11-21.お弁当作り
ケーキか、確かに必要だろうけど。
「遥、ケーキは作れるか?」
「え? あー、今日のうちから準備するなら、確かに作れるよー」
作れるのか。すげえな。
「じゃあ買わないでいいかな」
「それはそうだけどさ、ちびっ子たちが喜ぶかなって」
アユムがカゴに入れていたのは、ミラクルフォースのキャラが描かれた箱。
「こういうのもあるのか。……つむぎは喜ぶかな?」
ラフィオは別に喜ばない気はするけど。
「いいじゃんいいじゃん。買ってこうよ。人数多いんだし。わたしもケーキ作るけど、ふたつあってもいいと思うよ。というかつむぎちゃんたちは?」
諦めて丸鶏とその他の材料をカゴに入れて膝に抱えた遥がこっちに近づいてきた。サンタ姿も受け入れることにしたらしい。
つむぎたちの姿はすぐに見つかった。
「えっと。ドライフルーツっていっぱいあるね」
「ミックスになったやつじゃ駄目かい?」
「それでもいいね。あ、オレンジピールおいしそう」
「小さいのに割と値段するんだな」
「お菓子作りの材料は高いからね。あ、見て。砂糖細工のサンタさん」
「ちょっと心惹かれるけど、プリンの飾り付けは控えめにしよう。ドライフルーツとプリンの相性に集中したい」
「ラフィオ、プリンのことになるとすごく真剣だね」
「僕はプリンの可能性を探求しているんだ」
本当に真剣そのものな表情で言う。
「ただプリン液の中にフルーツをぶち込めばいいだけじゃない。量や種類にもこだわって研究したい。プリンとは、硬さや弾力性によって感じる味が全くことなる、繊細で芸術的な食べ物だからね」
おい。熱く語るな。真剣なのはわかったから。つむぎもしきりに頷いてるけど、それはどういう感情なんだ。好きな男は何してても格好いいのか。
双里家の財布を預かっている主夫としての権限により、店にあるドライフルーツを何種類もカゴに入れたラフィオ。つむぎはミラクルフォースのケーキに目を輝かせてるようだった。
ケーキ自体よりも、おまけとしてついているオーナメントに興味があるらしい。モッフィーの小さい人形つきって、たしかに箱に書いてある。
プラスチック製でモフモフではないらしいけれど、つむぎにとっては構わないのかな。
そうやって、俺たちは騒がしく買い物を終えて帰宅する。遥も、顔見知りの店員からサンタの格好をからかわれながらも、振り切って朗らかに受け答えしていた。
ようやく普通の格好に着替えた遥は、クリスマス料理の仕込みに入る。ラフィオとつむぎもプリン作りを始めた。愛奈は酒を飲み始めた。
そして俺とアユムは。
「ピクニックのお弁当って、何作ればいいんだろうな……」
「おにぎりとか、卵焼きとか」
「おお。それっぽい! ……あとは? オレ、家族でそういうの行ったことなくて、よくわからねえんだよな」
「俺も、行ったことはあるけど、いざどんなのと言われても思い出せない。調べてみよう」
スマホでピクニック、お弁当とか入力して画像検索。
「あー。唐揚げにウィンナー。あと野菜類」
「ミニトマト多いな」
「手軽につまめるからな。てか、弁当箱がでかい。こんな弁当箱、家にあったかな」
幼い頃の記憶を辿る。まだ健在だった両親や兄とお出かけしたことは何度かあったはず。愛奈とは歳が離れてるし、兄貴もそうだった。だから家族揃ってのお出かけはあまり無かったかもしれない。
でも何かの機会で、でかい弁当箱は使った記憶がある。
「キッチンを探そう」
「あるよ。探してるのはこれでしょ?」
「うわ遥いきなりなんだ。あ、これだ……」
俺たちの話を盗み聞きしてたのか、遥が記憶の通りの大きな弁当箱を見せてきた。
「そこの戸棚の奥の方にあったよー」
「そ、そうか……」
もはや遥は俺よりもキッチンに詳しい。
「お弁当はふたりで用意する? わたしが作ってもいいけど、それだとデートの意味ないよね。作り方教えるから、やってみる?」
「あ、ああ。そうするべきだな…」
「遥、作り方教えてくれるのか? オレが悠馬とのデート奪い取ったみたいなものなのに」
「奪い取ったじゃなくて、勝ち取ったでしょ? それは残念だけど、悠馬の気持ちは尊重してあげたいから。……明日は確かに、悠馬にはのんびり過ごして欲しいなって。そう思ったの。ほら、唐揚げの下味のつけ方教えてあげる。後のおかずは、明日の朝作るべきかな。早起きするために、今日は早く寝なさい」
ちょっと不機嫌そうで、けど同時に口の端に笑みを浮かべている遥の隣に立って、俺は料理のなんたるかを習うことになった。
明日も朝からお弁当を作るから早寝するのはいい。けど問題は。
「ういー。まだまだ飲めるぞー。ほら、あんたも飲みなさいな。かわいい顔して意外にいける口と見たわよー」
テーブルに突っ伏して、ひとりで飲んでる愛奈に目をやる。誰かと話してる雰囲気なのは、つむぎの部屋から持ってきたジャンボモッフィーぬいぐるみを椅子に座らせて話しかけているからだ。
ウサギのぬいぐるみに絡み酒する成人女性。かなり異質な光景だ。
「誰か、あれを部屋まで持っていってくれよな」
「僕がやることになるのかい?」
「たぶん」
遥も、今日は早めに寝るだろうから。明日の朝、俺たちにお弁当作りを教える必要があるから。
「仕方ない。プリン作りも大詰めだしね」
「あとは冷やすだけだもんねー。愛奈さん、モッフィーに意地悪しちゃ駄目ですよ!」
「だってー。相手してくれるのがウサギちゃんしかいないもん」
「モッフィーは男の子です! あと、ウサギって言ったら怒るので注意してください」
大事なモフモフが酔っ払いに絡まれてるのを見て、つむぎが回収に向かった。モッフィーのそういう設定も大事らしい。




