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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第11章 クリスマス回

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11-16.弱い姿

「それがわたしの気持ち。恋人や家族を見守ってる警官たちも同じ気持ち。それが奇跡的に、真実を隠したいお偉いさんの意向と一致してしまってるの」

「そうか。でも。相手を悲しませることになっても本当のことを伝えるのは、樋口の役目じゃないのか?」


 目の前で、スーツ姿のまま寝落ちしかけている樋口は、いつもの格好いい姿とは程遠くて。

 普通の無力な女でしかなかった。


「ええ。わかってる。わたしの役目。公安の役目。でも、どうしてもできないの。……向いてなかったのかもね、こういう仕事」

「樋口はよくやってるよ。俺たち、何度も助けられてきた」

「ありがと……もう少し、真実を広めるのは待って……わたしの……判断でさせて……きっと、優花里も、迷ってるはずだから……だから……」


 樋口はそのまま寝息を立てた。


 知った仲とはいえ、男がすぐ近くにいるのに無防備なことだ。

 もちろん俺は襲ったりするはずもない。


 樋口が俺をここに連れ出した理由がわかった。ほんの一瞬だとしても甘えたかったんだろう。弱いところを見せたかった。

 見せられる相手が俺しかいなかったんだろう。


「そのまま寝ると風邪ひくぞ」


 起こさないよう小声で言いつつ、樋口の体に布団と毛布をかける。


 それから、少しためらってから、頭をそっと撫でた。


「大丈夫。いつも助けられている。お前はすごいよ。ありがとうな」


 本当に頼れる仲間だ。


 それから樋口の持っていた鞄を開けた。彼女が服のポケットに自宅の鍵を入れる種類の人間じゃないことを祈りながら。

 幸いにも、鍵は鞄の中にあった。あとスマホも。


 通知音が鳴っても起こさないよう、スマホは鞄の中にしまって樋口から慎重に距離をとりつつメッセージを送る。


 樋口の考えの通りにする。今日はゆっくり寝てくれ。何かあれば頼ってくれていい。鍵は郵便受けの中に入れておく。

 そしてスマホを枕元に戻すと、そっと部屋を出て鍵をかけ、メッセージ通りに鍵を郵便受けに入れる。


 帰るかとマンションから出て気がついた。


 あいつ、帰りのタクシー呼んでない。




「というわけで、自力で帰ってきた」

「そっかー。妙に遅いなーって思ってたけど、樋口さんが寝るまで付き合ってたんだー」

「いや、それが遅い理由じゃないからな」


 家の最寄り駅まで歩いて、遅い時間で本数の少なくなった電車を乗り換えて家まで来たんだから。


 さすがにみんな寝てるかと思ったら、遥とアユムは起きていた。

 ちびっ子たちは既に寝てるし、愛奈も飲みすぎて気絶してベッドの上だ。俺の代わりに運んでくれたアユムには感謝してるけど。


 ふたりとも、俺が心配だったから待ってくれたんだろうな。


「連絡くれたら迎えに行ったのに」

「ああ。魔法少女になれば走って行ける」

「まあそうだけどさ」


 お前ら、呼べばうるさそうだし。自分が運びたいと喧嘩しながら来て、挙げ句に樋口の部屋を見たいと言い出しそうだ。

 だから嫌だったんだよ。言わないけど。


 それよりも。


「そっか。優花里さんのことを話さないのは、そういう理由か」

「樋口って奴、冷酷な人だと思ってたけど意外だな」

「そうなんだよアユムちゃん。樋口さん、優しいところ多いよ。モフモフ好きだったりするよ」

「そうなのか!? 全然そう見えなかったけど!」

「それに、部屋が片付いてないってものイメージできるっていうか。今度行こうよ。お部屋片付けてあげよ? 悠馬もそうしたいよね?」

「ああ。あの散らかりようを見てると片付けたくなる」

「やっぱ悠馬、丁寧な暮らししてるよねー。よし、年末の大掃除を樋口さんの家でやろっか!」



 なぜか年末の予定が決まってしまった。クリスマスもまだなのに。


「なあ悠馬。それはいいんだけど、オレわからないことがあるんだ」

「なんだ?」

「優花里って人がフィアイーターになったこと、彼氏とかにまだ話さないのはわかった。けど、優花里の側も彼氏に会おうとせずに、今のままの状態が続く意味がわからねえ」


 優花里が彼氏や家族に接触した時点で秘密は明かされる。けど樋口は、優花里はなかなか出てこようとしないと楽観的に見ている。

 アユムにはその理由がわからないようだ。


「わたしはわかるなー。優花里さんの気持ち」


 会ったこともない相手の気持ちを、遥は絶対の自信と共に推し量る。


「優花里さんだって、怪物になってしまった自分を彼氏に見せたくないんだよ。だから来ない」


 その気持ちは俺にもわかった。


「怪物になって、自分は死にましたなんて言えないじゃん。樋口さんがご家族とか彼氏さんに言えない以上に言えないよ。自分のことだから。悲しすぎるし、彼氏が悲しむ所を見たくない。だからこっちに来れないの」

「そっか……確かにな。それは気持ち、わかる気がする」


 だから、樋口は真実を告げるタイミングを失い続けているし、それでもなんとかなっている。


「けど、いつまでもこのままってわけにはいかないよねー」


 遥が椅子の背もたれに身を預けて天井を見上げる。そこには何もない。


「放っておいても辛いだけだよ。みんな。だから終わらせないと」

「それはそうだな」

「悲しい話はもう始まってる。できるだけ悲しくない終わり方にするしかないよ。もうすぐクリスマス、頑張らないと」

「ああ」


 俺にできることがあればやってやろう。樋口の力になってやる、とかでもいいから。

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