11-18.片足サンタさん
「言い訳なんかいくらでも作れるだろ。ほら、みんな行くぞ。今日は会社も学校もあるんだから」
「うえー。休みたい」
「行け」
「ふぁい……」
「夕方はニコニコ園だからな。忘れるなよ」
愛奈を家から追い出して、俺たちも朝食の食器を洗ってから高校と小学校にそれぞれ向かう。
ラフィオはつむぎのランドセルに押し込められていた。毎朝こんな感じだ。
クリスマスイブでも、俺の朝は変わらず忙しい。ああ確かに、ピクニックでのんびり過ごしたいな。
クリスマスイブだし冬休みが近いということもあって、クラスもどこか浮かれた雰囲気があった。
俺たち以外にも付き合ってる奴らは何組かいるし、校外に恋人がいるパターンもあるから。
恋愛がどうとか以外でも、家族で旅行に行くとか友達と新年を祝う予定とか、そういうのもあるし。慌ただしい年末年始は楽しいこともたくさんある。
遥も、クリスマスのデートは無くなったにしても、もっと楽しいことを考えて過ごせばいいのに。
と思ってたら。
「悠馬! お正月は初詣とか行こ! あとなんか、お正月っぽいことたくさんしよ!」
「わかった。わかったから」
自力でその考えに至れたのはさすがとして、圧がすごかった。
いいけど、みんなでやるんだぞ。
でも、遥が一瞬にして元気になってくれてよかった。
放課後。愛奈からは年末進行の最中でも定時で帰ることに成功しそうとメッセージが来た。俺たちも帰宅し、ラフィオやつむぎと合流して、プレゼントを持ってニコニコ園に向かう。
「あ、わたしちょっと着替えていい?」
「うん?」
「サンタさんやりたい。衣装は用意したから」
車椅子を押してやりながら徒歩で向かっていると、遥が突然そんなことを言い出した。
クリスマスパーティーならそういう格好もありだろうけど。
「衣装は持ってきたから!」
いつの間に用意したんだ。量販店で安売りしてそうな、ペラいコスプレグッズの入った袋を見せた。ミニスカサンタさん。あと白い袋。
「施設についてから着替えるんじゃ駄目なのかよ?」
「わかってないなーアユムちゃんは。サンタさんが外からやってくるのがいいんだよ? ニコニコ園に普通に来たわたしが、途中からサンタさんになっても意味ないんだよ?」
「いや、意味はあると思うけど」
「近くの公園のトイレで着替えるから、ちょっと待ってて!」
「ひとりで着替えられるのか?」
「それは問題ありません! あそこ多目的トイレで車椅子ごと入れて広いから!」
それなら、遥は日常的に着替えてるわけで、問題ないか。
「遥だけ仮装するのずるいよな。オレもなんかやりたい」
「わたしもー。トナカイさんの衣装とか、近くで売ってないかな」
「つむぎがトナカイになるのか?」
「ううんラフィオに着せるの!」
「なんで僕が」
「いつもと違ったモフモフ!」
よくわからないけど、つむぎにとっては大事なことなんだろう。
残念ながら、ここは住宅街の真ん中。大きめの商業施設なら無くはないだろうけど、この付近で買うのは無理だ。
「むー。ラフィオモフモフしたいのに」
「帰ってからな」
「いや! 帰ってからも駄目だからな! なんで悠馬が決めるんだよ。……おい。モフモフの話は終わりだ。部外者が来た」
馬鹿な会話にうんざりしてる様子のラフィオは、それでも周りをよく見ていた。
その視線の向こうから、彼方が来た。学校帰りでセーラー服姿だ。
彼方は魔法少女のことを知らない。俺たちを、姉も含めて謎の繋がりで同居している集団だと思っている。ラフィオが妖精になってモフモフできるなんて話すのは駄目だ。
その隣には、なぜか愛奈もいて。
「やっほー。偶然そこで会って、一緒に来ちゃった」
仕事帰りでスーツ姿の愛奈は、他所行きの時の立派な社会人モードになっている。少なくともそうあろうと努力しているようだ。
知り合いだけど事情を深く知らない相手だし。あと、愛奈の本性を彼方は知らないし。誤魔化して大人として振る舞いたいのだろうな。
無駄な努力かもしれないけど。
「お久しぶりです、皆さん。アユムさんも。前に会った時は、あんまりお話しできませんでしたね。遥の妹です」
「おう。久しぶり」
ペコリと頭を下げた彼方と、いつもの調子で返事をするアユム。
それから彼方は周りを見て。
「あの。お姉ちゃんはどこですか?」
尋ねたのと、公園のトイレが開いたのは同時だった。
「じゃーん! どうかな? サンタさんかわいい?」
ミニスカサンタの遥が出てきた。車椅子に乗っているのは特殊すぎるシチュエーションだけど、それはそうとしてかわいいと思う。
思うけど。
「お姉ちゃん、なにやってるの……」
「あ、彼方来てたんだ。えへへー。今日はわたしが、みんなのサンタさんやります!」
「それはいいけど、なんでこんな所で着替えてるの?」
「ふふん。それはね、サプライズで登場したくて」
「じゃなくて、お姉ちゃんの都合でみんなを待たせちゃ駄目でしょ?」
「あう……それは……そうだけど」
「皆さん、お姉ちゃんがご迷惑かけました。よく言い聞かせるので。じゃあ行きましょう」
「わっ! ちょっと彼方! 勝手に押さないで!」
「子供たちが待ってるよー」
彼方は慣れた様子で遥をたしなめて、車椅子をニコニコ園に押していく。さすがだ。




