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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第10章 秋の学校行事

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10-20観覧車に二回のる

 観覧車から見る景色はなかなか良くて、俺に妙にくっついてくる遥を除けば楽しかった。

 片足しかないから、乗り降りには体を支えてやらなきゃいけないのはわかる。けど座ってるなら別に必要ないだろ。


「景色を見ろ、景色を」

「でもほら。恋人とこうやってくっつくのも、観覧車の楽しみじゃない?」

「恋人じゃないだろ。特にふたりきりの時は」

「まあそうだけどさー。いいじゃん」

「良くはない」


 やりたいことはわかるけど。


 観覧車を降りたら、アユムがニコニコしながら出迎えてくれて。


「悠馬! 今度はオレと乗るぞ!」

「いや、なんでだ」

「遥とふたりきりで乗ったんだから、オレとも乗らないと不公平だよな!?」

「不公平ではない」

「いいから行くぞ」

「わかった。わかったから引っ張るな」

「ちょっ! アユムちゃんなんで!?」

「まあまあ遥さん。アユムさんのためだと思って」

「僕たちの子守を押し付けて、自分だけいい思いをするのは許されないぞ」

「そういうこと!? うまくやれたと思ったのに! わーん!」


 追いかけようとする遥の車椅子を、ちびっ子ふたりが押さえつけていた。

 そういうことか。それは遥が悪いな。



 だから俺は、二回目の観覧車に乗ることとなった。なんでこんなことに。連続して乗ってもそこまで面白いものじゃないぞ。


「おい悠馬。家ってどのあたりだ?」

「あそこかな」

「あの線路が、近くの駅もあるやつなんだろ?」

「あー。そうだな。あの線路の向こうに駅があるはずだ。……知ってたなら訊くなよ」

「オレにもよく見せてくれ!」

「おい」


 寄りかかるな。胸を押し付けるな。


「これが都会のやり方なんだろ?」

「どこで知った」

「つむぎがラフィオにやってた。都会の小学生は進んでるな」

「あのふたりが特殊なんだよ。恋人だから許されるんだ」

「悠馬は、オレが恋人なのは嫌か?」

「嫌じゃないけどさ」

「だったら」

「同い年の女ふたりから迫られてて、しかも実の姉も俺のこと明らかに狙ってるんだ。本当に彼女なんか作ったら、どう頑張っても面倒なことになる」


 人類の未来が掛かってる戦いの最中だ。人間関係が崩壊するとかで足元をすくわれたくない。


「だったらさ。もしこの戦いが終わったらどうするんだ? 誰かを選んで付き合うのか」


 俺の背中から離れようとしないアユムが静かに尋ねた。


「オレじゃなかったとしても、誰かと付き合うつもりはあるのか?」

「……正直、わからない」


 遥とは恋人ごっこを、とても長くやっている気がする。


 けど本当に付き合うなんて、俺にできるのかな。よくわからなかった。


「そうか。ゆっくり考えてくれ。そしてオレのことも好きになってくれ」

「あー。うん。わかった。アユムを好きになるかは別として、よく考えてみる」

「そうしろそうしろ」


 結局、アユムは観覧車が下に戻るまで俺に体を押し付けていた。地面が近くなればその様子は遥にも見えていたらしくて、降りるとずいぶん立腹していた。


 もう一回乗るとか言い出す遥の車椅子を強引に押して観覧車から離れていく。

 そろそろ空が暗くなってきたな。早めに帰らないと、夕飯を食べられない愛奈が寂しさで泣くかもしれない。


「悠馬さん! お土産屋さん行きたいです!」

「ぬいぐるみ買うのか?」

「はい!」


 いいぞ。俺も愛奈になにか買って帰るかな。




「へー。観覧車でふたりきりねー。しかもふたりと」

「向こうがそう仕向けたんだよ」

「まあいいわ。わたしも同じことするから」

「おい」


 遊園地の売店で買ったクッキーをかじりながら、愛奈は俺に抱きついてきた。


「今日はこのまま夕飯食べよっと」

「やめろ」

「そのままお風呂入ろっと」

「絶対にやめろ」


 なんでそうなるんだ。


 観覧車での一件は愛奈にとっては気に入らないものらしかったけど、だからといって一緒に行きたかったとは言わない。


「あー! お姉さんそんなことして!」

「遥ちゃんたちだけずるいのよ!」


 キッチンから夕飯を持ってきた遥が怒ったような声を上げる。愛奈もすぐに言い返したけど、今日の遥はどこか余裕そうで。ニヤリと笑って愛奈の正面に座る。


「じゃあ、今日のお化け屋敷がどんな所だったか詳しく教えてあげますね」

「え? いやいや。いいから。別にそういうの、大丈夫だから」

「いいんですよ。わたしたちも文化祭の参考にするために行ったんですから。人に教えることで、いい復習になるんです。舞台は十数年に閉鎖された病院で、既に使う人もいなくなったはずなのに、なぜか消毒液の香りが漂っていて。けどよく気をつければ、そこに微かに血の匂いが」

「ひえぇ……」


 耳を塞ぎたいのだろうけど、そうしたら俺に抱きつくことはできない。


 俺と怖い話。両者の間で凄まじい葛藤が繰り広げられているのだろう。


「ゆ、悠馬! わたしの耳塞いで!」

「断る。飯を食え」


 震える愛奈に抱きつかれたまま、俺は夕飯のシチューを口に運んだ。


「あのお化け屋敷、ほんと怖かったね……」

「そうだな。僕にとっても予想外だった」

「外にウサギさんいてよかったね」

「あれは偶然だけどな」


 椅子に座っているつむぎの膝には、昼間慰めてくれたウサギの着ぐるみのぬいぐるみが置かれていた。


「おい遥。ちびっ子たちが思い出して怖がってるから、やめてやれ」

「えー。仕方ないなあ」

「姉ちゃんも俺から離れろ」

「やだ」


 遥の方が聞き分けがよかった。

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