11-3.福祉としてのクリスマスパーティー
「むむむ……プレゼン……デートプラン……」
「思えばオレ、この街についてよく知らねえんだよな。どんなデートがいいかとか、全然わからねえ」
勉強しろと釘を刺したにも関わらず、遥もアユムも今日一日授業を真面目に聞くこともなく、デートプランのことに頭を悩ませていたらしい。
帰ってからも同じらしく、ふたり並んでソファに座ってスマホとにらめっこだ。
模布市のデートスポットとかで検索かけてるんだろうか。遥の場合は、前に澁谷から貰ったおすすめデートスポット情報もあるだろうし。
俺の想定より真剣に考えているのはわかる。わかるんだけど、俺の望むところではないというか。
遥は夕飯を作れるような状態ではなさそうで、今日はラフィオがため息をつきながらキッチンに入っていった。
「あ」
不意に遥が短く声をあげた。
思いついたというよりは、もっと別な感情が込められていて。
「悠馬。クリスマスパーティー行かない?」
「パーティー? 開くとかじゃなくて、行くのか?」
「うん。ニコニコ園でやるんだって。園長先生からメッセージが来た」
「おー」
「なんだ? ニコニコ園って」
「障害者の子供たちが集まる福祉施設だよー」
その存在をよく知らないアユムが尋ねて、遥が即座に答える。
ドキュメンタリーの取材が終わった後も、遥は彼方と一緒にちょくちょく行ってるらしい。
テレビの仕事が終わったら関係もそれまで、みたいなドライな態度は取らないのがさすがだ。
俺と一緒に住み始めてからは、さすがに頻度も落ちたらしい。けどよくよく考えれば、俺が陸上部でトレーニングしてる時に遥だけ先に帰ってることが時々あったな。
行ってるんだろうな。
で、子供の養護施設であるニコニコ園では、もちろん季節に合わせた行事もする。教育の一環だし、障害のある子供を抱えた家庭はそういうことをする余裕がない所も多い。
これが福祉というものらしい。
「当然のようにわたしも招待されました! みんなも来てはいかがかな?」
「行きたいが、行っていいのか?」
「もちろん! わたしの友達が来て拒むような子たちじゃないよ!」
それは確かに。
「じゃあみんなで行こうか。いつやるんだ?」
「クリスマスイブの夕方」
「そうか。楽しみだな」
今年のイブは金曜。福祉施設で子供たちの学校終わりにイベントをするのにはちょうどいい。
俺とデートしたい女が三人いて、クリスマス当日にひとりと行くとして、イブの夜も別のひとりと出かけることで満足してもらう……という逃げ道が無くなったことは、今は考えないでおこう。
「オレも行っていいのか? ニコニコ園っていうの、全然わからないんだけど。遥以外の障害者とどう接すればいいのかもわかんないし」
「普通にやればいいよー。みんな普通の子だから!」
「そうなのか?」
「本当だ。俺も正直驚いたけど、すぐに友達になれる」
「そうか……。わかった。オレも行く」
「ラフィオとつむぎちゃんも行くよねー?」
「わかった。行こう」
「わたしも行っていいの? 行きます!」
キッチンに声をかけると、肯定の言葉が帰ってきた。
ふたりとも取材の時には行ってなかったけど、再訪した時に子供たちとは知り合いになってる。
あとは愛奈が来るかだけど、まあ来るだろうな。
パーティーと言ってもお酒は厳禁だから、あまり気は進まなさそうだけど。
「というわけで、子供たちにプレゼントを買いましょう!」
「……必要か、それ?」
「小さい子供たちにはサンタさんがプレゼントくれるからいいとして、あの施設には中学生の子もいるからね。寂しいじゃん? もちろん先生たちが代わりにプレゼント用意してくれると思うけど」
「自分たちからも何か渡したい?」
「うん。お呼ばれする立場だしねー。安いものでもいいとおもうけど。」
「そういうことなら、なんか買うか」
「うんうん。何がいいかなー。みんなでお揃いの何かとか? 高いものだと駄目だよね。ハンカチとか? 筆記用具とか?」
筆記用具か。子供たちに必要なものではあるけど、喜ぶかどうかは微妙だよな。クリスマスプレゼントで勉強の道具をもらうのは、正直あまり嬉しくない。
遥だって、仮にサンタクロースからのプレゼントがペンとノートだったら落胆しそうだ。落第はするなというサンタからのメッセージだとしても。
「ぬいぐるみがいいと思います!」
キッチンから声が聞こえた。
「やめとけ。貰ったみんなが喜ぶとは限らない」
やはりキッチンから訂正の声が聞こえた。
確かに。喜ぶ子も多いだろうけど、別に嬉しくない子も多そうだ。
「難しいねー。何にするか、明日の放課後お店行って決めようよ。駅前のショッピングセンターでいいよね」
「いいけど、買い物を宿題から逃れる言い訳にするなよ?」
「んなっ!? しませんしません!」
「あとふたりとも、今日の授業全然聞いてなかっただろ。復習するぞ」
「ま、待って!?」
「オレもかよー!?」
「アユムちゃんだけでいいと思うな! わたしが授業聞いてないのはいつものことだし!」
「それで逃れられると思ってるとは、いい度胸だ」
「ひえぇ……悠馬が怖い! そ、そもそも悠馬がデートプラン立ててって言ったのが悪いじゃん」
「それはそれ。これはこれだ」
「うわー!」
夕飯までと、食べ終わってももうしばらくは、ふたりの勉強をしっかり見ることになった。




