10-22.家で水着
「えへへー。ラフィオっていい体してるよねー。モフモフの時が一番好きだけど、このラフィオもいいよねー」
「おい。触るな」
腹筋が割れてるとかではないが、脂肪分の少なくてスベスベのラフィオのお腹を撫でるつむぎ。
水着は、前に見たのと同じだ。
「わたしも今日、新しい水着買おうかなとは思ってたんだけどねー。アユムちゃんのを選ぶのに忙しくて、そんな暇ありませんでした!」
「オレにこれを着せるために自分を犠牲にするなよ」
「でも大丈夫!」
遥の水着も前に見たことがあるもの。レモン色のチューブトップに、パレオ付きのショーツ。
そのパレオを外すことで、ちょっと露出多めの格好になった。印象が少し変わる。
「ね!」
「いや。なにがだ。オレもそのヒラヒラほしい!」
「パレオね」
「なんか都会的な響きだな!」
こいつ、初めて目にするものすべてを都会だと思ってやがる。
「色が合わないから、アユムちゃんはこれ着ないほうがいいよ。アユムちゃんはそのままがかわいいんだよ。悠馬もそう思うでしょ?」
「お? そうだな。アユムのその格好、ちょっと大胆すぎるけど似合ってるぞ。かわいい」
女が普段と違うファッションを見せた時は、とりあえず褒めればいい。ちょっと遅れてしまったけど、しっかり実践した。
「そ、そうか。オレが……かわいい……」
アユムはちょっと赤面している。遥は親指を立てていた。やめろ。なんかムカつくから。
「さーて、じゃあ夕飯作りますかー」
「今日のメニューはなんだ?」
「唐揚げ」
「水着で作るのに一番向いてなさそうな料理だな」
「ちゃんとエプロンするから大丈夫! あと長袖のブラウスも羽織るから!」
その上で松葉杖で体を支えながらの料理を平気でこなす遥は、やっぱり只者ではない。
感心しつつ、俺は愛奈にメッセージを送った。
今夜はみんな水着で過ごすから、姉ちゃんも帰ったら着替えてくれと。
――――
「え? なんで?」
「どうしたんですか先輩」
「悠馬から変なメッセージが来た」
「へー。いいじゃないですか。夏合宿みたいで楽しそう。わたしも行きたいです」
「じゃあうち来る?」
「そうしたいんですけど、今夜はデートの予定があって」
「剛くんと?」
「はい!」
「まあいいけど。未成年者に手だけは出さないようにね」
「大丈夫です。彼、もうすぐ十八になるので」
「だったらいいわけじゃないのよ」
「その気になれば結婚もできますね。わたし、高校生養える立場です」
「はー。うやらましい。わたしも養ってほしい。仕方ない、将来悠馬に養ってもらうために、今機嫌を取りますか」
「先輩も爛れてますねー」
「あんたに言われたくないわよ」
はははと、駄目な社会人が揃って笑い合った。
――――
水着の遥が油はねで火傷を負うことなく唐揚げとその他数品を作り上げた頃、愛奈が帰ってきた。
「うわ。本当にみんな水着だ。わかってるわよ。着替えてくるわね。ビール冷蔵庫に入れてきて」
「悪いな姉ちゃん。付き合わせちゃって」
「いいのいいの。楽しそうだし」
ちょっと笑顔の愛奈が部屋に消えて、すぐに水着に着替えて戻ってきた。
アユムのよりもさらにシンプルな、ピンクのビキニは俺にとっては見慣れたものだけど。
「なんつーか、愛奈って本当に。その、壁なんだな」
愛奈の胸元を見たアユムが、かなり遠慮がちに言った。
「な、なによ! 確かに少し小さいかもしれないけど! まだ普通の範囲じゃない!」
「いや。普通ではないっていうか……」
「てか! あんたが大きすぎんのよ! なによこのメロン!」
「うあぁっ!?」
愛奈がアユムの両胸を鷲掴みにして揉みしだく。
「これみよがしにぶら下げて! 年相応の大きさにしなさい!」
「なんだよ年相応って! てか好きでこうなったんじゃねえし! あと年相応じゃないのは愛奈もだろ!」
「そ、そんなことないもん!」
「つむぎの方がまだ大きいぞ!」
「くあー! 小学生に負けてる!」
ショックな事実を突きつけられた愛奈が崩れ落ちた。アユムの胸を掴んだまま。
「あ! こら水着引っ張んじゃねえ!」
水着がずれかけて、俺は慌てて目を逸した。まったく油断ならない。
「おっぱいの大きさなんて別にどうでもいいよね。ラフィオはわたしのこと、そこで好きになったわけじゃないよね?」
「まあそうだけど」
「えへへー」
「お前は僕がモフモフだから好きになったんだよな。だから、見た目がどうでもいいって話じゃないんだけど……まあいいか」
ソファに並んで動物が出てくるバラエティ番組を見ながら、いちゃいちゃしてる様を見せつけるちびっ子たち。テレビを見ながらも、こっちの話には耳を傾けているらしかった。
器用だな。そしてつむぎは隙あらばくっつこうとする。
仲がいいなあ。
「ほら。みんな食うぞ。唐揚げが冷めないうちに」
「ううっ。悠馬、お酒注いで……」
「はいはい」
「わたしの胸、これから大きくすることできるかしら」
「無理だな」
「豊胸手術も辞しません」
「やめておけ」
なんかそれされたら、愛奈が愛奈じゃなくなる気がする。




