10-36.見覚えのある棒術
だったら、俺が取るべき方法はひとつだ。
「バーサーカー。人間だった物と戦えるか?」
「あ、ああ。やってやる。できるよ」
「頼む。もうすぐみんなも来るはずだから」
「おう! やってやる! うおおお!」
「おい! 不用意に動くな!」
バーサーカーが男の方へ突進していく。掴みかかろうとしたが、男はこれをあっさり避けてバーサーカーを殴り返した。
「ぐうっ! やるなおい!」
「もっと考えて動け! ほら横!」
「フィアアアアア!」
「うお!?」
横から銅像が迫ってきて、バーサーカーは慌てて避けた。そこに男が回り込んできて、回し蹴りを食らわせる。
「あだっ!? くそっ! 二対一とか卑怯だぞ!」
「いや、それは卑怯じゃない」
もうすぐ、俺たちは複数の魔法少女でこいつらを袋叩きにするからだ。
もちろん、今の時点でバーサーカーが負けるのを見ているわけにもいかず、俺はナイフを展開して戦いに乱入た。
銅像にはさすがにナイフは通らない。だから男の背中を狙った。
バーサーカーを挟むようにして立つ銅像と男。それを見ながら俺はジリジリと男の背後に回り込む。
「小僧。無茶はするものじゃないぞ」
「っ!」
もちろん、そんな狙いはフィアイーターである彼にはお見通し。俺が数歩接近した時点で男は振り返って向こうからも接近してきた。
こちらに迫ってくる拳を後ろに避ける。が、踏み込む速度は向こうの方が上。逃げ切れない。
だからこちらから向かう。姿勢を低くしてナイフを構え、相手の懐に潜り込みながら腹部に刺す。
同時に、ドンという強い衝撃。人間とぶつかるよりずっと痛い。それに抵抗することなく、転がりながら素直に跳ね飛ばされて距離を取る。
「痛えな……」
腹にナイフが刺さったままの男は、大した痛みなど感じていない様子でこれを引き抜き、地面に落として踏みつけた。
一撃で折れる。もったいない。使い捨て前提の武器だからいいけど、一応は麻美が一本一本手作りしてくれたものなんだぞ。
ナイフを抜いた跡に、血は見当たらない。服には穴が空いているのに、傷はゆっくり塞がっているようだった。
「本当に怪物になったんだな。なあ。キエラがお前を怪物にした理由はわかった。じゃあ、お前はなんなんだ? なんのために怪物になった?」
「お前に教えることじゃない!」
ああ。流れ弾で死んで、キエラが面白がって復活させたとかじゃないんだな。こいつにもそれなりの目的がある。たとえ教えてくれなくても。
時間稼ぎの無駄話が好きなタイプではないらしくて、男は再度迫ってきた。後退るようにして距離を取る俺に対して、奴はパンチを繰り出す。
正直に言えば、あまり腰の入ったパンチとは言えなかった。動きは素人だと思う。けど、身体能力が大幅に上がっているから驚異だ。
後ろに下がりながらパンチを手のひらで受ける。腕に強い衝撃。けど、それでさらに距離をとることができた。
男はさらに蹴りと拳で畳み掛けてきて、俺はなんとかそれをさばいている状況。
後ろに下がりながらだから、フィアイーターと戦ってるバーサーカーとの距離がどんどん離れていってる。というか、公園の敷地から出て駅の方へ向かっている。
幸い、バーサーカーは単身でフィアイーターを相手に健闘しているけど。それ以上に殺意の強いフィアイーターに生身で戦っている俺がピンチだった。
攻撃をさばく腕の痛みも、耐えるのが辛くなってきた頃だし。
武器が欲しくなってきた。
ふと、道路沿いに置かれているカラーコーンと、それを繋ぐ黄色と黒のバーが目に入った。習った棒術をさっそく使うか。
咄嗟に掴んで、男の一撃を回避しながら踏み込んで、棒で奴の足を払う。
「なっ!?」
男は大きくバランスを崩して地面に手をついた。頭部の位置が下がる。俺はすかさずそいつの顔面を蹴り上げた。
手応えはあった。男はもんどりうって後ろに倒れ、しかしすぐに起き上がって俺を睨みつける。
「貴様……」
一発してやられた、というだけではない恐ろしいほどの憎悪が、彼の目から見て取れた。
なぜかは不明だけど。
「その棒術をどこで学んだ!? 誰に教えられた!?」
そして、地面を蹴って猛烈な勢いで肉薄。咄嗟にバーを構えたけれど、戦闘用に作られたわけでもないそれは男の拳を受けて真っ二つに割れた。
そのまま男の手が俺の胸倉を掴んで高架を支える壁に押し付けた。
「言え! 誰だ!? ここの近くの人間か!?」
「お前がさっき言ってたこと、そのまま返してやるよ。お前に教えることじゃない」
痛みに耐えながらも笑みを浮かべて余裕を装い、言い返す。
残念ながら覆面のせいで笑みは見えなかっただろうけど、馬鹿にされたことはわかったのだろう。
「言わないなら殺すぞ!」
本気の殺意のようだった。奴は片手で俺を壁に押し付けたまま、拳を振り上げる。
直後、俺を押さえていた方の腕を何かが貫き、破裂させるように切断した。
俺は咄嗟にしゃがんで拳を回避。男のパンチはコンクリートの壁を打ち、ヒビを作った。
「なんだ……?」
肘の先で途中から無くなった片腕を見てから、男は周りを見回した。当然のように血は流れておらず、既に再生が始まっている腕に大した興味はない様子。
古い電源車の上で、青い魔法少女がこっちにレールガンを向けていたのが見えたことだろう。ハンターは既にレールガンを手放して、自力で作れる弓に切り替えて男を狙う。




