10-28.モフモフ視線誘導
「フィアアアァァァァ!」
「うるさい!」
「ねえラフィオ! やっぱりこいつ矢が刺さらない!」
「だろうな! セイバーが来るまで僕が押さえつけるから、ハンターは援護してくれ!」
「援護ってなにするの!?」
「周りの黒タイツをなんとかしろ!」
ぴょんぴょんと跳ね回りながら大学病院の方へ行こうとするフィアイーターを、ラフィオはなんとか止めようとしていた。
銅像でできた敵の体は矢が刺さる余地がない。あの硬そうなスカート含めてだ。
黒タイツが何体かラフィオの進路を妨害しようとしてるから、それはハンターに任せる。そうじゃなくても、ラフィオひとりでこいつを止めれるか微妙なところだ。
このフィアイーター、素早かった。身軽な動きだし、ラフィオを敵としてしっかり認識していた。こちらから目を離さず、捕まらないように適切に距離をとっていた。
広い緑地だから、壁際に追い詰めるのも難しい。進路方向に先回りしても、向こうもそこから逃れるのは容易。ハンターの矢も効かないと割り切っているのか、避けようとしない。
周りの黒タイツは既に排除できたけど、フィアイーター本体はどうしようもなかった。
「フィアァァァァァァ!」
「あの叫びがむかつくんだよな……」
「そうだ! いいこと考えた! ラフィオあいつの横に回って!」
「いいけど! ハンターが僕から降りて二手に分かれて追いかけた方が良くないか!?」
「やだ! ラフィオから離れたくない!」
「本当にこいつは!」
とりあえずハンターに言われた通りにする。
フィアイーターの前ではなく横につくようにする。もちろん奴は捕まらないように、ラフィオから十分な距離をとって公園から出ようとしていた。
ハンターはラフィオの上で弓を引き絞っていて。
「あ! 見て! あそこにすごいモフモフがいる!」
「フィア?」
何もない方向を見つめて、そんなことを言った。
敵の注意を逸らすためのフェイクだ。にしても、モフモフで引っかかるのはハンターくらいだろうと思ったけれど、すごいモフモフという謎の概念にフィアイーターも気を引かれたらしい。
どうせ矢を射られても刺さることはない。そんな油断から、フィアイーターの注意が逸れた。
この前のお化け屋敷で学んだことだ。なにかきっかけがあれば、人は視線を誘導されてしまう。フィアイーターでも同じらしい。
何もない方向を向いたフィアイーターに、ハンターは矢を射る。正確には、走っているフィアイーターの進行方向の地面に。
銅像には矢は刺さらなくても、地面になら刺さる。よそ見をしていたフィアイーターは、刺さった矢に躓いて大きく転んだ。
「ラフィオ今!」
「わかった!」
地面を蹴ってフィアイーターに急接近。そして銅像の体を抑えつけた。
「次は!? セイバーが来るまでこのままか!?」
「そうするしかないと思う!」
「ふたりとも! レールガン来ました!」
澁谷の声が聞こえた。公園の外の道路に古めかしい電源車が停まっていて、そこから出た澁谷が駆け寄ってきた。
「ハンター! 僕が押さえつけている間にこいつを撃て! 頭をふっとばしてしまえば少しは動きも抑えられるだろ!」
「えー。でもそれ、ラフィオから離れるってことだよね?」
「少しの間だから! 僕はひとりでレールガン撃ってくれる魔法少女が好きだな!」
「え? 好き!? 後でモフモフしていい?」
「いいよ! 夕飯作った後ならな!」
「わかった行ってくる!」
本当にこいつは。
ラフィオの上から降りたハンターが電源車に駆けていく。充填はすでにしている様子で、すぐに撃てるはず。
「こいつ! 暴れるな!」
「フィアアアアア!」
本能で危機を察したフィアイーターが暴れた。ラフィオは仰向けになったそいつの胴体に前足で体重をかけつつ、ハンターの射線を開けるために首を上げた。
一瞬、電源車の屋根でこちらに狙いを定めるハンターの姿が見えた。立膝をついて銃口を向けるている彼女は、少し狙いが逸れれば弾丸はラフィオを貫くことだろう。
けど、心配することではない。
直後、超高速で放たれた弾丸がフィアイーターの顔に直撃。顔面が半分ほど吹っ飛んで、開いた大穴の周囲は大きくめくれ上がった。
顔が大きく変形したのに咆哮を上げ続ける奇妙な生物は、それでも痛みは感じているらしい。一層強く暴れていた。
その姿を覗き込んだラフィオは、穴の中にコアの存在を見つけた。
「ラフィオー!」
「ハンター! コアがあった! 射抜け!」
使い終わったレールガンを放り出してラフィオの方に戻ってきたハンターに呼びかける。
ハンターはすぐさま弓を構えて、コアに向かって射た。
フィアイーターが黒い粒子となって消滅していくのを確認。頭が吹っ飛んだ銅像へと戻った。
これなら頭の部分を復元すればいいだけだし、修復は簡単かな。
「ラフィオー! ラフィオラフィオラフィオー!! モフモフー!」
「おいこら! 離せ! 抱きつくな!」
「さっきモフモフさせてくれるって言ってた!」
「夕飯の準備してからって言っただろ!」
「ねえ! 今日は疲れたしみんないないし、夕飯は外で食べない!? それかデリバリーとか!」
「僕に夕飯作らせず直接モフり続けるつもりだな!?」
「モフモフー!」
「やめろ! おいこら! 強く抱きしめるな! あああああ!」
「ふたりとも楽しそうね。ちょっとこっちに来てくれる?」
「このモフリストを剥がしてくれたら行く」
覆面をしたままの樋口が、少し呆れた口調で話しかけてきた。




