11-27.ふたりで生きるために
このエデルードと地球を行き来するためのゲートを、優花里も作ることができる。ティアラがやり方を教えたら、あっさりマスターした。
公園へ向かう優花里に、ティアラとキエラもついていった。
傍から見れば人間と何も変わらない姿形。クリスマスの時期の街ってこんなに華やかなんだ。やっぱり好きだな。
ビラ配りをしている彼氏を、優花里は遠巻きに見ていた。あのビラで探されてるのは優花里本人なのだろう。
この楽しい時期にビラを受け取る人は少ないけど、その少数に見つからないように、優花里はお店からマスクとサングラスを調達して装着していた。
彼氏の他にも、優花里の家族なんかもビラ配りに参加しているようだった。あまり大勢の前に出ると騒ぎになるし、それは優花里の望むことじゃない。彼女はしばらく様子を見ていた。
「じれったいわねえ。早くやればいいのに」
「キエラ、落ち着いて。すぐに会えばいいってわけじゃないの」
「でも。優花里ってば彼氏に会いに来たんでしょ? なのになんで見てるだけなの? わたしならラフィオを見た瞬間に話しかけるわ」
「人それぞれなの。ラフィオだって、いきなり出てこられたら驚いたり困ったりするでしょ?」
「ラフィオに限ってそんなことはないもん」
どう見てもあるけど。
キエラにはまだ、よくわからない考え方なのかな。
優花里のスマホは、この世界に戻ってようやく電波が繋がったらしい。
大量の通知が来たことに驚いた様子だったけど、それを確認してから、画面になにか打ち込んだ。
ティアラからはその内容は見えないけど、なんとなくわかる。入力が終った直後、彼氏が反応したから。自分のスマホを見て驚き、周囲を確認してからその場を離れた。
場所を指定して会いたい。誰にもこのことは教えないで。そんな内容で間違いないだろう。
優花里もそこに向かっていく。もちろん、ティアラたちも距離を保ちながらついていく。
こちらが尾行していること、優花里も承知のはずだ。けど気にする様子もない。意識からどこかへ行っちゃったかな。
公園の周りは大きなビルがたくさん。その裏や隙間、人が寄り付かない場所はいくつかある。
「篤史!」
周りに人がいない。それを確認した優花里は彼氏に抱きついた。
彼、そんな名前だったんだ。
「優花里! どこにいたんだ。みんな心配して」
「ごめんなさい。でも会える状態じゃなくなって……本当にごめんなさい。わたし、殺されたの」
「殺され……?」
「わからないわよね。落ち着いて聞いて。怪物を作る奴らがいて」
自分の身に起きたことを、早口で端的に、けどしっかり伝わるように説明する。
普段からこうやって人と話すことに慣れているのだろう。その説明はわかりやすいものだった。さらに優花里の様子は真剣で、嘘を言ってる雰囲気ではなかった。
彼氏に信じさせるには十分だ。物が怪物になって暴れる世界だから、人が怪物になるのもありえない話ではないと考えることもできる。
「そんな……嘘だ……なんで優花里が……」
ただ、理解は出来ても受け入れられるかは別。彼氏は絶望に染まった顔をしていた。
それでも頭がいい人らしい。そのまま思考停止には陥らなかった。
「ごめん、優花里。俺が守ってやれなくて」
「ううん。仕方ないよ。運が悪かっただけなの。ねえ、聞いて。こんなわたしでも、まだ好きでいてくれる?」
「もちろんだ! どんな優花里でも愛してる! 約束する」
「ありがとう。あのね、考えがあるの。わたしはこの世界には長くいられない。けど、魔法少女と敵対している女の子たちの住処にはいられるの」
「そ、そうなのか。女の子?」
「ええ。怪物を作る女の子。それを魔法少女に倒してもらって、ふたりであそこを乗っ取って暮らしましょう! わたしならそこに行けるの!」
「そ、そんなこと許せるはずがないでしょ!」
ずっと聞き耳を立てていたキエラが、優花里のありえない言動に思わず声をあげた。
ティアラだって驚いている。わたしたちを倒す? どうしてそんなことをするの?
単に彼氏に別れを告げるだけだと思ってたのに。それで、フィアイーターとしてキエラと一緒に過ごす決意をしたとばかり思ってた。
結局、ティアラにも人の心はわからなかった。
満ち足りた人生を送っていた優花里は、それを捨てるはずがなかった。なんとかして恋人と共に生きる方法を、部屋の中で泣きながら考えていた。
ティアラには、失いたくない人生なんかなかった。それだけのことだった。
それでも、まだティアラは冷静だった。キエラに比べれば、だけど。
「優花里! あなたなんてことを考えてるの!?」
「篤史こっち!」
「ぎゃっ!?」
優花里が彼氏についてくるよう言いながら、キエラに向かって突進。フィアイーターだから、普通の人間以上のパワーが出せる。キエラを突き飛ばして道を作ると、そのまま公園の方へと戻っていく。
「許せない許せない許せない! 友達になれるって思ってたのに! なんでわたしの言うこと聞いてくれないのよ! あんな女大嫌い! 殺してやる!」
「キエラ! 落ち着いて!」
「やだ!」
公園の方へ向かいながら、キエラはフィアイーターにできそうな物を探した。




