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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第10章 秋の学校行事

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10-55.屋根が落ちる

 そうだな。腕全体を使えなくするには、付け根を壊すしかない。石よりは鉄の方が硬いし本気でやれば壊れるかもな。


 しかし剛も本気ではあるけど、表面が少し欠けた程度の効果しかなかった。こういうのは根気が必要だろうけど、根気をかける暇は今ない。

 さらに腕が動いて、剛の体を腕と胴体で挟み込むような形になろうとした。俺は急いで剛の背中に接近して魔法少女のコスプレ衣装を引っ張って退避させた。


「ああもう! 危なっかしいことはしない!」


 そこにセイバーか来て、動き回るフィアイーターの腕に強烈な飛び蹴り。ライナーほどではなくても、人間の力をはるかに超える脚力で腕を強引に地面に叩きつけた。


「ほら! 腕を押さえつけて! わたしも手伝うから!」

「わ、わかった! 剛トンファー片方貸してくれ!」


 セイバーが腕に体重をかけつつ、手首のあたりに剣を突き刺して傷つけながら動けないようにする。

 俺もトンファーの又になっている箇所をフィアイーターの腕にかぶせて押さえつけた。


「みんな頑張って! もうすぐだから!」

「ああ! これが最後!」


 ライナーとバーサーカーの声。柱もかなり破壊できたらしい。残る二本を、ふたりの魔法少女がほぼ同時に攻撃。

 バキッと音がして柱が折れて、屋根が自重で落下してきた。


「うわあっ!? なんでこっちに落ちてくるんだよ!?」

「わたしたちが屋根の下にいたからだよ! ほら避けて!」


 ライナーがバーサーカーの手を引いて退避。ドームのついている屋根は、一度舞台の上に落ちた後に衝撃で跳ねたのと元々斜めだったことが災いして、地面の上にひっくり返ることになった。

 同時にドーム屋根が割れた。


「あった! コア! 屋根の中! ハンター!」

「はい!」


 地面に伏せて裂け目を観察したライナーに言われて、ハンターも同じように地面に伏せた。ひっくり返った屋根の下に潜るよりは、こっちの方が楽だから。


 他の全員で暴れるフィアイーターを押さえつけて、ハンターの邪魔をさせないようにする。


 ハンターは弓を横に構えて、一本だけ矢を放った。それで十分。

 俺にコアの様子は見えなかったけど、フィアイーターの体が黒い粒子が拡散していきながら、壊れた奏楽堂に変化していくのを見て結果はわかった。


「疲れたー。強敵だった! なんか大きかったし! あとみんな手伝ってくれなかったし!」


 終わったとわかった途端、セイバーは地面に横になって文句を言い出した。こいつは。

 言い返したのはライナーで。


「手伝ったじゃないですか! てか、こいつ倒せたのはわたしとバーサーカーのおかげですよ!」

「そうじゃないの! あのおじいさんのフィアイーターひとりを相手に、魔法少女三人はなかったと思うの! あとラフィオもいたし!」

「それはまあ、ほらあれです。わたしたちお姉さんより覚悟決まってないので」

「覚悟?」


 ライナーが少し真剣な口調だったから、セイバーも座り直した。バーサーカーもちょっと神妙な顔をしている。

 ハンターは大きなラフィオに抱きついて顔をモフモフに埋めているから、表情は見えなかった。


「フィアイーターだと、わかってるんですよ。元になった人間も、悪い人だって。でも人間じゃないですか。殺すのにちょっとためらいがあって……」

「みんなでやれば、なんかノリで行けるかなって思ったんだよ」

「そう。ノリ。みんなで一緒のことやると楽しい。その勢いでやっちゃう、的な」

「一緒のことって……文化祭の準備じゃないんだから。けどまあ、みんなでやれば責任が分散されるってことね。気持ちはわからなくはないけど」


 立ち上がったセイバーが、ホームレスだった男の死体に近づいて様子を見た。


 人間、死ねばだいたい無表情になるものだ。死に際にどんな感情を持っていたのか、死体からは伺えない。

目は開いたままだった。それを閉じてやることもなく、セイバーは俺たちに振り返った。


「そっちの様子あんまり見れてなかったけど、どうだったの? 悠馬と棒術で戦うって願い、叶えられた?」

「いや。棒では戦わなかった。こんな奴の願い、叶えちゃいけない」


 だからこの男が死に際に抱いていた感情は、失望とか落胆とかだ。


「そうね。それでいいわ。フィアイーターになったからって望みが叶うって考えが間違いなのよ。樋口さん、いる?」

「ええ。いるわよ」


 物陰からこっちの様子を伺っていた樋口が出てきた。堂々と登場すればいいのに。


「お取り込み中だったから。公園一帯を警察が封鎖して市民やマスコミは出入りできないようにしているわ」


 それから樋口は、こっちに近づいてきた澁谷を見る。


「彼女だけ例外。レールガンの電力を提供してくれた分のお礼はどこかでしなさいな。けど、封鎖も手間なのよ。さっさと行きなさい」

「ええ。わたしも仕事の途中だったし、みんなも文化祭の準備を抜けて来たのよね。樋口さん、この遺体の対処は任せていい?」

「ええ。いいわ」

「澁谷さん。後でうちに来れる? 取材は家でオフレコでって形でどう? お酒も持ってきてくれると嬉しいんだけど」

「独特な取材ですね。けど、いいですよ」

「あと、人間がフィアイーターになる例が何度かあるから注意するよう、放送で呼びかけてくれる? 注意してどうって話じゃないけど、自分から怪物になろうと考える馬鹿は止めたい」

「わかりました。上に相談してみます」

「じゃあわたしも会社に戻るわね」

「ああ。姉ちゃん」

「なあに?」

「ありがとう。やっぱり姉ちゃんは頼れる」

「でしょ?」


 呼び止めたセイバーの顔には微笑みが浮かんでいた。

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