11-19.ニコニコ園のクリスマス
ニコニコ園もクリスマス仕様になっていた。窓に張り出されている飾り付けも、一部がサンタクロースだったりツリーだったり。
室内の飾り付けもそれっぽいし、部屋の一角には小さいながらもツリーがあった。パーティーの準備中だったのか、子供たちがテーブルに料理を運んでいた。
障害者でも、自分の力でできることはやる。その精神を子供のうちから身につけていく。そういう教育なんだな。
施設の先生方に挨拶しながら中に入る。
パーティーの準備中だった子供たちは、遥が来たことに気づくとみんな一斉に寄ってきた。
「みんなー! メリークリスマス! 今年一年良い子にしてたみんなのために、サンタさんがプレゼントを届けにきたよー!」
「遥ちゃんこんにちは!」
「遥さんメリークリスマス!」
「彼氏さんとは今もラブラブなの?」
「わー! もう! 今日のわたしはサンタさんだよ! 遥じゃなくてサンタさん! 悠馬とは今もラブラブです!」
そこを強調したいならサンタクロースを名乗るな。
遥が膝に抱えた白い袋からプレゼントを出していく。いろんな玩具と、ぬいぐるみ。
「このぬいぐるみはね、すごくモフモフなんだよー。わたしが選んだの!」
ぬいぐるみを掲げたつむぎを、何人かの子供たちが見上げる。
そこまでぬいぐるみに興味はなさそうだけど、つむぎは知り合い。だからまばらに拍手が起こって、ひとりがぬいぐるみを抱きしめた。
「モフモフだー」
「でしょ!」
まあ、この施設を見守る置物として役に立ってくれればいい。
「なあ彼氏さん。チェスのルール教えてくれ」
足を引きずっている少年が俺に話しかけてきた。手には、視覚障害者用のチェスセット。
「彼氏さんじゃなくて悠馬だからな、克彦」
「俺の名前覚えててくれたのか?」
「当たり前だろ」
「達也をチェスの名人にしたいんだ。だから教えてくれ」
「はいはい。俺も実はよくわかってないけど、説明書があるから。点字が打ってるやつ」
「そっか! よし達也! チェスやろうぜ! 俺を倒せるくらいの力をつけるところから始めるぞ!」
目が見えない達也という少年に、克彦は足を引きずりながら近づいていく。
自分が敵わなくなることは確定なのか。まあそうなるだろうけど。目が見えないだけで、こいつめちゃくちゃ頭いいもんな。
「おねーちゃん初めまして! 悠馬の彼女?」
「違うでしょ! 悠馬さんの彼女は遥さんだから!」
「このおねーちゃんは、じゃあふたり目の彼女?」
「大人ー!」
「おっぱい大きいね!」
「大人だー!」
「お、おい! なんだこれ!? 悠馬助けてくれ!」
アユムが子供たちに囲まれて困惑していた。
親しみやすい感じがするのかもな。どっちかと言うとノリが軽いタイプだし。
俺たちの訪問を子供たちが喜んでくれたのは間違いない。プレゼント込みかもしれないけれどな。でもいいことだ。
やがて先生が、パーティーを始めましょうと言って、みんなで手を合わせて料理を食べることに。
「すごいわね。クリスマスチキンなんて久々に食べたわ。こんな場所で食べられるなんて。思えばケーキ食べるのも久々かも」
「お姉さん、ケーキとか食べないんですか?」
「クリスマスに食べるのは本当に久しぶり。お母さんが生きてた頃はクリスマスっぽい食事もしたけどねー」
「あー……」
ローストチキンを食べながら感慨にふける愛奈と、その隣で全てを察する遥。
悪かったな。俺と愛奈でふたり暮らしの頃は、俺にそんなものを用意するスキルがなかったんだよ。いつも通りの、すぐに作れる料理を出していた。
「もっとこう季節感が欲しかったというか……」
「買ってくるとかあったでしょうに。あ、明日の夕飯、クリスマス仕様にしますか? チキンとサーモンメインの」
「いいのっ!?」
「おおう。食いつきがすごい。アユムちゃんも、夕飯までに帰って来る? クリスマス料理、田舎にあった?」
「ば、馬鹿にすんなよ! オレの田舎でもチキンくらい食ったからな。……まあ、それはそうとして、早めに帰るけど。悠馬もそれでいいか?」
「ああ。いいよ」
デートでディナーの時間まで過ごすつもりは最初からなかった。愛奈とか、前の樋口が提案するプランなら夜までしっかり過ごすことになりそうだったけど。遥もイルミネーション見たいって言ってたし。
アユムのプランは早い時間を楽しむってものだから、そこもなんか特別に感じたんだよな。
遥たちがクリスマスっぽいものを用意してくれるなら、それでいいかな。アユムも同じようだった。
「せ、先生。このクリスマスプディングというのは、プリンとは違うのかい? 名前はプリンだけど」
テーブルの少し離れたところで、ラフィオが茶色いなにかをフォークでつついていた。
見た感じプリンではないな。名前が似てるから、ラフィオにとっては気になるものらしい。
「そうね。プリンとは違う、イギリスではクリスマスの定番のお菓子よ。子供たちと作ったの。食べてみて」
「で、では。いただきます……」
プリンではないことに少し落胆しつつあるけれど、年下の子供たちにキラキラした目を向けられて、フォークに指した一欠片を口に運ぶ。
「うん。おいしい。なるほどプリンとは違うけど、いいと思う。気に入った。ドライフルーツの食感がいい」
そのコメントに、子供たちはニコニコと嬉しそうな笑顔を見せた。
お客さんに喜んでもらえて幸せなんだろうな。




