11-1.もうすぐクリスマス
ついこのあいだまで暑いと思っていたのに、気づけば肌寒い季節がやってくる。
冬といえばクリスマス。そして年末年始だ。バタバタ慌ただしくなる季節。師走というくらいだから。
それは愛奈の会社も同じようで。
「起きろ」
カンカンカンカン。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」
いつものようにフライパンを叩いて、寝ている愛奈を強制的に起こした。
「あの! 悠馬! もう少し優しい起こし方がいいです! 特に十二月は!」
「なんで月によって起こし方変えなきゃいけないんだ」
「年末は忙しいんです!」
「そうなのか?」
「年末進行というやつです! 年内になんとか部品が欲しい客先が多くて! それの調整とかがやばいんです!」
後半、説明するのが面倒になって曖昧な言い方になってる。
仕事が増えるっていうのはわかるけど。
「忙しいなら働け」
「やだー! 働きたくない! 仕事したくない!」
「働け」
「仕事が多いから頑張らなきゃいけないって先入観、無くすべきだと思うのよ! これからは柔軟な考えができる人間が勝つ時代なの!」
「考えの基本がサボることな人間は永遠に負け組だ」
カンカンカンカン。
「あああああ! やめて! いいもん負け組で! 悠馬が働いたら養ってもらうから!」
「さっきと言ってることが真逆だ!」
「サボりたいって考え方だけは一貫してます!」
「永遠にフライパン叩き続けないと、その根性は直らないみたいだな」
「やめて許して!」
今日も、愛奈がベッドから出て着替えるまで、俺はフライパンを叩き続けた。
食卓ではみんな既に朝食を食べ始めていた。
テレビでは朝の情報番組が流れている。画面の端の天気予報を見るに、今日は全国的に雨の心配はないらしい。
メインの放送は、クリスマスに行きたいお出かけスポットがどうとか、そんな内容だ。ラフィオとつむぎが、なんとなく目を向けていた。
「ねえ、ラフィオ知ってる? クリスマスって、恋人がデートして過ごす日なんだよ?」
「大人はね。子供はサンタクロースからプレゼントを貰う日だろう?」
「うん! ……ラフィオもサンタさんからプレゼントもらえるかな?」
「どうなんだろ。異世界から来た子供にも、サンタクロースは来るのかい?」
「わかんない! けど、ラフィオいい子だからサンタさんきっと来るよ!」
「そうか。だといいな」
「えへへー。わたしの所にも来るもんね」
「……君は自分がいい子だと思っているのかい?」
「うん! 去年もプレゼント貰えたから!」
「マジか……」
「お留守いっぱいしたからねー」
「なるほど。それは立派だ。動物たちをモフモフの恐怖に陥れているのを相殺できるくらいに立派だ。ちなみに何をくれたんだ? やっぱりぬいぐるみかい?」
「映画のブルーレイボックス。ファイナルデッドモフモフっていう映画シリーズのやつ」
「なんとも恐ろしいモフモフだね」
「モフモフが逃げ出して人を襲うっていう映画なの。動物たちがすごくかわいいの!」
「そうか。つむぎが喜ぶプレゼントなんだな」
ちびっ子たちがサンタクロースの話で盛り上がっていた。そうだよな、そういう時期だ。
俺も小さい頃はクリスマスが楽しみだった。サンタクロースがプレゼントをくれるから、というのが主な理由だ。ラフィオたちと変わらない。
どうやら遥たちも同じらしい。
「わたしの所にもサンタさん来たなー。だいたい小六くらいまでなら子供って思ってくれるよね」
「俺もそうだった」
「オレんところも。日本中どこでも同じようにガキにプレゼントくれるって、サンタすげえよな」
「だよねー。田舎にもサンタさん来るんだ」
「おう。普段買えないようなものをプレゼントしてくれるんだからすこいよな」
「あー。そう考えると、田舎こそサンタさんがいるべきだよね。ねえ、サンタさんは悪い子にはプレゼントじゃなくて石炭をくれるって聞いたけど、それは本当かな?」
「さあ。俺の周りじゃ聞かなかったな」
「オレも」
「そっかー。まあ、わざわざ石炭なんか送って波風立たせるよりはプレゼント渡した方が丸く収まるよねー」
サンタクロースがそんな配慮をするかは疑問だけど、案外するかもしれないな。
いずれにせよ俺たちくらいの年齢になれば、もうサンタクロースは来なくなる。だから過ぎ去った頃の思い出でしかない。
ラフィオにとっては割と重要なことだ。この世界のサンタクロースに、頑張ってきた子供だと認められるかどうかって。
それはそうとして。
「悠馬ー。クリスマスはわたしとデートするって約束だよね?」
「おいずるいぞ。オレだって悠馬とデートしたい」
俺は女ふたりから同時にそんなことを言われる。
普通に考えれば幸せなことなんだろうな。どうもそうは思えないのだけど。
これもつむぎのせいだ。クリスマスはデートなんて言い出したから、遥も意識してしまった。
それに、ふたりではなく三人だ。
「悠馬。わたしもデート行きたいんだけど?」
「姉ちゃんはさっさと食い終わって会社行け」
「むー。仕事頑張ったらデート行ってくれる?」
「考えておく」
「よしっ!」
考えるだけで行くとは言ってないけど、愛奈にはそれで十分だったらしい。食器をキッチンに持っていき、小躍りしながら玄関を出た。
「悠馬、やっぱり愛奈さんに甘い」
「そんなことはない」
言う事聞かせるために話を合わせただけだ。




