11-8.レインボー唐揚げ
けど、キエラにも考えがあった。
彼女にとっては、人間なんてどれも同じに見えるらしい。性別とか容姿がこんな感じというのは当然見分けられるとしても、それがどんな人かまでは読み取れない。
「ティアラ。誰がいいかしら?」
だからキエラはティアラに頼った。
「女の子がいいんだよね? それも歳が近い。となると子供とか……」
「パインくらいの歳でも大丈夫よ?」
「それはそれで、選択肢がありすぎて困るなあ」
「ふふっ。困ってるティアラもかわいい」
キエラのいたずらっぽい笑みに微笑み返しながら、ティアラは周りを見た。
家族連れや、学校の仲良しグループが目立つ。あとはカップル。
いいなあ。人間だった頃は、男の子と付き合うなんて考えられなかった。今もだけど。
もし今、誰か好きになれる男の子ができたらどうすればいいんだろう。
「誰かの恋人、とかどうかな」
「え?」
「恋ってどんなものか、聞いてみたいな」
「! いい! いいわね! ラフィオもね、この世界の恋愛に憧れて逃げたのよ! 恋を知ればラフィオを連れ戻せるかもしれない! やりましょう!」
「でも、恋人なんて仲間に引き入れるの大変だよね。死んで下さいって言っても聞いてもらえない」
「いいのよ。殺してしまえばいいの」
キエラは周りを見回して、目についたものにコアを投げ込んだ。
それからポケットからもうひとつ、特別製のコアを取り出して指の上で弄ぶ。
「カップルだけ狙いなさい。女の方が死ねば、これを入れてフィアイーターにする」
――――
平和なイベント会場で、突如として悲鳴があがった。
同時にラフィオも反応する。
「フィアイーターだ。近い。というかこの会場内だ。みんな変身してくれ」
「うへー。こんな楽しい場所を襲うなんて、あいつら本当に性格悪いよねー」
車椅子の上の遥が足を伸ばしてアンクレットに触れる。他のみんなも宝石に触れながら変身。
家で寝ている愛奈以外の、三人の魔法少女が現れた。
「悠馬。車椅子を隠しておいて」
「わかった。誰かに預けたら合流する」
澁谷の会社はこの近くだ。電話したら、向こうも既に事態を把握していて向かってるとのこと。
車椅子を回収することも了承してくれた。
公園なんて普通は隠し場所に困る土地だけど、ここの場合は建物も多いからなんとかなる。イベントをやっていたから、なおさらだ。
無人のキッチンカーの後ろに車椅子を隠して、澁谷に場所を連絡。ナイフを取り出して、覆面も被る。
キッチンカーをちらりと見ると、レインボータピオカなるものを売ってるらしかった。うまいのか?
いやそれよりフィアイーターだ。既に市民の避難は完了してるらしい。周りに高い建物も多い土地だから、そこに逃げて窓から戦いを見られてる可能性もあるな。
市民の前で恥ずかしい戦いはできない。
「フィアァァァアァァァ!」
フィアイーターの咆哮がする。その姿は……。
「あれはなんだ?」
「悠馬知らないの!? レインボー唐揚げだよ! 今話題沸騰の新感覚スイーツ!」
「スイーツなのか!? 唐揚げが!?」
ちょっと世間の感覚はわからない。身長三メートルほどあるその怪物は、確かにレインボー唐揚げと呼ぶべきものだったけど。
唐揚げに虹色がマーブル状に混ざりあったソースがかかっているものが巨大化している。そんなボディに顔がついていて、あと肉でできてるらしい手足もついていた。
あの虹色ソース、体に悪そうだなあ。もちろん食紅で色をつけただけだろうから害はないんだろうけど。でも食欲が湧かないというか。
けど映えるんだろうな。SNSで映やしてから、ちゃんと食べるんだろうか。うまいのか?
「甘く味付けした鶏肉を揚げて、甘いレインボーソースをかけた食べ物だよ! 映えるって話題なんだよ!」
ライナーが俺の横に来ながら説明してくれた。気になることを教えてくれてありがとう。
「それ、美味いのか?」
「甘いんだって! 甘い鶏肉って斬新だよね!」
「ああ。斬新だな」
甘辛はあるけど、甘いってのは聞いたことないよな。てか、ライナーも甘いとしか言ってなくて、美味しいかどうかは濁してるよな。食べたことないんだろう。
後で食べてもいいとして、今は目の前のフィアイーターを倒さないと。
ナイフで目についた黒タイツの喉を切り裂く。ライナーは先行してフィアイーターの方へ駆けていった。
見たところ、奴の手足は柔らかい。ここんところ、金属とか石とかの堅い素材の敵ばかりと戦ってた気がするから、これはむしろやりやすさを感じる。
矢も刺さりやすく、ラフィオに乗ったハンターが放った矢はフィアイーターの関節部を的確に射抜いていた。
足の長さのおかげで身長三メートルとかあった巨体が、崩れ落ちる。コアはレインボー唐揚げ部分のどこかにあるはずだけど、さすがにそれを射抜くのは無理か。
「バーサーカー! 黒タイツは俺に任せて、ハンターを手伝ってコアを探してくれ! あいつの体を引きちぎって中を見るんだ!」
「お、おう! わかった!」
黒タイツの首根っこを掴んで屋台の柱にガンガンぶつけるという、エグい殺し方をしていたバーサーカーが振り返って頷いた。
肉なら体を引き裂くこともできるはず。パワータイプのバーサーカーなら適任だ。




