11-29.尊い愛
優花里と彼氏を囲むようにしている黒タイツだから、当然包囲網の外にはあまり注意を向けていない。
俺に背を向けている黒タイツのひとりの首に棒を突き当てて地面に倒した後に、さらに首を踏みつけた。黒タイツの顎と胸が地面に接している状態で首に体重をかけられれば、あっさり折れてしまう。
ようやく黒タイツたちも外敵の存在に気づいたようだ。優花里たちの包囲に人手を割きながらも、俺に掴みかかる黒タイツが複数出ていた。
バーサーカーは包囲網の外でフィアイーターと対峙している。自分の倍は行かないにしても巨大すぎるサンタクロースを相手に一歩も引かない。
「フィァァァァァァァ!」
「うるせえ!」
サンタクロースの白い袋の中には何が入ってるんだろうな。おそらく、とても硬いものだ。振りぬかれたそれが地面に激突すると、芝生が大きくめくれ上がった。
フィアイーターがそれをもう一度振りあげようとした瞬間にバーサーカーは肉薄。敵の膝のあたりにキックを食らわせたものの。
「うわ効いてねぇ!?」
体重差からか、あまりダメージは受けていない様子。せいぜい、少し体がよろめいたくらい。
サンタクロースが蹴り返して来たのを回避しながら次の攻撃を探っている。
バーサーカーだけでは勝てはしない。けどこのまま強敵を引きつけてくれればいい。
俺はその間に黒タイツたちを食い止めて、あのカップルを逃がそう。優花里の方は彼氏と身を寄せ合っているように見える。
仮にフィアイーターになってしまったなら、殺すしかないのは理解しているとも。けどそのタイミングはもう少し待ちたい。
しかしなぜか、黒タイツの方が味方である優花里を襲うことに積極的なように見えた。理由はわからないけれど。
優花里は、迫ってくる黒タイツに強烈なビンタをお見舞いしてた。明らかに戦い慣れた様子ではないけれど、覚悟は感じた。自分と彼氏を守るという強い意志。
黒タイツは一撃で首が一回転して死んだ。この威力、やっぱりフィアイーターになったんだ。
仲間割れしたんだな。じゃあ、そこの事情は聞きたい。
が、今はそれどころでもなさそうだった。
単純に、俺ひとりだけでは黒タイツ全員を相手するのは無理だ。それだけじゃなくて。
「ねえ! 邪魔しないで!」
「キエラ……」
ピンク色の獣が俺に飛びかかった。その一撃はなんとか回避して、棒を槍みたいに構える。
今回はさっさと帰らなかったらしい。向こうも優花里に関して、なにか思うことがあったのだろう。
キエラの後ろにはティアラも見えた。こっちは、戦うことに消極的に見える。けどキエラの力になるのを躊躇う相手ではない。
睨み合い、ジリジリと距離を取る。まともに相手するべきではない。
ふと、背後から知った声が聞こえてきた。今日はデートと聞いていたけど、この近くだったのかな。一瞬振り返れば、赤い魔法少女がトンファーを持って戦っていた。
デート中も持ち歩いているとは。見上げた心構えだ。覆面ひとつポケットに入れてればなんとかなる俺とは大きく違う。
「よそ見してる暇あるのかしら!?」
「おっと!?」
再度接近してきたキエラを回避しながら、棒で横っ面を叩く。一瞬だけキエラは怯んだものの、すぐに棒に噛み付いた。
安いプラスチック製のそれは、獣の顎にあっさり噛み砕かれてしまった。
キエラはそのまま俺まで噛み砕こうとする。けど、横から不意に激突したラフィオにより、軌道が逸れて俺は助かった。
「遅れてすまない! さっさとこいつらを倒すぞ!」
「ラフィオ! わたしのために来てくれたの!?」
「そんなわけあるか! ハンター! 黒タイツどもを殺せ! キエラは僕が押さえつける!」
「ああ。ラフィオ! いつ見ても素敵!」
「気持ち悪い奴だな!」
白とピンクの獣が噛み合っていない会話をしながらぶつかり合う。ラフィオの上のハンターは黒タイツの方に狙いを定めて次々に殺していた。
ライナーとセイバーも来ているらしい。ライナーは、キエラを助けようとしたティアラの前に立ちふさがっている。回りこもうとしたティアラを素早い動きで牽制して蹴りを食らわせていた。
セイバーはバーサーカーに加勢している。バーサーカーがパワーでフィアイーターを押さえつけて、その隙にセイバーがフィアイーターの足元をザクザク切り裂いていた。たまに蹴飛ばされる反撃を受けてるけど、確実にダメージは与えられている。
俺は強敵たちの相手を魔法少女に任せて、黒タイツの排除と優花里たちの保護に向かった。
黒タイツのひとりに、短いが先端が鋭利になった棒を突き刺して殺しながら、優花里に接近。俺の黒い覆面と黒タイツを見間違えたのか、彼女は俺にまで攻撃を加えようとした。
「待て待て! 俺は味方だ! 魔法少女の仲間の覆面男だ!」
この女はフィアイーターなわけで、味方と断じるのも正しいか微妙なところだけど、少なくとも攻撃の手は止まった。
「魔法少女さん! お願いがあります、彼を安全な所まで!」
「待ってくれ優花里! もう離れないからな!」
なにか考えがありつつ恋人の身を案じる彼女と、恋人を絶対に離したくない彼氏。尊い愛を見せつけられるのは、俺じゃなかったら感動する奴もいるんだろうな。
今はそれどころじゃないけど。
「ふたりとも、こっちに来い」
彼氏として彼女それぞれの腕を掴んで戦場から離れていく。
「ファイター! そっちは任せていいか!?」
「もちろんだ! あの建物の裏に行ってくれ!」
剛がトンファーで指差したのは、公園の敷地内にいくつか建っている建造物のひとつ。公園とは言いつつ、中央にそびえ立つ電波塔を始めとして、店舗がいくつも建っているのがここの特徴だ。
なぜそこを指定したのかは、行けばわかった。
「こっちこっち。ゆ……覆面さん、お疲れ様です!」
剛がいるなら、当然麻美もいる。戦闘に参加することもできず、彼氏の戦いを陰から見守っていたのだろう。
一時保護をお願いするならぴったりの人選だ。




