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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第10章 秋の学校行事

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10-29.正蔵という男

 黒タイツたちも消えたはずだから、セイバーもすぐに来るだろうと思ったけれど、違ったようだった。


「また、ホームレスがフィアイーターもどきになった。セイバーはそっちに行ってるわ。ラフィオ、あなたの見解を聞かせてほしいの」

「……わかった。ハンター」

「うー……」


 不満そうだけど、深刻な自体が起こったことは把握していた。


 小さくなったラフィオを抱いたハンターが、樋口についていく。

 前と同じ。ブルーシートに囲まれたスペースに、ホームレスが横たわっていた。


「人を殺して普通のコアを埋め込んだんだ。で、失敗した」

「確認だけど、どうするべき?」

「殺すしかない」

「そう。わかったわ」


 この前と全く同じ手順で、セイバーはホームレスの体を裂いてコアを砕いた。


「気持ちのいいことじゃないわね」

「ええ。警官の力で処理できるなら、あなたたち民間人に辛い気持ちをさせなくて済むのに」

「気にしないで。わたししかできないことだから。けど、もうしたくはないわね」

「対策はするわ。キエラがこの公園で二回に渡って同じことをしたのには、理由があるはず。ここのホームレスから聞き込みをするわ。狙いが見えてきたら伝える」

「ああ。頼んだ。僕たちはもう帰るとするかい?」

「送って行きますよ。電源車で」


 ブルーシートをめくって、平気な顔で澁谷が入ってきた。関係者だからいいんだけど、警官が守ってる領域に堂々と入ってくるマスコミというのも、かなりの度胸だ。

 電源車で家まで送られるのは、ちょっと目立って恥ずかしい気がする。けどいいか。車は車だ。


「帰り、どこか寄っていきますか? 夕食とかお酒を買うとか」

「あー。そうね。お願いしていいかしら。……飲まなきゃやってられないから」

「わかりました。いっぱい飲みましょう。わたしもお付き合いしますよ」

「ほんと? いいの? でも澁谷さん仕事は?」

「魔法少女の皆さんに寄り添う以上の仕事はありませんから」

「そう。ありがとうね」


 ホームレスの遺体を見た澁谷に言われて、セイバーは少し表情を緩めた。


「帰ろうか。セイバー、夕飯は何食べたい? なんでも作ってやる」

「え? いいの? ステーキとか」

「ああ。いいとも」


 それくらい贅沢させてやるべきだ。



――――



 沖縄の那覇市内のホテルに入った俺に、樋口から電話がかかってきた。

 フィアイーター出現の顛末についての報告だ。


 同じ部屋になった男子たちが、女子の部屋へどう訪れるべきかを真剣な顔で話し合ってるのを横目に、窓際でスマホを耳に当てる。


「そうか。姉ちゃんは平気そうか?」

『とりあえずはね。今夜は深酒間違いなしだけど』

「仕方ないか」


 フィアイーター化してしまったとはいえ人間を殺したこと、引きずるだろうから。


『帰ったらあなたも慰めてあげなさい。それはそうと、沖縄もちゃんと楽しむこと。わかったわね?』

『ああ。わかった』


 心配になったから帰る、なんてことは愛奈も望んじゃいないよな。

 うん。わかってる。



――――



「へえ。あなた家を持ってるの。つまりホームレスじゃないってこと?」

「いや。俺の家じゃない。勝手に住み着いているだけだ」


 声をかけてきた男をエデルード世界に連れてきたキエラは、彼の身の上を聞くこととなった。


 彼は名を、正蔵と名乗った。姓についてはどうでもいいと言って、教えてくれなかった。どうせもう不要なものらしい。

 歳は五十代半ばほど。


「ふうん。じゃあ、やっぱり正確にはホームレスなんだ。空き家に勝手に住んで家にしている。それから……宿としてホームレス仲間に提供している」


 ホームレスたちも、雨風のしのげる場所で寝たい日もあるだろう。粗末ながらも布団がある場所で寝たい日も。


 正蔵は、あの公園の近くにある幽霊屋敷と呼ばれている家を宿代わりにホームレスたちに貸して金を稼いでいる。


 と言っても、料金は格安だから大した儲けにはならない。日銭を稼ぐ手段が限られているホームレスだから仕方ない。現物払いにも対応しているそうだ。

 それでも楽に稼げる手段ではある。


 あとは、時々やる日雇い労働がこの男の収入源だ。


「なるほどねー。肉体労働してるから、そんなにマッチョなんだ」


 金がないと体を鍛えるのも難しい。キエラにはよくわからないことだけど、プロテインとかいうのを飲まないと筋肉はつかないものらしい。

 そんなものを買うお金は、この男にはないだろう。けど引き締まった肉体はいかにも強そう。


「それで……あなたがホームレスになった理由はなに?」

「大した話じゃない。世間と関わるのが嫌になったからだ」

「ふうん。もっと詳しく教えて。いいでしょ? ねえ」

「……」


 見た目はずっと年上の男。キエラはそんな相手にも一切物怖じせずにニコニコと笑顔を向けて尋ねる。


 正蔵が少し怖い顔を見せたのを受けてティアラの方は慌てて、キエラを止めるべきかと考えたようだけど、その心配は無用だった。


「荒れて暴れて、警察にパクられて、まともな仕事ができなくなった。それだけだ」

「なるほど。ま、もうちょっと具体的なことはもう少し仲良くなったら聞こうかしら。つまりあなたは、この世界や街に恨みを持ってるのね?」

「世界……ああ、そうかもな。世間と言うべきか」

「どっちでもいいわ。それをぶち壊して、好きなように暴れる力がほしい。フィアイーターみたいなね」

「くれるのか?」

「ええ。あげてもいいわ……ああそうだ。ティアラの意見も聞かなきゃね。ねえ。この男、仲間に引き入れてもいいと思う?」

「ええっと。いくつか確認させて。正蔵さんが使ってる幽霊屋敷って、元はあなたの家……とかではないの?」

「違う。他人の家だ」

「そっか。あなたがホームレスになった理由は、幽霊屋敷と関係あるの?」

「……俺には倒さなきゃいけない奴がいる」


 少し、深刻そうに口にした。

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