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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第10章 秋の学校行事

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10-45.棒術の訓練

 その日から、沖縄にリモートを繋げて棒術の型の稽古を始めた。


 老人である店主にとっても初めての試み。しかし彼も、休みの日は道場で稽古をつけて指導をすることもあるそうだ。

 カメラの前で鉄筋を振る俺に、動きや姿勢や心構えを色々教えてくれた。基本の型以外にも、応用の動きや敵の攻撃のさばき方のパターンをいくつも授かった。


 もちろん、ひとりで棒を振るだけでは技量はなかなか上がらない。というわけで。


「僕が相手になればいいんだね。わかった。どこからでも来て」


 ジャージ姿で鉄パイプ製のトンファーを構えた剛に、俺は鉄筋を持って対峙した。


 本来はどちらも木製の武器なんだけど、俺たちは本気でフィアイーターたちを殺すつもりで戦っている。訓練も鉄製の武器でやらせてもらうことにした。

 俺と同じく、魔法少女ではないけれど戦っている剛と手合わせするのは有意義な経験になった。剛も武器は違えど武術で戦うわけで。


「はあっ!」

「うおっ!?」


 トンファーによる一撃をなんとか棒で受け止めたが、剛のトンファーはふたつある。すぐにもう片方が迫ってきた。


 教えを思い出せ。武器の数は少なくても、こちらにはリーチがある。一歩引いて距離を取りつつトンファーを回避し、さらにもう一歩下がりつつ棒で足を引っかけようとして。


「せいっ!」


 できなかった。こっちのリーチを殺すことを剛が最優先にしたから。俺が距離をとればすかさず詰めてきて、トンファーを当てる。


 この陸上部のマネージャーも普段から鍛えているらしく、筋力も俺より上だったようだ。数度の手合わせで、俺が剛に有効打を打ち込めたことは一度もなかった。


「強いな。勝てない……」

「最初はそんなものだよ。悠馬には向上心がある。慣れれば僕にも勝てるようになるし、フィアイーターにも負けない」

「そう、だな……」

「おい悠馬見てくれ! 似合ってるだろこれ!」


 ガレージから飛び出したアユムが駆け寄ってきた。


 そう。俺たちが手合わせしていたのは、麻美の家のガレージ裏。広い庭があって多少暴れても怒られない場所といえば、ここしか思い浮かばなかった。

 拠点にしてる家だと、長い棒を振り回しながらふたりで戦うには少し狭いから。


 麻美のご家族も気にしていない様子。怪物騒ぎの時に自衛するためと言えば納得した。


 市川家のおじいさん、あの発明じいさんに至っては、若い者が積極的に戦おうとしている事実に大いに感心したらしく、自分も鍛え直すとか言って大変だった。それは俺たちで全力で止めさせてもらった。

 もう歳だから。無茶は良くないから。


 それはそうと、アユムが得意げに腕にはめたブレスレットを見せてきた。

 他の魔法少女と同じように、アユムも宝石をアクセサリーに加工してもらったらしい。


「似合ってるか?」

「ああ。いいな」

「やった。なんというか、アクセサリーって都会って感じするな」

「アユムの地元じゃ珍しかったのか?」

「大人は普通にやってたぜ。けど高校生がやるのは珍しい。つむぎみたいに、小学生なのに宝石付きのヘアアクセとかありえなかった」

「なるほど」

「高校生でもおしゃれするのは普通だよー」


 遥も車椅子を動かしてガレージから出てきた。


 放課後、俺たち高校生メンバーで麻美の家に伺ったというわけだ。

 麻美もいるってことは愛奈も仕事終わりの可能性が高い。珍しく俺より先に家に帰って、ラフィオとつむぎを相手に酒を飲んでいることだろう。


 俺たちも早めに帰らないとな。剛との訓練は実りが多かったけれど。


「悠馬、定期的にここに来て手合わせするかい?」

「したいな……」

「お気持ちは嬉しいですけど剛先輩、これからの時期わたしたちには大切な仕事があるので、忙しくなるんです」


 なんで俺じゃなくて遥が答えるんだ。剛はそれで納得したみたいだけど。


「そうか。たしかにね。文化祭に向けて追い込みの時期だよね」

「はい! 最高のお化け屋敷を作ります!」

「僕も陸上部カフェを成功させたいな。うん、お互い頑張ろうね」

「はい! 頑張りましょう! ……先輩もマネージャーなりに、部のために役に立ちたいんですね」

「当然だよ。それに、カフェに来てくれた中学生には逸材がいるかもしれない。周りへの気遣いができる人とかね。そんな人に話しかけるんだよ。君、心配りが素晴らしいね。陸上部のマネージャーにならないかい?」


 マネージャーもそうやって勧誘してるのか。


「ねえ悠馬くん。その棒だけど、もう少し軽いものの方が良くないかな?」


 機材の片付けをしてたらしい麻美もガレージから出てきた。


「軽いもの?」

「その方が取り回しがしやすいでしょ? 鉄筋でもいいけど、細めの鉄パイプの方が中身が詰まってない分軽い」

「それはわかるけど……中が空洞だと折れやすくないか?」

「逆だよ。中が詰まってる鉄筋より、空洞の方が折れにくいの。応力が分散するからね」


 知らなかった。


「ホームセンターですぐに買えるってことで鉄筋にしたけど、もっといいのがあるかなって。今度一緒に行かない? ホームセンター。大きめで、いろんな種類の資材が売ってるやつ」

「興味はあるけど、麻美に任せる」

「おっけー。太さはこの鉄筋と同じくらいがいい?」

「こんな細い鉄パイプあるのか?」

「あるよー。外径一ミリちょっとの鉄パイプとかもあるから。この太さのものは簡単に見つかります。じゃあ、見繕って買っておくね。あと表面加工もしておく」


 またわからない言葉が出てきたぞ。


「鉄筋も利点はあって、表面がデコボコしてるから持ちやすいの。滑りにくいって言うべきかな。ステンレス製パイプはツルツルだから、表面を粗めに削ることであえてザラザラにして、持ちやすくする」

「なるほど……」

「全部で三本くらい買って、わたしと樋口さんとあの電源車にそれぞれ載せておけばいいかなー。誰か早く駆けつけられる人が悠馬くんに渡す。うん、この方針で行こう」

「助かる」

「いいっていいって。魔法少女のためだよ!」


 俺たちのためにどこまでも協力してくれる立派な大人が眩しかった。


 ラフィオから電話があって、愛奈が寂しそうにしてるから帰ってやれと言われた。

 なんてだらしない大人だろうと呆れながら、俺は遥とアユムを伴って帰路につく。


 剛は、今日は市川邸に泊まるらしい。いいのかそれで。本当に仲いいな、あのふたり。

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