11-6.プレゼント選び
市内一の繁華街に来たのも、店が多くて選べるからって理由だ。百貨店も商業施設もいくつかある。
選択肢の多さに、五人揃って駅前で立ち尽くすことになってしまったけれど。
「小さいぬいぐるみはどうでしょう!?」
「駄目だ」
前にも聞いた提案をつむぎがやって、ラフィオに即座に否定された。みんな好きなものではないし、あとぬいぐるみって割と高いからな。
「貰って嬉しいもの……日用品ってことになるかな。でも喜んで貰えるか微妙だよねー」
「あの施設、生活必需品があれば買うだろ。だから、必要なくてもあれば嬉しいものを選ぶべきだ」
「たとえば、なに?」
「……玩具、とか?」
クリスマスだし、プレゼントの定番かな。
「ぬいぐるみですか!?」
つむぎが嬉しそうに反応する。いや、それはちょっと。なんで繰り返し提案するんだ。
ところが。
「いいんじゃねえか、ぬいぐるみ。でかいのひとつ買ってやろうぜ」
なぜかアユムが肯定した。
「考えてみればさ、ひとりずつにプレゼント渡す必要ないだろ。施設の子供たちみんなが使えるものをあげてもいいんじゃねえか? 卒業製作みたいな感じで」
「卒業製作?」
「あれ? こっちにはないのか? 田舎だけなのかな。小学校とか中学校を卒業する時に、卒業生が学校に備品を贈るんだよ。棚とか、特別教室の大きめの机とか。それで何年の卒業記念で贈呈とか書いてあるんだ」
「うーん。わからない……」
「俺も。作ったことないな」
地域差があるのかな。
「でも、いい考えだと思う。みんなで使えるものか」
で、子供たちが集まる場所だから玩具。みんなで遊べるパーティーゲームとかをいくつか買ってやるか。
「みんなでモフモフできるぬいぐるみもねー」
「それは……いや、いいか」
やってみよう。
大きな街だから、ボードゲームを扱ってるお店もいくつか存在する。コンピューターに頼らないゲームというのが豊富にあることを、俺は初めて知った。
百貨店の中に入っている、緑の看板の雑貨店にもそういうゲームを扱うコーナーが充実していて。
「人狼とかは有名だよね」
「聞いたことあります。みんなで狼人間を探してモフモフするゲームですよね」
「あー。うん。そうだね。狼を探す所は合ってるかなー。ボードゲームだと、開拓者のこれとか有名だよね。サイコロを振って資源を集めて取引するっていうの」
「俺はそんなもの知らなかった」
「悠馬はもっと世の中にアンテナを張るべきだよー。あ、このカードゲーム、この前テレビでやってるのを見たなー。なんか、モンスターのイラストに名前をつけていくの」
「面白そうだな。……有名なゲームだったら、もうニコニコ園にはあるかも?」
「ないよー。あそこで結構遊んでるから、どんな玩具があるかは知ってるのです!」
「じゃあ買うか」
買い物かごに良さそうなゲームを放り込んでいく。
「あ、悠馬これ見て。違う音が鳴る壺を振って、同じ音の見つけて並べ替えるゲームだって」
「なるほど。目が見えなくても遊べるゲームか」
全盲なのにルービックキューブをいとも簡単にクリアしてしまう天才少年の顔が頭に浮かんだ。
そういう観点から選ぶのは大事だな。
「視覚障害者向けの玩具だねー。トランプもあるのは知ってるなー。あとオセロも。お、チェスは見たことない」
「駒の形がわかりやすいから、そもそも目が見えない子供でも楽しめるボードゲームだよな」
「うん。これの場合、白い駒はツルツルだけど黒の方は表面がザラザラしてて、さらにわかりやすくなってるね」
ユニバーサルデザインって奴かな。
あいつ、チェスを覚えたら誰にも負けなさそうな頭してそうだ。目が見えないのにすごいよな。
「大きいぬいぐるみ、いっぱいあるねー」
「大きすぎるのは高くて買えないからな。ほどほどのにしておけよ」
「ほどほどって、どれくらい? 大きくなったラフィオくらい?」
「でかすぎる! 子供が両手で抱えられるくらいだ」
「この前のモフ鳥さんぬいぐるみくらい?」
「……ああ。それくらいだ」
「澁谷さんにお願いして、テレビ局からモフ鳥さんプレゼントしてもらうのはどうかな?」
「話してみてもいいんじゃないか? 取材協力した過去はあるし、クリスマスプレゼントとして乗ってくれるかも」
「それはそれとして、わたしからも渡したいよねー。どのぬいぐるみがいいかなー。これとかかわいいよね。手触りもモフモフで、毎日モフっても飽きない!」
「……言っておくけど、お前がモフるんじゃないぞ? 子供たちにプレゼントするから、お前はこれを買った後に手放すんだぞ?」
「え……」
「なんでそこで驚く顔をするんだ」
少し離れたぬいぐるみコーナーで、ラフィオが呆れた顔をしていた。
つむぎの相手は任せよう。ラフィオなら、なんかいい方向に誘導してくれるだろう。
方針が決まってしまえば、買い物は思ったより早くに終わってしまった。予算的にも大した額にはならなかったし。
つむぎも、子供たちにあげるプレゼントを買ったらしい。それとは別に、自分用のモフモフも買ったらしいけど。まあそれは自由だ。




