10-53.ただのホームレスの死
思い描いていた因縁の対決が果たされぬまま、こんな形で死ぬことへの悔しさ。どれほどの物だろう。
俺には興味のないことだけど。
「死ね!」
既に折れている正蔵の首。それでもライナーは蹴り続けていた。何回目かで、皮膚が裂けたらしい。
傷口から見えるのは血ではなく闇。その傷口に指を突っ込み、バーサーカーが思いっきり広げていた。
バタバタと正蔵の手足が最後の抵抗だとばかりに暴れていたけど、矢が何本も刺さったそれに大した動きはできなかった。
広げられた傷口の中にコアを見つけたらしい。
「あった! 食らいやがれ!」
ガントレットをつけた拳を振り上げたバーサーカーが、正蔵の体の中を殴った。
俺からは見えないけど、コアが砕けた。直後、悔恨を抱いていたはずの彼は全く動かなくなって地面に倒れ込む。
黒い粒子と共に、ただの死体となった。
あっけない最期だった。こいつが作られるまでに、ふたりのホームレスの死があったのに。
余韻に浸る余裕はなかった。
「あの! そろそろわたし! わたしを! 助けて! ぎゃー!」
セイバーも限界らしかった。
「みんな。フィアイーターと周りの黒タイツを片付けるぞ。俺たち、文化祭の準備の途中だったんだ。さっさと終わらせて戻りたい!」
「そうだよね! うおおおお! 文化祭覚悟ー!」
いや、その言い方はなんか違う。ライナーに気合いが入ってるのはいいことだけど。
フィアイーターに肉薄して、その胴体を思いっきり蹴飛ばすライナーは頼れた。他の魔法少女とラフィオもフィアイーターに向かっていく。
俺も続かないと。ナイフは壊れたけど、素手でも戦える。
「悠馬くん悠馬くん。やっと近づけた。これ」
今まで物陰に隠れていたらしい。麻美が近くに寄ってきて、細い鉄パイプを手渡した。
「周りに黒タイツとかいて、怖くて近寄れなくて。ごめんね」
「ありがとう。助かった」
「ううん。あのホームレス倒しちゃったから、もう遅いかもしれないけど」
「遅くはない。あいつと戦うために棒術を習ったんじゃない。フィアイーターを倒すためだ。それから……魔法少女を守るため」
受け取った鉄パイプをくるりと回して構える。
フィアイーターの周りには相変わらず黒タイツもいる。俺はそっちに向けて駆け出した。
「フィー?」
黒タイツのひとりが俺を見つけて、手を伸ばして掴みかかろうとした。その腕に横から鉄パイプを当てて怯ませながら肉薄。ショルダータックルを食らわせて後ろに下げつつバランスを崩させる。
さらに足払いをかけて転倒させると、喉に向けて突く。体を切り裂いても喉に相当する通り道はないくせに、むせたような動きで苦しむ黒タイツの顔を踏みつけて捻り折った。
背後から別の黒タイツが近づいてきた。そちらを少し確認しつつ、棒で突く。もんどり打って倒れたそいつの首も蹴飛ばして折った。
「次は誰だ?」
「悠馬! こっちを手伝ってくれないかい?」
「わかった!」
剛は相変わらず複数の黒タイツを相手にしていた。
囲まれつつもしっかり止めを刺そうとしてるけど、それを別の黒タイツが邪魔をしている状況。
そんな黒タイツの後ろに迫って、棒による足払いをかけた。面白いように転んだそいつの喉を突いて体重をかける。
鉄パイプが喉を貫いて殺した。なるほど、こういうやり方もありか。首を折るよりは体力は使わない。
一体倒せば均衡は崩れて、剛は黒タイツをトンファーで滅多打ちにして一体を昏倒させ、別の一体の攻撃を捌きながら倒した奴の首に片方のトンファーを引っ掛ける。
襲ってきた別の黒タイツにももう片方のトンファーを引っ掛けて自分の方へ引き倒しながら、横になっている黒タイツに体重をかると、トンファーか支点になっててこの原理で首が折れた。
剛の隣に倒れることになった黒タイツは、俺が首を貫いて殺した。
「剛、フィアイーターの方に行ってくれ」
「いいよ。君はどうするんだ?」
「姉ちゃんを助ける」
フィアイーターから少し離れた箇所。単独で巨大な敵と渡り合っていたセイバーは、他の魔法少女に対処を任せて自分は下がった。
怪我をしてるわけじゃないけど、かなり疲れてそうだ。そこに、黒タイツが何体か押し寄せてきた。
「ちょ! 待ちなさい! あんたの主人はあそこ! こっちじゃないわよ! ほらあっちいけ! てか! 武器持たないでよ反則でしょ!」
フィアイーターが投げて落とした音符を、黒タイツたちは持っていた。それを鈍器として振り回していた。
セイバーはそれをなんとか剣で受け止めつつ、複数いる敵のおかげで苦戦してる様子で。
「姉ちゃん!」
「悠馬!?」
呼びかければセイバーは笑顔でこちらを見た。あと、背後から迫る敵の気配に黒タイツたちも何体か反応した。
不意打ちできるチャンスを捨ててしまった? いや、いい。俺よりもセイバーの方が強いんだから。
俺の方に一瞬でも注意を向けてしまった時点で、黒タイツの命運は決まった。
急に元気を取り戻したセイバーが黒タイツの一体の胸を切り裂いた。他の黒タイツが慌てて武器を構えたけど、俺はその武器を棒の先端で叩いて落とす。
「フィッ!?」
信じられないことが起こった、みたいな声をあげる黒タイツ。顔は真っ黒で表情なんかないけど、驚いているのだろう。
そんな奴らの体を、棒の端でパンパンと音を立てながら繰り返し叩く。それでバランスが崩れた黒タイツたちがセイバーの剣の餌食になっていった。




