでもこう続けた。
「去年のこの時期は、クリスマスっぽいことなんかできませんでした。その頃は、こんなに大勢の友達ができて、集まってくれるなんて想像もしてませんでした! だから今は幸せです! 乾杯!」
「乾杯!」
ああ。それは大事なことだ。俺も同じ。
クリスマスって楽しいな。
「ほらみんな。チキン食べて。かなりよく出来たと思うから!」
「僕もサーモン料理を頑張ったからな。ほら、食え」
「そういうラフィオは食べようとしないけど」
「今日の僕は、プリンだけでお腹いっぱいになる予定だ」
確かにラフィオの前には大量のプリンがあった。手作りのやつとデパ地下で買ったやつ。あと大量のトッピング。
いいけどな。なんか健康に悪そうだから、毎日こんなことはするなよ。
「うん。やはりドライフルーツでアクセントをつけるのはいいね。滑らかな舌触りだけがプリンの醍醐味というわけじゃない。奥が深いものなんだよ」
なにか深いことを語るラフィオは、プリン道に真剣に取り組んでいるようだった。
「んー。ミラクルフォースのケーキ、なんか普通のケーキですね」
「まあ、普通のケーキだから仕方ないわよね。トンファー仮面のケーキも売り出されてるけど、上の飾り以外は同じよ」
「そうなんですねー。澁谷さん、ミラクルフォースらしいケーキにするにはどうすればいいでしょうか」
つむぎが澁谷に無茶な質問をする。そんなこと訊かれてもわからないだろ。澁谷のテレビ局がミラクルフォースを放送していたとしてもだ。
澁谷はさすがアナウンサーで、困った感じをあまり顔に出さずに受け答えする。
「んー。わかんないわねー。……あ、そうだつむぎちゃん。話は変わるけど、今度テレビもふもふにモッフィーの着ぐるみが来るんだけど、つむぎちゃん会いたい?」
「ほんとですか!? つまり、テレビもふもふにモッフィーが来るんですか!?」
そう言ってるだろ。
「そう。お正月のイベントで、モッフィーと遊ぼうみたいなのを局で企画しててね。つむぎちゃんも来る?」
「行きます! モフモフします!」
とまあ、見事に話題を変えてやり過ごした。さすがアナウンサーだ。
「来年ですか。そっか、もう年が変わるんだね。そうなったら本格的に受験シーズンだ」
「剛先輩は受験、順調なんですか?」
「もちろん。志望校に合格圏内だよ」
「どこ志望なんですか?」
「模布大学。父はもっと上の大学を目指してほしかったみたいだけど、地元で勉強しながら父の仕事ぶりも学びたいって言ったら説得できた」
「へー。上の大学って、それこそ県外出ないといけませんよね」
「そう。出たくないからね。麻美と離れ離れにはなりたくない」
「んえっ!?」
遥と剛の会話を聞きながらビールを飲んでた麻美が驚いた声を上げた。




