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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第11章 クリスマス回

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11-14.樋口の限界

 自分が怪物になるかもしれないなんて事実は、いたずらに市民を恐れさせかねない。それはキエラの思うつぼ。

 けど、それで機会を失ってしまったなんてな。


「僕としては、必要があれば公表したいところだけどね。最近わかった、みたいな感じで。その上で、みんなは魔法少女が守るから安心してほしい……とか伝える。感じで」


 なんか端切れの悪い言い方だな。結局それでも、ちょっと嘘をついてるのは変わらないのだから。


「ええ。わたしも同意見。偉い人が反対しているだけ。……あなたたちが澁谷を通して、それをやってくれると嬉しいけどね」

「けどいいのかい? やったら、樋口の立場が悪くなるのでは?」

「いいのよ。所詮外様だから。県警の上の言うことなんか聞かなくて」


 そうはいかないだろうに。普段の仕事のしやすさに影響が出る。


「実際にやってどうなるか、世間がどう受け取って本当に信じるか、何もわからないのよ。それがお偉いさんにも不安なの」

「仕事ってそういうものよねー。働いてると、どうしても会社の外に出せない秘密って出てくるし。それを明かすかどうかのタイミングが難しいこともある。失敗すれば、不祥事だとか隠蔽体質だとか言われるのよ」

「民間の会社も大変ね」

「公務員もねー。大人のしがらみに乾杯!」

「乾杯」


 愛奈と樋口のコップがぶつかり音がする。


 なんて世知辛い愚痴なんだろう。けど、必要なことなんだろうな。樋口も自分の立場が微妙で困っている。けど、俺たちと一緒にいる間は安らげるんだろう。

 それはそうとして。


「ふたりとも飲みすぎだ」

「えー。いいじゃない。樋口さんのためよ」

「姉ちゃんまで付き合って飲むことないだろ」

「わたしが飲むことで、樋口さんも安心して飲めるの」


 どういう理屈だ。あと樋口も普段より酒が多い。


「まあいいじゃないの。今日は飲まなきゃやってられない日なのよ」

「お前、割と頻繁にそれ言ってるよな?」

「愛奈ー。あなたの弟、ちょっと真面目すぎない?」

「本当にねー。もう少し遊び心があるべきって思うわよ」


 遊び心が出せる大人になってくれ。


 と言いたかったけど、それよりは飲むのを止めるのが先だ。


「堅い高校生で悪かったな。ほら、もう飲むのはやめろ。帰りのタクシー呼ぼうか?」

「うえー。大丈夫、自分で呼べるから……ねえ悠馬」

「なんだ?」

「外までお姫様抱っこして」

「なんでだよ」

「てか、タクシーで家まで送って。往復分のお金出すから」

「お前は何がしたい」

「男の子とお喋りしたいのよー!」

「うわ! 抱きつくな!」

「そうですよ樋口さん! 悠馬を独占するの禁止です! 羨ましいから!」

「遥。お前だって隙ありゃ独占しようって思ってるだろ」

「アユムちゃんも同じだろうからセーフです!」


 隠蔽とか公表とかの話題だと黙って話を聞いていただけの遥たちが、俺のこととなると途端に騒ぎ出す


「悠馬、うち来ない? ちょっとだけだから」

「……今からか?」

「うん。ちょっとだけ……」

「わかった」

「いやいやいや! 悠馬待って! 悪い女の人についてっちゃ駄目!」


 遥が止めようするけど、俺は樋口の肩を支えて玄関の方に向かっていく。


 樋口が、どうしても俺が必要って顔をしてたから。


「すぐ戻るから」

「えー……ちゃんと戻ってきてよね? 樋口さんの家に泊まるとか駄目だから」

「はいはい」


 既に外は暗くなっている。そんな遅い時間までお邪魔するつもりはなかった。

 玄関を出て、マンションの廊下を歩いてエレベーターへ行こうとして。


「お姫様抱っこして」

「……外に出るまでの間だけな」


 タクシー運転手にその姿を見せるわけにはいかない。


 酔っ払って足元もおぼつかない樋口は、明らかにこれまで以上に酔っていて。米原優花里の件でかなり困っているのはわかった。

 俺たちを頼っているのはわかるけど、立場上頼りきれないこともあるんだろう。ひとりで戦わなきゃいけないことも多い。

 ちょっとくらい、報いてあげてもいいと思った。それだけのこと。


 樋口の体を両腕で抱え上げる。彼女も俺に体重を預けて、持ち上げやすくしてくれた。

 他のマンション住民に見つからないことだけ祈りながら、エレベーターに乗り込む。


「あなた、親しい女をみんなこうやって抱いてるらしいわね」

「人聞きの悪いことを言うな。仕方なくだろ」

「女をみんな抱いてるらしいわね」

「言い方」


 俺が、女と見ればすぐに狙おうとする男みたいな表現をするな。


 いつの間に連絡をとっていたのか、マンション前にタクシーが既に停まっていた。

 お姫様抱っこは早々に打ち切ったけど、樋口の体を支えるのは変わらない。ぐったりしている彼女を車に押し込み、俺も隣に座る。


「樋口。住所は」

「大丈夫大丈夫。呼んだときに伝えてるから」


 実際、タクシーは何も言わずに発進した。さすが抜かりないな。単なる酔っ払いにしか見えないのに。


 タクシーは駅前を通り、太い幹線道路を進み途中で繁華街を抜けた。

 駅前や人の集まるところでは、街路樹や建物に電飾が施されている。


 クリスマスイルミネーションと呼ばれるものが人を呼ぶ観光地的な使い方ができると知った人たちが、ウィンターイルミネーションと名前を変えて冬の間ずっとキラキラさせている。

 その方が長く楽しめるもんな。地元の人間しか使わないような駅をずっと光らせても集客は見込めなさそうだけど、少なくとも綺麗ではある。


「はー。こういうのを見て、地元のカップルがいちゃつくのよね。綺麗だね。君の方が綺麗だよ。とか」

「なんだよそれ」

「わかんないけど、こういう馬鹿なカップルとかいるんじゃないかしら」

「いるかもしれないけど」

「街中どこを歩いても恋人だらけ! こっちには彼氏になりそうな男もいないってのに。仕事だけは大量にある。はー。やってらんないわ」

「大変なのはわかるけど。あんまりそういうこと言うなよ」

「クリスマスが近くなるとね、気が滅入るのよ。特に今年は地元じゃないし」

「それは気が休まらないよな」

「仲のいい女とクリスマスは独身女同士で過ごそうとしても、澁谷は仕事が忙しいらしいし」


 アナウンサーは、年末年始は特に仕事が詰まってるのだろうな。わかるとも。

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