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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第11章 クリスマス回

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11-15.樋口の部屋

「愛奈はあなたとデートの可能性があるし、麻美は彼氏とデートだし。なによ。社会人のくせに高校生に手を出すなんて。半分くらい犯罪じゃない」

「犯罪なのか、実際」

「ヤラなきゃ罪には問えないわよ。ヤッたら面倒なことになるけど……ああでも、剛はもう十八なのかしら。ならセーフね」

「おい。あまりそういうこと言うな」


 俺が尋ねたのもあるけど。


「あー。わたしも高校生と付き合いたい」

「だから」


 俺にもたれかかりつつ、太ももに手を這わせる樋口。公安が高校生にセクハラをするな。大問題になるぞ。


「わたしも悠馬にデートプラン提案していい?」

「なんでそうなる」

「高いお店奢っちゃうわよ。ホテルの最上階にあるレストランとか。夜景が綺麗なのよ。クリスマスにも仕事してる社畜どものつける灯りがね。他の客はクリスマスを楽しむカップルばかりで、あちこちで指輪を渡して結婚してってお願いする男がいるの」

「決めつけるな。普通に夫婦とか家族で食事しに来る客もいるだろ。あと夜景を社畜とか言うな」

「悠馬、そんなデートプランどう思う?」

「却下だ。仮に俺がそれを選んだら、遥たちがものすごい不満を言う」


 横暴だとか、大人の財力ずるいとか。


「そっかー。大人げないわよねー。高校生の考えそうなデートプランか……」

「本気で対抗しようとするなよ。ほら、ついたぞ」


 タクシーが停まったのは、市内の閑静な住宅街。そこの小綺麗なワンルームマンションの前にタクシーは停まった。


 運転手にお礼を言って出る。料金は既に支払い済らしい。アプリ経由でカード払い。便利だな。

 俺の帰りのタクシーは、また別に呼ぶらしい。システムがよくわからない。


「悠馬。お姫様」

「はいはい」


 俺に抱きつくようにして自分では動こうとしない樋口をズルズル引きずるわけにはいかず、仕方なく再度抱え上げた。


「お願いしたらやってくれるのだから、あなたも優しいわね」

「うるさい。部屋はどれだ?」

「最上階の角の部屋……」

「いい立地だな」


 幸いなことに、マンションの住民とは誰もすれ違うことなく、部屋までたどり着いた。誰にとっての幸いかといえば、当然樋口だ。

 近隣住民から、高校生に抱えられてる酔っ払いと噂にならなくてよかったな。


 樋口の部屋には初めて入ることになった。そして。


「散らかってるな」

「悪かったわねー。片付ける暇がないのよー」


 部屋に入った樋口は、フラフラとベッドの上に倒れ込んだ。このまま寝たりはするなよ。俺もすぐに帰るけど、この樋口を放っておくわけにはいかない。


 掃除する暇がないのは本当だと思う。けど、酒の缶や瓶、それに弁当の空き容器なんかが床に散乱してるのは、生活の場としてどうかと思うぞ。


 俺もかつては散らかった家に住んでたけど、食品の包みはちゃんと捨ててたぞ。愛奈が空けたビール缶もちゃんと溜まらないようにしてた。

 樋口の家が俺の部屋より汚かったなんてな。


 当然、衣類や小物や、なにかの書類なんかも床に散乱している。


 それから目を引くのが、壁のある一面に大きく張り出された模布市の地図だ。そこに新聞記事やら人物の写真やらメモ書きやらが上からピン留めされている。

 俺や姉ちゃんの写真が地図上の家の箇所にあった。あと、渦中の米原優花里やその彼氏の写真もある。


 これは、あれだ。


「映画でよく見る、ボードの上に関連資料を次々に貼っていって、なんか推理するやつだ。公安もやるんだな」

「やらないわよ。普通の公安は。わたしがやってみたいって思ってただけ」

「そうなのか……」

「日本の警察はあれよ。ホワイトボードの上に捜査関係者の写真を貼って人物関係図を作るのは、本当にやるわ」

「あー。それもドラマで見たことはある」


 樋口は個人的にこのスタイルが合ってるということだろう。


「米原優花里の足取り、探しようなんかないけど一応探ってるのよ。まあ、キエラと一緒にいれば意味ないけど。で、さっきの話に戻るの。優花里が彼氏に接触を試みるのが先か、あなたたちが人間のフィアイーターを公表するのが先か」

「うん」


 地図を見れば、彼氏の他にも米原優花里の家族や同僚の情報も書き込まれていた。


 住所や勤務先、行動パターン。そして、彼らに気づかれないように見守って優花里が現れた時にどう接触を阻止するべきかの要点が記入されている。

 実際に、県警の公安や捜査員がこの通りに動いているんだろう。かなりの人員を割いて。その労力はかなりのものと思う。


「やっぱり、家族には本当のことを話すべきじゃないか? 現場の人間の苦労を考えれば」

「そうね。そうすべき。……けど、出来ないとも思ってるの。彼らのことを考えると」

「なんでだ?」

「電話がね、毎日かかってくるの。優花里は見つかりましたかって」


 ベッドの上にうつ伏せになり、樋口の顔は見えない。少しくぐもった声で語りかけてきた。


「何日も行方不明でも、生きていると信じているの。信じたいのよ。なんて言ってると思う? 怪物に襲われたショックで記憶喪失になって、どこかを彷徨ってるんじゃないかって。そんなこと、ありえないのよ。ありえないって彼らもわかってるはず。けど無理やり信じようとしている」


 その気持ちはわかる。けど、辛いだけだろう。


「だったらなおさら、本当のことを言うべきじゃないか? 死んだ相手をずっと待ってるなんて辛いだけだ」

「本当に死んでいたらね。けど、米原優花里は傍から見たら生きてる状態。怪物になっても、きっと前の記憶があるし会話もできる」


 ああ。人間のフィアイーターはそういうものだ。


「言える? あなたの恋人は生きているように見えるけど死んでいるって。怪物だから、もうまともに生きるのは無理。魔法少女の手で、二度目の死を与えないと救済できないって」

「……」


 言えない。その人のことを深く愛している人に、そんなことは。

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