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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第11章 クリスマス回

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11-30.ようやく一撃

 それからもうひとり。


「稲山篤史さん、お世話になっています」

「刑事さん……」


 彼氏、篤史さんに樋口が挨拶した。


 樋口も現場に来て、戦闘に参加しようとしたけど俺の動きを見て優花里と篤史の保護に役割を切り替えたらしい。

 どうやら樋口は、優花里の捜索で篤史と関わりを持っていたらしいことは、前から聞いていた。だから挨拶もスムーズに済む。


 公安ではく、普通の警察官を装っていたらしいけど。たぶん名前も樋口一葉じゃない、もっと別な偽名を伝えてたんだろうな。


「そして、あなたが米原優花里さんね。初めまして」

「は、はい。初めまして……」

「刑事さん、見てください。優花里は生きてます!」

「待って篤史! 違うの。わたしは死んでいて」

「ええ。そのようですね。優花里さん、あなたはフィアイーターになった。そうでしょう?」

「……はい」

「優花里……」

「さっき説明した通りなの、篤史」

「そうなのか……?」


 目の前の、どう見ても生きている恋人が実は死んでいるという事実を、篤史は受け入れようと努力している様子だった。

 理解はしているのだろうな。受け入れかけてもいる。


 それから彼は樋口の方を見た。恋人が怪物になっていることに、樋口が全く驚いていないことが引っかかったらしい。それに魔法少女の仲間である覆面男の俺についても同じ。


「刑事さん、知っていたんですか? 優花里が、か、怪物になってしまったことを」

「……可能性はありました。けど、確定ではなかったので」


 樋口にとってはずっと懸念していた、最も迎えたくなかった瞬間なのだろう。それでも彼女は冷静に話していた。


「こうなっていたかもしれないこと、知ってたんですか? 魔法少女は人間が怪物になるかもしれないと」


 彼氏は俺の方も向いて訊いてきた。俺が答える前に彼は続けて。


「知っていたら、俺たちはもっと用心したかもしれない。こんな大事なことをどうして」

「篤史、やめようよ。今はそんなこと言ってる場合じゃないの」

「おふたりとも、こちらへ来てください。わたしから説明しますので」


 俺に面倒事をふりかけたくない。そんな気持ちでふたりを俺から離そうとしている。


 どこに連れて行く気なのかはわからない。優花里の方は、この世界には長居できないはずだ。フィアイーターは恐怖がないと凄まじい飢えを感じるらしい。

 優花里がそれをどれだけ知っているのか、俺にはわからない。その感覚を俺は当然知らないから、どれだけの懸念事項なのかもわからない。

 ただ、フィアイーターが苦しんでどこまでも暴れ続ける理由であることは知っている。


「あの! 覆面さん! 怪物を作っている女の子、キエラとティアラを殺してください! ここで殺せないなら向こうの世界、エデルードまで行きましょう! わたしが向こうまで連れていきます!」


 樋口によって連れて行かれる優花里は、フィアイーターとなった力で抵抗して、その場に踏みとどまって俺に話しかけてくる。


 そうか。エデルード世界への行き来がこの人ならできるのか。


 ラフィオが苦労して魔法陣を作り魔力を貯めないとできないことが、簡単に。


「悠馬くん、戦いに戻って。今はこの場をなんとかするのが先だから」


 事態を見守りつつ、口出しはできない状態だった麻美が耳打ちした。そうだ、俺の仕事をしないと。目の前の敵を倒さないと。

 戦況はどうなってる?



――――



 ハンターを上に乗せたまま、ラフィオはキエラとの取っ組み合いをしていた。

 今日のキエラは早々に退散しようとしない。その理由は。


「ラフィオ! 会いたかった! クリスマスは恋人同士で過ごす日って聞いたわ!」

「僕とお前はそんな仲じゃない!」


 激しく頭をぶつけ合いながら言い返す。

 キエラは聞いちゃいないだろうけど。


「恋人なの! 神様がそう作ったから!」

「神がなんだ! 僕たちを作って、その後は何もしてくれないじゃないか! そんなものをありがたがるなんて! どうかしてる!」

「それにラフィオの彼女はわたしだもん! あなたは引っ込んでて!」


 頭上からハンターの声がした。言ってることは正しいな。


 ハンターは、黒タイツはあらかた排除してしまったらしい。周りを見れば、サンタクロースのフィアイーターとティアラだけが敵。

 だからハンターは、今度はキエラを狙った。ラフィオがキエラに接近して、ハンターがその頭を正確に射る。

 キエラはなんとか跳び退いて回避するしかなかった。


 接近すれば射抜かれる。だから距離を取るしかない。それだけの判断力はあるらしかった。


「あんた嫌い! 嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い! あんたがラフィオを惑わすから!」

「惑わされてなんかいないからな!」

「ちゃんとラフィオがわたしのこと好きって言ってくれたもん! キスだってしたから!」

「なっ!?」


 そういえば、そのこと言ってなかったな。


「き、キス!? そんな、だって。ありえない……」

「えいっ!」

「!?」


 キエラの動きが鈍った途端、ハンターはその首元を狙って矢を射る。キエラも咄嗟に回避しようとしたけれど。


「ぎゃっ!?」

「当たった!? やった!」


 当てたハンター本人も驚いている。回避を試みた結果、残念ながら首ではなくキエラの前足の付け根になったけど、光の矢は深々と刺さっている。生命の証である血が、そこから一筋垂れた。

 キエラに初めて傷を負わせることに成功した。


「やったぞ! ハンター! とどめだ!」

「うん!」

「や、やだ、来ないで……」


 痛みに、本気で生命の危機を感じたのだろうか。キエラは立てずその場に座り込みながら、獣の姿で怯えた目を見せた。


 ハンターはそんなキエラに向けて、再び狙いを定めて弓を引き絞り、なんの躊躇いもなく矢を放った。

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