10-49.今日も鷹舞公園
「フィアイーターは体を鍛えても強くはならないよ。トレーニングなんてできない」
「技術は鍛えられる」
「ふうん」
小娘が。あまり信じていないようだった。
イメージトレーニングというものもある。あの棒術が来たらどう避けてどう反撃するか。それを色々考えることで勝てるようになるはずだ。
「まあいいけど。キエラが、もう少ししたらまた地上を襲いに行くって。準備してね」
「ああ。……準備?」
「心の準備」
あまり話したくはないといった様子で、ティアラは小屋の方に戻っていった。
そうか。男と話すのは苦手か。歳も離れているからな。顔に傷があって怖いと思われたかも。
だが慣れておいた方が利口だぞ。正蔵は不敵な笑みを浮かべてトレーニングに戻った。
少なくとも、不敵だと本人は思っていた。
――――
「さー! 今日も張り切って準備を進めましょう! 文化祭まで時間ないよー! もう完成は見えてきたし、ラストスパートかけていくよ!」
今日も白装束姿の遥が声を張り上げる。この格好気に入ってるのかな。
文化祭までもう少し。教室をお化け屋敷に変える準備もかなり整ってきた。
全体像が見えてきたから、クラスのみんなも細かい指示は必要なく、それぞれに手を動かして完成まで突き進んでるといった様子だ。
その時。
「うわっ! 警報。こんな時にー」
クラス中のスマホが鳴り響いた。フィアイーターが出たと。
しかも、また鷹舞公園に。
ここからはそれなりに距離があるから、みんな警報を消して作業に戻っていく。最近ここばっかりだねー。なんて言いながら。
もちろん、俺たちは行かなきゃならなくなったわけで。
「おい悠馬。どうするんだ。オレたち三人ともここを離れるのか?」
「文化祭の指示出す奴がいないのはまずいかな」
「いや! 大丈夫! るっちゃん! ちょっとこの場は任せていい? わたしたちちょっと大事な買い出しがあるから! ちょっとだけここを離れるけど大丈夫だよね! なにかあったら帰ってくるまで待って!」
と、仲のいいクラスメイトにお願いした。
たしかに、完成形は見えている。みんなそれに向けて突き進んでいるから、少し離れてもなんとかなるか。
遥の車椅子を押して、校舎内の目立たない場所に行く。
「ダッシュ! シャイニーライナー!」
「ビート! シャイニーバーサーカー!」
アンクレットとブレスレット。それぞれの宝石に指を触れながら高らかに叫ぶ。変身は俺の目の前で、あっという間に完了した。
「闇を蹴散らす疾き弾丸! 魔法少女シャイニーライナー!」
「闇を砕く鋼の意志! 魔法少女シャイニーバーサーカー!」
ふたりの魔法少女が並び立っていた。
「車椅子はここに隠しておこっか! 悠馬も覆面被ってナイフも持って! じゃあ行こう! さっさと戻ろう!」
いつになく気合いが入ってるライナーが俺を背負う。それから。
「やあ。僕も連れて行ってくれないかい?」
「先輩! 着替えるの早くないですか? てか、なんでこの場所わかったんですか?」
赤い魔法少女のコスプレをした剛がいた。
この場所に来たのは、俺がスマホでメッセージを送ったからだ。こんなに早く着替えて来るとは思わなかったけど。
「早着替えの練習を繰り返したんだよ」
「へえー。さすが、先輩何でもできますね。バーサーカー、背負ってあげて」
「オレも悠馬を背負いたいんだけど」
「ははっ。僕はモテないみたいだね」
「お前ら、早く行くぞ。帰りはバーサーカーに俺が背負われるから」
「えー!? 帰りもわたしがいい!」
「そういうことなら。行くぜ先輩!」
俺も人のことは言えないけど、アユムも先輩にタメ口聞いているりそして剛も気にしていない。
魔法少女に背負われて、俺たちは現場に向かった。
――――
「あうー! 外回りの帰りで怪物! このまま帰ろうと思ってたのに! しかもまた鷹舞公園!」
「ちょうど近くですね。このまま車で向かいますね」
「うん。麻美お願い!」
会社に向かっていた車が、麻美の運転で鷹舞公園方面に進路変更。
「悠馬くんが来たら、鉄パイプ渡してあげないと」
「あー。あの子本気で、棒術でフィアイーターに勝つつもりなのかしら」
「わかりませんけど、本人はやる気っぽいですねー」
「姉としては、あんまり危ないことはしてほしくないのよね」
「さすがお姉ちゃんです」
「当たり前よ。手伝ってくれるのは嬉しいんだけどねー」
「そろそろ着きますよ。営業車どこかに駐車しておくので、先輩は行ってください」
「行きますかー! ライトアップ! シャイニーセイバー!」
車の中で少し伸びをしてから、愛奈は変身。
「闇を切り裂く鋭き刃! 魔法少女シャイニーセイバー!」
そして車のドアを開けて公園の方まで駆け出した。
「いってらっしゃーい。わたしもすぐ行きますので! あと渋谷さんたちも向かってるらしいです!」
セイバーが手を振って答えるのを見てから、麻美は駐車できる場所を探した。
――――
夕飯の準備をしていたラフィオもフィアイーターの気配を知った。
ソファに座ってテレビを見ていたつむぎも、スマホが鳴ったのに気づく。
「さっさと終わらせよう。つむぎ、変身してくれ」
「うん。もうちょっと」
「おい」
つむぎが見ているのは、国営放送の教育テレビ。夕方に未就学児童向けに放送されている、お母さんと一緒に見るやつだ。
歌のお兄さんとお姉さんが着ぐるみと一緒に遊んだり歌ったりするやつ。その着ぐるみが、つむぎにとってはモフモフだった。
「もうちょっとで終わるからー」
「いーくーぞー!」
「やーだー!」
つむぎの体を引っ張るけど、全く動こうとしなかった。
「だったら! せめて変身しながら見ろ! 終わったらすぐ行けるように!」
「むー! 仕方ないなー! デストロイ! シャイニーハンター!」
目はテレビに向けたまま、つむぎは変身。
「闇を射抜く精緻なる狩人! 魔法少女シャイニーハンター!」
と、高らかに名乗りを上げながらも、テレビを見たままだった。




