10-23.水着で混浴
水着姿で、周囲との胸囲の格差を改めて思い知らされた上にアユムのバストに圧倒された愛奈は、酒に逃げることにした。
毎晩深酒して体を壊すことなく、太ることもないのが愛奈のすごいところだ。
カロリーが胸にいかないことを嘆くのも見慣れた光景。
「どうせなら海でやったみたいに、バーベキューしても良かったかもねー」
「お。それやりたいな。明日するか?」
「やってみよっか。樋口さんたちも呼んで」
「麻美も来たいって言ってたわね。明日もやるの?」
「はい。澁谷さんにも声かけましょうか」
「あー……それは駄目。たぶんわたしは、今度こそ立ち直れないダメージを受ける」
知り合いの中では一番胸がでかい澁谷との遭遇に、愛奈は今から恐怖を覚えていた。
「んー。アナウンサーがグラビア写真出してるのはよくあることって思いますけど、澁谷さんのはないですねー」
「地方の女子アナだと、やっぱりそういう機会ないんでしょうね」
「そういうものですか。そして残念ながら、樋口さんも澁谷さんも明日は忙しいそうです」
「連絡するの早くない!? で、でも忙しいなら仕方ないわね。澁谷の水着はお預けね」
「でも、家の中ならいくらでも水着で過ごせますから。またいつかやりましょうって返事来てます」
「いつかはやるのね……」
そして澁谷の圧倒的な胸囲に恐れ慄く日を憂鬱に待つことになるのだろう。
そんな沈んだ愛奈の気分は。
「ねえラフィオ。今日は一緒にお風呂入ろうね! 水着だからいいよね!」
食べ終わったつむぎの言葉で急激に上向いた。
「よし! 悠馬わたしたちも一緒に入るわよ!」
「あー! ずるいお姉さん! わたしも悠馬とお風呂入りたい!」
「こ、混浴なんてしていいのか!?」
「水着ならしていいの! 都会じゃ常識だよ?」
「じゃあオレもやる!」
「おいこら」
なんでも都会で片付けるな。
もちろん三人とも譲るつもりはなく、俺は三回風呂に入ることになった。
なんて面倒くさい連中だ。
ひとり目。遥の場合。
「あははー。ごめんね。愛奈さんもアユムちゃんも熱くなってたし、わたしも譲れなくてー」
「遥が一番熱かっただろ」
「そうかなー。そうかもね! あはは!」
狭い浴槽にふたりで向かい合って座る。片足がない分、ものすごく狭いとは思わない。
遥とは、合宿でも一緒に風呂に入った。水着姿も見慣れてる。だから緊張するはずがないのだけど。
「なんか、この前より密着してて、かなり恥ずかしいね」
「ああ。あの大浴場よりずっと狭いからな」
「近さを感じられるって、なんかいいね」
「そういうものか?」
ニコニコと俺の顔を見つめる遥に、首をかしげるしかなかった。
早く上がるという発想は遥にはなかったらしく、そのままゆっくりと時間を過ごす。
「あんまり長く入るとのぼせちゃうけど、しばらくこのままでいたいなー」
「のぼせる心配は俺がすべきなんだよな」
なにしろ三回連続で風呂に入るから。
「まあまあ。悠馬は体が丈夫だから心配ないよ」
「体を鍛えてどうにかなるものじゃないだろ」
「かもねー。じゃあ悠馬、わたしの背中洗ってよ」
「マジかよ」
そんなことまで要求するとは思わなかったけど、遥は本気のようだった。
チューブトップの水着は背中までぐるりと帯状で一周している。多少雑に洗った所で水着がずれる心配はなさそうだった。
「ほら。遠慮せずに。ボディーソープで、直接手で擦って洗って」
「わかった。わかったから」
雑に洗っても水着が落ちないとは考えたけど、遥の肌に雑に触るわけにはいかない。きめ細かくスベスベな肌に優しく触れて、泡を広げていく。
「ん……はあ……」
「エロい声を出すな」
「だって。悠馬の触り方がくすぐったいから。んんっ。も、もっと遠慮なく触っていいのにっ!」
「やりにくい」
「でもっ。んあっ。お姫様抱っことか、普通にやってたじゃん」
「進んでやってたわけじゃないからな。はい終わり」
「えー? もう?」
遥の小さな背中に一通り手を滑らせるのに、そんなに時間はかからなかった。
「終わりだ。流すぞ」
「はーい。ねえ、お風呂から上がったらお姫様抱っこで運んで?」
「お前はひとりで出られるだろ」
普段はひとりで風呂に入ってるわけで。脱衣所に松葉杖が置いてあるし壁や風呂場の手すりを使って割と自由に動き回っている。
「えー。でもー」
「俺は今から、あと二回風呂に入るんだ。余計なことしてる暇はない」
「うー……わかった」
ふたり目。アユムの場合。
「な、なあ。こんなことして本当にいいのか?」
「アユムがやりたいって言ったんだろ?」
「そ、そうだけどさ」
軽く体を洗い流して湯船に浸かる。
その時点で既に、アユムは全身真っ赤になっていた。茹で蛸みたいと言ったら怒るだろうな。
「まあ、俺もちょっとは恥ずかしいからさ。早めに出るか」
「そ、そうだな。いやでも。もう少し一緒にいたい」
「そうか」
アユムが望むなら仕方ない。
俺が目のやり場に困っているのは事実だ。なんというか、アユムの胸にどうしても目が行ってしまう。
胸の膨らみがお湯に浮いている。そんなことあるんだな。でかいとこうなるのか。
凝視するわけにはいかないから、何かあるわけでもないのに斜め上に目を向けた。
「な、なあ悠馬。オレの水着、本当に似合ってるか? なんかさっきからオレのこと見ようとしないけど」
「似合ってる。めちゃくちゃ似合ってる。似合いすぎて……なんか、ジロジロ見るのが恥ずかしい」
「そ、そうか。なんかごめん」
「いや謝ることじゃない。俺もちゃんと見るから」
「なんか、そう言われたら見られるのが恥ずかしくなってきた……」
「難しいな」
「これが都会の感覚なのかな」
「それは違う。よし、上がるか。背中流そうか?」
「せ、背中!?」
「嫌だったらいいけど、遥にはやった」
「そうか! だったらオレにもやってくれ! 遠慮なく!」
「はいはい」
アユムの背中は、遥よりも少しだけ広い気がした。あくまで比較的であって、かわいらしい女の子の背中だ。




