10-26.沖縄のモフモフ
「きれいだね、鍾乳洞」
「ああ。ロマンみたいなのを感じる。ずっと前から少しずつ、この形が作られてきたんだな」
「刺さったら痛そうだね」
「うん。刺さりはしないと思うけど」
「これがフィアイーターになったら、なんかトゲを飛ばしてきそうじゃん?」
「そうか……そうかもな」
この鍾乳洞全体がフィアイーターになるという、ありえない光景を想像しながら見物を続けていると。
「あ! ハブ対マングースの時間だ! 行こ!」
「はいはい。わかったから」
車椅子を押して、少し急ぎ気味に向かう。
飼育員のお姉さんが、ハブとマングースの関わりの歴史や沖縄の豊かな自然について解説してから、ハブとマングースが競争をするというショーだ。
正確に言えば競泳だった。細長く半分くらい水で満たされた水槽がふたつ、上下に並んでいた。
元は駆除する側とされる側の役割を押し付けられていた動物たちが、今は必死に泳いで勝負をつけていた。
平和だからいいのかな。
「なんか、地味だね」
「そんなこと言うな」
「でもほら。わたしたち普段戦ってるじゃん。競争で勝負をつけるの……やっぱり地味だなって」
「平和なのが一番なんだよ」
「そうだけどさー。お、ハブが勝った。水中じゃモフモフは不利かー」
スマホでパシャパシャ写真を撮る遥も、地味とか言いながら楽しんでるようだった。
その後、ハブ資料館や沖縄の動物を飼育してる施設を見て回る。
モフモフを撮るという遥の目的には一定の意味があった。モフモフ限定でも、見るべき物に注目できるという点だ。
沖縄にはこういうモフモフがいると、あとでつむぎに教えてあげるという意味で沖縄には詳しくなっていく。
今夜の食事や明日の海にしか関心がない奴らよりは、ずっと楽しんでいると言えよう。
「なるほど。これがヤンバルクイナ……なんか、思ったより地味だね」
「おい」
「だって。体の色の基本が茶色じゃん? 南国なんだからもっとこう、レインボーな感じの色合いでもいいと思うんだよね」
「それは偏見だ」
「そうだぞ遥。それに、この鳥だって綺麗じゃねえか。赤い足とくちばし。白い模様。オレは好きだな」
「んー。確かに、ワンポイントでおしゃれしてる感じはするね。茶色いのはよく見れば羽だけで、体は縞々模様なんだ。うん、ファッションセンス実はあるのかも」
鳥のファッションセンスってなんだ。
「悠馬よりはあるよね」
「俺を鳥と比べるな」
「あははー。お土産にヤンバルクイナのぬいぐるみ買ってあげよっかー」
「俺も姉ちゃんに何か買うかな」
「お酒とか?」
「未成年だから買えない。仮に買うとしたら肴か?」
「腐っちゃ駄目だから、帰り際に空港で買うとかでもいいんじゃない?」
「それもそうか」
「オレも愛奈たちに何かかうかな。あいつ、酒以外になんか好きなものあるのか?」
「……ない」
「おい」
「実の姉に対して言うことじゃないのは分かってるけど、あいつに酒以外の趣味はない」
「情けない人生だな……」
「毎日必死で働いてるってことだよ」
何か、人生を豊かにするものを買ってあげよう。地元メーカーのおしゃれな品とか。そう心に決めた頃、宿泊施設へ向かうバスへ乗る時間となった。
――――
「うー。シーサーにマングースにヤンバルクイナ。みんなモフモフで羨ましい!」
「ぐえー。だからって僕をモフモフするな」
「わたしも沖縄行きたい!」
「無理だやめろ」
小学校を終えて家に帰ったつむぎは、修学旅行の様子を移した写真を見てラフィオを握る手を強くした。
「モフモフしたい……」
「ヤンバルクイナは絶滅危惧種だぞ。かわいそうだから触るな。シーサーも、これはただの着ぐるみだからな」
「シーサーモフモフしたい……」
「だからあれは伝説の生き物だから。というか、そろそろ夕飯作りたいから離してくれないかい?」
「やだ。ラフィオモフモフしたい!」
「まったく。君のモフモフ好きにも……おっと。まずいな」
「どうしたの?」
「フィアイーターが出た」
ラフィオがその気配を察すると同時に、つむぎのスマホも警報を鳴らした。
「しばらく出てなかったと思ってたけど、よりによって今日とは。キエラはなにを考えてるんだ」
「場所は……鷹舞公園?」
スマホを覗き見たラフィオは怪訝な顔を見せた。
前にフィアイーターが現れたのと同じ場所。キエラがこっちの世界に適当にコアを放り投げたら、たまたま同じ場所に落ちた……というのでないなら、意図があることになる。
どういうものかはわからないけど。
「行かないと。愛奈には連絡取れてるか?」
「うん。すぐに行くって」
「樋口には?」
「ふたりで頑張りなさいってメッセージが来た。樋口さんも急いで駆けつけるって。あと澁谷さんも、レールガン一応用意してくれてるよ」
「本当に。遥たちがいないタイミングで出やがって。いる人間で頑張るしかないか!」
「うん! 行こう行こう。モフモフー!」
「おい!」
ハンターを乗せられるように巨大化したラフィオに、つむぎは変身する前から抱きついた。
まったく、こいつは。




