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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第10章 秋の学校行事

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10-52.願いは叶わない

「お前は……」


 人外の力を得て、自分はなんでもできる偉大な存在になれたと増長した男は、先程から年下にばかり翻弄されていた。ハンターみたいな小さいな女の子にやられるのは特に屈辱なのだろう。

 刺さった矢を引き抜きながら青い魔法少女に怒りの形相を向けた正蔵は隙だらけだった。


 ハンターの放った、首を狙った矢はなんとか回避できたが。


「お前の相手はオレだぜおっさん!」


 踏み込んだバーサーカーが正蔵の横面に強烈な張り手を当てる。さらにラフィオが接近。前足で正蔵を思いっきり突き飛ばした。

 くぐもった声と共に男の体が宙を舞い、落ちる。


 ちょうど、俺が黒タイツの一体にナイフを刺しているところだった。


 飛んでくる男を避けるために、俺は慌てて退避。死にゆく黒タイツから無理な角度でナイフを引き抜いた結果、使い捨て前提のそれは壊れてしまった。

 正蔵は黒タイツを巻き添えにしつつ倒れ、それがクッションとなったのか大したダメージを受けた様子もなく立ち上がり、俺を見つめた。


「武器を持て。ぶっ殺してやる」

「女の子に勝てないからって、俺と戦おうとするんだな」

「ふざけやがって!」


 とりあえず挑発を重ねたら、奴はあっさり乗った。


 こちらに踏み込んで殴りかかる正蔵。俺は壊れたナイフを投げながら後ろに下がった。

 投げナイフ自体に意味はなかったけど、代わりの武器を持つには邪魔だったから。


 足元に落ちていたのは、さっきフィアイーターが投げた音符。


 青銅製のそれはずっしり重く、フィアイーターが投擲武器にする大きさながら、俺が大きめの鈍器とするのにも合っているサイズだだった。

 音符の真っ直ぐな箇所を掴んで、玉になってる箇所を上にして構える。


「それは……棒じゃない」

「ああそうだな。お前を殺すのに、師匠から習った棒術なんかいらないって意味だよ」

「殺す! 殺してやる! 棒を使え! 使わないと殺す!」

「やれるものならやってみろ雑魚ホームレス!」


 冷静さを完全に失った正蔵の拳はブレブレで、しかし素早さはあった。それでも俺に避けられる程度の速さしかなく、後ろに下がりながら音符を振って拳を殴る。

 ゴンと重い音。フィアイーターになっても痛みは感じるのか、正蔵はうめき声をあげた。痛がってる暇はないぞ。俺は踏み込んで、今度は奴の顔面をぶん殴る。


「あがっ!? あ、あ……」

「死ね! ホームレス!」


 もう一撃、すれ違いざまに殴った。


 ひっくり返った正蔵は、なんとかすぐに起き上がったけど。


「ぼ、棒だ。本気で戦え……あの男を超えさせろ……俺の方が上だと……」

「無理だよ」


 この男が、過去の屈辱を乗り越えるためにフィアイーターになったのは察している。

 けど、その願いを叶えるつもりはなかった。


「棒を振り回すまでもなく、お前は俺に勝てない。勝ててない。怪物なのに、人間に勝てない。それに……お前は棒術で死ぬことはない」


 俺がそうさせないから。師匠の技で死ねば、それはそれで正蔵にとっては本望だろう。一瞬でも、憎い相手の技と渡り会えたという実感が得られれば幸せを味わえるだろう。

 そんなものは、この男にはもったいない。


 空を切る音と共に、正蔵の膝を矢が貫いた。崩れ落ちる彼の頭部に黄色い影が迫る。


「あんたのやりたい戦い方なんか! 絶対させないから! あとみんなただいま!」


 公園を一周して市民たちを助けた後のライナーが、正蔵の頭に飛び膝蹴りを食らわせる。

 首が折れたような音と共に、正蔵の頭が大きく傾いた。もちろん、それで死ぬ体ではない。正蔵は逃げるようにして魔法少女たちから距離をとりながら首の位置を戻す。


「逃げんじゃねえ!」

「そう! 悠馬! じゃなかった覆面くんと戦いたいなら! まずはわたしたちを倒してからにしなさい!」

「わたしはどっちでもいいけど! あっちの方が矢が刺さるから好きだな!」

「ねえ! 魔法少女の誰かこっちも手伝ってくれないかしら!? ぎゃー! 音符! あの! ねえ! 利き手復活してる! ハンターもう一回レールガン撃って!」

「無理です! 一発ずつしか撃てないので! 充電に時間かかるので!」


 剣でなんとかフィアイーターを削ってるセイバーだけ、ちょっと焦った様子だった。敵が両手に持ってる音符を一本の剣でさばきながら、なんとか拮抗した戦いをしている。

 敵の方が圧倒的に大きくパワーがあることを考えれば、上出来と言えるのではないだろうか。


「充電したらもう一回撃ってもらえますでしょうか!? てか! ほんと疲れてきたから手伝って!」

「もう少ししたら行きますから!」


 ライナーが返事しながら、正蔵の腹に膝蹴りを食らわせる。逃げようとした正蔵だけど、足を射抜かれているからろくに動けない。さらにもう一方の膝やかかとにも矢が刺さる。


「や、やめろ! 俺の相手は! そいつだ! そいつの棒術なんだ! あいつが相手なら俺は勝てて」

「甘えんじゃねえ!」


 膝立ちになった彼の顎を、バーサーカーが蹴り上げた。


「好きな相手とだけ戦えるとか思ってんじゃねえ! 相手がなんだろうが! オレたちは戦わなきゃいけねえんだよ!」

「やめろ! いやだ! 俺は! このために生きて!」

「てめえは死んだだろうが!」

「ごふっ」


 自分の人生の集大成を迎えるはずが、俺は正蔵の戦いに関わろうともしなかった。魔法少女たちがボコボコにしているから。


 この男は、都合よく自分の願いはすべて叶うと思ってたんだろうな。そんなうまい話があるはずがないのに。

 あると思ってしまったんだ。怪物になった直後に、俺と棒術に遭遇したのだから。運命だと思ったんだろう。幸運がそこで終わったことに気づかなかった。


「俺は。俺、は……。いやだ……。こんな、ことは……認められ……」


 うわ言みたいに、それだけを言い続けている。

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